國體護持總論
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國家の誕生

ところで、國家の要素となる領土の取得としては、いくつかの原因(權原)による。まづ、「征服」がある。これは暴力的に他國ないしはこれに準ずる地域を支配することであるが、勿論、現在の國際法では許されない。次に、「先占」がある。これは、無主の土地を領有することによつて領土として獲得できるとする法理である。しかし、「先占」より先行する「發見」といふものは、それ自體に獨立した取得權原が認められるものではない。コロンブスの「新大陸の發見」といふのは、そもそも歐米の西進主義の産物であり、現住民からすれば、海を渡つてきた歐米人が後發的に「發見した」だけであり、それがその後の掠奪の契機となつた意味においては、「發見されてしまつた」にすぎないし、しかも、現住民からすれば、決して「新大陸」ではない。このやうに、「發見」だけでは、領有の權原としては極めて薄弱である。

次に、領有の權原としては、「時效」がある。これは、誰に歸屬するか不明であつても、その支配に對して抵抗がなく異議が述べられない状態が相當長期間繼續する場合であり、假に、その取得に至つた事實がどのやうなものであつたか歴史的に確定できない場合においても、その立證責任を免除される效果があるものである。これを援用するのは、前に觸れた「傳統國家」の場合が多い。

次に、「割讓」による領土の取得がある。これは、條約や賣買等の合意により取得することであり、わが國が千島全島、南樺太、臺灣を一般條約及び講和條約によつて取得したことや、アメリカが帝政ロシアから賣買によつてアラスカを七百二十萬ドルで取得した例がある。この売買代金が極めて廉價であつたのは、この時點では地下資源が發見されてゐないためであつた。

さらに、「添附」がある。これは、地殻變動や火山活動などによる自然的なものや、埋め立てのやうに人工的なもとであるとを問はず、領土が擴大した部分についてである。自然的なものは、領土内、領海内のものであれば、當然にその國に歸屬する。ただし、その逆で、地盤沈下による水没などのやうに「滅失」の場合もある。

このやうな原因により領土の得喪が生ずるが、國家自體には、政治的な要因による誕生と消滅がある。それを列擧すると、「國家併合」、「分斷國家統一」、「國家分裂」、「獨立」、「革命」であり、以下にその概要を説明する。

まづ、「國家併合」であるが、幾つかの國家を併合して、一つの國家とすることである。ドイツ帝國(1871+660~1918+660)は、ホーエンツォレルン朝の立憲君主國であり、現在の統一ドイツの領有地以外に、フランスやポーランドの一部なとを領有して國家を併合した。日韓併合(明治四十三年)についても同樣である。いづれも併合を動機付ける根底には民族同祖論があつた。

「分斷國家統一」といふのは、同一民族の統一國家が分斷した後に再び統一する場合であり、統一ベトナム(昭和五十一年)や統一ドイツ(平成二年)などである。

これらに對し、分割方向のものとして、「國家分裂」がある。これは、ハプスブルク家のオーストリア皇帝がハンガリー國王を兼ねる同君連合國家であつたオーストリア=ハンガリー帝國が多くの獨立國に分裂して解體した例がある(1918+660)。それ以外にも、韓半島における分斷國家の成立(昭和二十三年)、東西ドイツの分斷國家の成立(昭和二十四年)、そして、昭和二十七年に、沖繩縣や小笠原諸島などが本土と切り離され、本土だけでわが國が獨立したのは分斷國家の成立として擧げられる。また、米國の建國(1776+660)のやうに、本國(イギリス)の領土の一部が本國からの分離して獨立する場合などもある。それゆゑ、「獨立」とは、國家分裂の一つであるが、それだけではなく、國家として成立してゐない非獨立領域が新たに國家となるといふ場合もある。

そして、最後に、「革命」といふ現象がある。これについては前に詳しく觸れたが、その例としては、國王を排除して共和制國家を樹立したフランス革命(1789+660)、ロシア革命(1917+660)、オーストリア革命(1918+660)、ドイツ十一月革命(1918+660)などである。また、君主制國家のイギリスから、その領土の一部を分離獨立させて共和制國家を樹立した米國の獨立戰爭(1776+660)についても「革命」の範疇に入れることができる。

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