國體護持總論
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世襲

このやうに、人に備はつた本能は、個體と集團(社會、國家)の生命を維持するために組み込まれたもので、これから逸脱することは個體と集團の死に至る。本能を蔑むことは、自虐と自滅に他ならない。本能を信じ、本能に從ひ、本能を鍛へて理性を高め、個體と集團を維持しなければならない。理性を高めようとするのも本能の作用である。そして、個體には、自己保存本能を凌駕する種族集團の保存本能があることからして、個體の集團にも自己保存本能があることは、雛形構造理論からも肯定できる。本能に忠實であることが個體と種族集團を維持することであり、そこに規範性の根源がある。つまり、規範國體とは、國家の持つ本能の高次體系であり、これを離れては維持しえない閉鎖的體系としての規範體系であるといふことができる。個體の生命を維持する自己保存本能も、生活の最小單位である家族の存續のために子孫をつくり保護する種族保存本能と種族保護本能、家族の秩序崩壞を防ぐための家族維持本能、そしてさらに、他の家族間との連結と連帶によつて共同社會の擴大と維持をはかり、ひいては國家の維持へと連なる雛形構造が國體の規範性を示唆してゐる。

そして、この國體の規範性の中心に「世襲」がある。つまり、世襲とは、個體、家族、種族集團、國家の「保存」と「維持」の直接的な表現形態に他ならないからである。そして、その「保存」と「維持」は、歴史と文化の傳統の「世襲」、すなはち「傳統國家」の特性でもある。

この傳統國家の特性である「世襲」については、傳統國家の種類によつて相違はあるとしても、少なくともこれらに共通するものは、前に述べたとほり、祭祀制度、家族制度、財産制度、産業制度、相續制度などの「制度」の世襲と、その制度に基づく個々の人々の「祭祀」と「分限」と「財産」を世襲することを意味する。そして、さらに、傳統國家の種類としては、君主制國家と共和制國家があり、その中間形態として貴族制國家があるが、その主な相違點は、「元首の世襲」の有無と態樣にある。

元首の世襲は、歴史的に見れば、部族國家に由來する傳統國家の文化構造の總體である國體の頂點に位置するもので、家族と國家とが相似性を有してゐることから、家族における家長の地位と國家における元首の地位とは相似的關係にある。家族では、戸主權(家長權)が一定の法則(長子相續、末子相續など)により嫡系が定まつて繼承されるのと同樣に、國家においても、その元首の地位は、一定の法則(男系男子など)によつて繼承されるのである。

これに對し、共和制國家にあつては、元首の地位が世襲以外の方法である選擧などで定まることになる。共和制國家の成り立ちは、何らかの理由により君主制國家が君主を失つた場合や初めから君主が存在しない社會が新たに國家を建設する場合などである。元首を定めるのは、對外的な國家代表と國内的な統治者が必要不可缺なためであり、君主制國家のやうに、「世襲」といふ傳統の重みによる信賴の擔保もない。どこの馬の骨か解らない者を選擧によつて元首に指名し、彼に政治を信託することは、嫉妬と不信があるために一定の制約がなされる。それが「任期」と「解任」の制度である。選擧で選ばれる者も、それを選ぶ者も同じ人民同士であるといふ支配者と被支配者の同質性と自同性こそが相互不信の連鎖を生む基盤となる。そして、この嫉妬と不信の感情は「倒錯」が起こりやすい。嫉妬と不信に苛まれる状態を一擧に解消するために、英雄の出現を渇望するのも大衆の常である。それが獨裁を生む濳在要因なのである。

もし、選擧による信託制度(民主制)が最善のものであれば、國家と相似性のある家族においても世襲による家父長(戸主)を廢して、新たに選擧による家父長(戸主)を選定すればよい。息子が家族全員から選擧で選ばれて家父長になり、親や兄弟に對して生活指導することができるのが民主制である。しかし、現實には絶對にさうならないのは、人は、民主制の欺瞞と缺點を本能的に見拔いてゐるからに他ならない。

いづれにせよ、傳統國家は、その種類の如何を問はず、「世襲」制度を基本的な國家の制度的構造の基軸(國體)としてしてゐることだけは確かである。そして、この世襲の中核は、祭祀の承繼であり、それが國體論の基礎となつてゐるのである。

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