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領土問題の最前線

安倍首相とプーチン大統領との平成28年12月15日、16日の首脳会談は、我が国が実質的に北方領土を放棄し、盗人に追銭の如く3000億円の対ロ経済援助をすることに決まつたものであつたことが、予想通り日増しに明らかになつてきた。

【首脳会談前の同年11月22日に、ロシアが択捉島に新型対艦ミサイルを配備したことに加へて、ロシア政府は、平成30年2月2日までに、同国が実効支配してゐる択捉島の民間空港(ヤースヌイ空港)を、今後は軍民共用とする政令を出した。現在、択捉、国後両島には推定約3500人のロシア将兵が駐留してをり、鞏固な実効支配を一段と強めることとなつたからである。


北方領土問題は、大東亜戦争終盤にソ連を参戦させるための米ソの密約によつて生まれた問題であるから、現在の日ロ二国間で解決できるものではない。ましてや、中共、韓国も加はつた北朝鮮問題とが絡んだ複雑な連立方程式の解を求める状況となつてゐるために、北方領土のみの単独解決は至難の業であり、絶望的である。


そもそも、当初、我が国政府は、北方領土の中に、南千島である国後、択捉を含めてはゐなかつた。

昭和26年10月19日、衆議院の「平和条約及び日米安全保障条約特別委員会」において、高倉定助(農民協同党議員)が、「日本国は千島列島の主権の放棄を認められたが、その千島列島というものはきわめて漠然としている。南西諸島と違って千島列島は大雑把ではっきりしていない。条約の原文にあるクリル・アイランドとはいったいどこをさすのか。」との質問をしたことに対し、吉田首相兼外相は、「その件については、外務省としては終戦以来研究し、日本の見解は米国政府に申し入れてある。後に政府委員に答えさせるが、その範囲については多分米国政府としては日本政府の主張を入れて、いわゆる千島列島なるものの範囲もきめておろうと思う。子細のことは政府委員から答弁させる。」と答弁し、これを受けて外務省の西村熊雄条約局長は、「条約にある千島列島の範囲については、北千島と南千島の両者を含むものと考えております。・・・なお、歯舞と色丹島が千島に含まれないことは、アメリカ外務当局も明言されました。」と答弁したのである。


ところが、昭和31年2月の衆議院外務委員会で、森下圀雄外務政務次官は、「南千島、すなわち、国後、択捉はつねに日本の領土だった。講和条約にいう千島列島の中にも両島は含まれていない。」といふ修正答弁をした。これがそれまで言葉としても使はれてゐなかつた「北方領土問題」の始まりである。これは、同年8月の、いはゆるダレスの恫喝、すなはち、ダレス米国国務長官が、日ソ交渉は4島一括返還でないなら沖縄は返さないと日本に伝達したことと連動してゐる。アメリカとしては、沖縄返還交渉前にソ連との間で領土返還がなされると、親ソ勢力が主導する反米勢力に勢ひづかせて自民党政権が危うくなることから、アメリカが無理難題を押しつけてきたが、同年10月、日ソ共同宣言(平和条約締結後、歯舞、色丹を日本に引き渡す)までこぎ着けたといふ経緯がある。


つまり、我が国政府の当初の見解は、千島を放棄したといふものであり、歯舞と色丹は北海道の一部であつて南千島には含まれないといふものであつた。これは、あくまでも国内での見解にすぎず、ソ連やロシアとの国際的な合意に至つた見解ではないが、歯舞、色丹の二島返還論は、このときから生まれてゐたのであり、そのことがその後の日ソ、日ロの領土問題交渉に微妙な陰を落とす結果となつたのである。


ところで、ロシア連邦憲法に基づき、ロシア国内の土地およびその他の天然資源は、個人、国、地方自治体による所有が認められてゐるが、土地の購入はロシア連邦土地法によつて規制がなされ、実際には、国や地方自治体から土地を購入することは困難である。ただし、建築物の所有者は、連邦法に基づき、これらの建築物の敷地とその周辺地の借地権を購入することができることになつてゐる。


この法制度は、北方領土においても同様に適用されることとなつた。このことは、北方領土が不可逆的にロシア領土として確定してゐることを法整備においても確実となつたことを意味するのである。


