國體護持總論
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國家の承繼

そして、このやうにして、國家(政府)が分離または合邦などによつて新たに誕生した場合、次に直面する問題は、これまでの國家が締結してゐた條約などが新國家(政府)に承繼されるのか、といふ點である。

しかし、新國家と云つても、舊國家との比較において、國家の要件である①恆久的住民、②支配領域、③統治權力(政府)、④對外的獨立の四點のうち、④は共通するとして、①と②が劇的に變化せず、③だけが變化する場合は、新舊國家間に國家としての同一性があると判斷しうる場合がある。これは、「國家」の變更ではなく「政府」の變更といふことになる。

そこで、ここでは、これらのことについて檢討する。

國家は、併合、統一、分裂、獨立、革命などで一定領域の統治に變更を生じて成立するが、それ以前にその領域を統治してゐた國家の對外的な條約關係その他の權利義務は、新たに成立した國家に承繼されるのであらうか。また、當然にそれが承繼されることがあるのか、あるいは、どういふ場合には承繼されないのか、といふことが國家承繼ないしは政府承繼といふ問題である。

これについては、これまで熟した國際慣例はなく、現在『条約に関する国家継承条約』(昭和五十三年成立、平成八年發效)と『国家財産、公文書及び債務に関する国家継承条約』(平成十一年成立、未發效)などがあるが、我が國はこれに未加入である。

ともあれ、被保護國や從屬國の獨立や革命による新國家の成立など、舊國家のしがらみを斷つて獨立したやうな場合、舊國家の地位をそのまま承繼することはできないことである。それゆゑ、舊國家の地位を承繼するか否かは新國家の自由な判斷に委ねられるのが原則であつて、これを「白紙の原則」(clean-slate rule)と呼んでゐる。しかし、自由な判斷によると云つても、新國家の領域内にあつた舊國家政府の財産(債務を含む)は、新國家に歸屬するのは當然である。

ところが、舊保護國及び舊宗主國以外の他國の立場からすれば、從來の國家關係が自ら關與しない事由などで不測の變更を餘儀なくされるといふのは容認できるものではない。特に、統治權力に變更があつたとしても、前に述べたとほり、それが、國家の變更なのか、それとも政府の變更にすぎないのかといふことが不明の場合がある。政府の變更にすぎない場合は、國家自體に變更はないのであるから、國家の同一性があり、當然に舊政府との關係は新政府に承繼されなければならない。つまり、新政府の成立は、國内問題であつて、國家は、他國の國内問題(内政)に干渉してはならないといふ「國内問題(内政)不干渉の原則」があると同時に、その反面として、自國の國内問題(政變)を理由として他國との對外的關係に變更を求めることは許されないのである。それゆゑ、白紙の原則が適用されるのは、從屬國が獨立した場合や革命の場合など、對外的にも、新舊國家の敵對的斷絶が認められるやうな「事情變更」がある場合に限られるのであり、それ以外の場合は、舊國家(舊政府)の地位が承繼されることになる。これを「繼續性の原則」と云ひ、舊國家の締結した條約などの他國との關係は承繼されるのである。

その意味からすると、我が國の場合、徳川幕府において締結されたすべての條約を承繼し、また、大東亞戰爭後においてもすべての條約を承繼したことから、連綿とした國家の同一性と國體の繼続性が認められてゐることになる。

しかし、從屬國が獨立した場合や革命の場合などのやうに、對外的にも、新舊國家の敵對的斷絶が認められる場合を含め、どのやうな國家や政府の變更の場合であつても、領域に關する條約(國境問題など)や確立された國際慣習については、必ず新國家(新政府)が承繼すべき義務があるとされてゐる。このことが、第三章で述べる領土問題などを考へるについての前提となることに留意されたい。

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