國體護持總論
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革命と占領統治

ところで、當然のことではあるが、「革命」とは、國家の對外的獨立(國家主權)を維持してゐる状態が繼續してゐることを前提要件としてをり、あくまでも、國家内の「自律的變革」を意味する。從つて、外部的權力によつて征服されてゐる状態における「他律的變革」を意味しない。それは、憲法制定權力(制憲權、主權)を以て革命を説明する立場においても、革命とは、打倒される舊國家の構成員(人民)による自律的變革を意味するからである。確かに、自律的變革の「革命」の場合と他律的變革がなされる「占領統治」とは、國體の破壞ないしは變更の有無及びその態樣と程度を問題とする限り、その政治變革の現象面は類似してゐる。しかし、「革命」と國體變更を伴ふ「占領統治」とは、あくまでも峻別されなければならない。また、國體の破壞ないしは變更を伴はず、むしろ、國體護持のための政治刷新がなされる「維新(非革命)」の場合、たとへそれが暴力を伴ふものであつても、自律的變革である限り、革命とは區分しなければならない。

この基準によれば、我が國の明治維新や英國の名譽革命は、原則として國體の承繼が維持された點において、「革命」とは對極にある「維新(非革命)」であつて、特に、明治維新においては、それを推進した武士階級が自らその既得權を放棄ないしは剥奪したといふ希有な改革であつたことが浮き彫りになつてくる。四民平等や萬機公論の制度は、むしろ國體回歸に他ならない。

また、大東亞戰爭敗戰後のGHQによる完全直接軍事占領下の改革は、我が國の國體を破壞することを目的とする「占領統治」であつて、皇位の世襲は辛らうじて維持されたものの、明治典範の廢止、宮家の解體、占領典範の強制などの著しい變更と制限が加へられ、さらには、占領憲法が強制されるなど、祭祀制度、相續制度、家族制度、統治制度などの制度世襲と臣民の分限世襲などに著しい變更を加へて國體が破壞されようとした。

つまり、家督制度と戸主制度の廢止、農地改革による土地の没收、財閥解體による財産の没收、極度の累進課税による高額相續の實質的否定などによる著しい制限が加へられたことから、これらの制度世襲と分限世襲などが否定されたも同然であつた。

そもそも、農地改革及び財閥解體は、急進的な共産主義政策の斷行であり、また、過度の累進課税による高額相續の實質的否定についても、前述のとほり、マルクス・エンゲルスの『共産黨宣言』を忠實に實施したことに他ならない。

そして、GHQの占領下において朝鮮戰爭が勃發し、いはゆる東西冷戰構造が極東においても決定的となり、サンフランシスコ(桑港)で調印された『日本國との平和條約』(資料三十六。以下「桑港條約」といふ。)と『日本國とアメリカ合衆國との間の安全保障條約』(資料三十七。以下「舊安保條約」といふ。)によつてわが國は資本主義の西側陣營に組み込まれた。それは、我が國の赤化を防止し、共産主義勢力の伸張を阻止しようとすることがアメリカなどの西側陣營の國益に合致することから、その強い要請を受けて、「修正資本主義」による立法と政策が實施され、共産黨宣言の方策を先取りして採用することになつた。つまり、資本主義から生ずる矛盾を緩和し、富の偏在からくる國民の不滿を共産主義勢力擴大の口實とさせないために、そして、西側陣營の經濟的な要である我が國に共産革命やこれに準ずる暴動、政治的不安定による經濟的混亂を起させないために、富の平準化を短絡的に實現しうる樣々な施策として、資産家を生け贄としてその高額相續を實質的に否定する強度の累進税制度といふ社會主義的施策を推進してきたのである。その税制における施策の中心が、相續税における「強度の累進税」の採用であつた。我が國は、共産主義の施策を採用した西側陣營の堡塁に仕立て上げられた。そして、その堡塁が強固であつたことと、國際經濟の強力な牽引力を持ち續けたことが、冷戰構造の崩壞へと導いた。このことは、ソ連のゴルバチョフ大統領が訪日の際、共産主義が世界で唯一成功した國が我が國であると褒め稱へたことからも、東側から見た國際政治分析として正鵠を得てゐたものである。ところが、冷戰構造の崩壞によつて共産革命の危惧がなくなつたにもかかはらず、我が國は未だに七十パーセントといふ相續税の最高税率の引き下げがなされないまま今日に至つてゐる。これは、高額相續を惡とし、最終的には相續自體を否定する共産主義思想が政策として依然存續してゐることを意味するのである。これに加へて、人が遺言によつて最後に果たしうる自由意志による財産處分を制約し、実質的に私有財産制度と財産處分の自由を制限する「遺留分制度」と、家産維持などの貢献度を全く無視した單純な「均分相續制度」を採用したことによつて、資本の蓄積と家産の形成を阻止し、永代の事業繼続を阻み続けてゐるのである。

すなはち、我が國は、獨立はしたものの、征服期間中に國體破壞のために制定された制度を今もなほ踏襲した「準占領統治」状態にあると云へる。

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