そして、現在の北方領土の状況は、ロシア、中共、北朝鮮、韓国の国民が混住してをり、ロシア人以外は、基本的には出稼ぎ労働者や外国人事業家などである。ここに我が国が3000億円の経済協力をしてインフラ整備や土地開発などをすれば、これらの外国人が事業を拡大させることにも貢献することになる。我が国の経済援助を見越して、これに便乗してさらに外国人が流入し続けることになるのである。特に、ロシアは、国連の経済制裁に隠れて、北朝鮮の外貨獲得のための派遣労働者の大量受け入れを行つてゐることから、北朝鮮国籍の者や北朝鮮企業が今後も大量に流入してくると予測されてゐる。


もし、このやうな状況が進んだ後に、仮に、北方領土が我が国に返還されるとなると、これらの者との土地等の権利関係は一体どうなるのか。

特に、国交がなく、日本人の多くを拉致して恥じない犯罪国家の北朝鮮の国籍を持つ個人、法人などが取得した不動産をどう処理するのか。


北方領土が我が国の領土となれば、我が国の法律が適用されることとになるが、日本国内のどこでも同じ待遇を一律に保障しなければならなくなることを、我が政府は認識してゐるのであらうか。


現在の我が国の外国人土地法(大正14年法律第42号)は、その第1条で、政令により相互主義を定めることができるとされてゐるものの、その政令は現在も制定されてゐないので、相互主義が採られてゐないのである。つまり、相互主義とは、相手国において我が国の国民が自由に土地を取得できる法制度になつてゐれば、我が国においても、相手国の国民の土地取得を同じ要件の下に認めるといふ国際基準のことである。

しかし、これが採用されてゐないため、中共や北朝鮮のやうな私有財産制を認めない共産独裁国家の国民であつても、たとへ観光ビザで訪日した者にも土地の取得を認めるといふ亡国的な制度になつてゐるのである。


それゆゑ、国交のない北朝鮮の国民にも、北方領土に存在する既得権の保障を全国均一に認めることとなり、内地のどこの土地でも取得できることを認めざるをえなくなるといふことである。


そして、当然のやうに、北方領土経由で、内地のどこにでも住居を移転し、自由な経済活動をする自由をも認めることになり、済し崩し的に北朝鮮との国交が樹立されることになる。このやうな事態による混乱を回避するためには、政令において相互主義を早急に定めなければならないのであるが、未だにそれがなされない。


この問題は、将来における北方領土返還のための準備として絶対に必要なものであるが、これについての検討を全くしてゐないといふことは、これこそが、そもそも北方領土を完全に放棄して、「ヤルヤル詐欺」で国民を欺し続ける安倍内閣の正体であることの証左とも言へるのである。


しかも、この課題は、将来の北方領土に限られるものではなく、喫緊の課題として無視できない大きな国内問題なのである。


尖閣が中共の領土であると虚偽を並べ立て領海等を侵犯し続ける中共の領土的野心は、尖閣だけではなく、尖閣を含めた沖縄全域であり、さらにその魔の手は我が国全土に及んでゐる。

つまり、中共資本による北海道や沖縄の土地を始めとして全国規模で不動産の爆買ひが進み、土地囲ひ込みによる実質的な中共領土化が行はれてゐるのである。

さらに、対馬が韓国の領土であると妄言を吐く韓国資本による対馬の土地の買ひ漁りによつて、実質的な韓国領土化を狙はうとしてゐる。

これにより、地方自治が崩壊して内地が空洞化し、水源などを独占される問題が浮上してきた。


外国人土地法第4条では、国防上必要な地域における外国人・外国法人の土地取得を禁止し、あるいは制限する政令を定められることになつてゐるが、これも未だに制定されてゐない。


このことからすると、我が国は、「土地安全保障」を放棄した国家であると言はざるを得ない。祖先伝来の土地を粗末に扱ふ民族に将来はない。

土地を放棄すれば、食糧自給もままならない。完全自給を達成しうる計画も立てられないのである。


土地を放棄し、さらに食糧安保も放棄した。

主要農作物種子法が本年4月に廃止されることは食糧安保を放棄する最も深刻な事態であつて、これを安倍亡国政権は断行して、外国資本(モンサント、シンジェンタなど)に我が国を売り飛ばしたのである。


土地安保、食糧安保を放棄した国が、軍事安保だけを偏頗的に増強してはたして防衛できるのか。内部が空洞化して滅びるだけである。また、軍事増強も、単に米国の兵器産業のカモとなつてゐるだけなのである。


このやうな複合的な状況が領土問題の最前線として認識されるべきものであつて、千島の砦は、これらの問題について警鐘を鳴らし続けることに存在意義があると自覚するものである。




辯護士 南出喜久治(平成30年3月1日)

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