國體護持總論
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占領政策の目的と手法

占領政策の要諦は、東京裁判の斷行と占領憲法の制定といふ二大方針であつて、その目的は、「日本弱體化」であり、軍事、經濟などの國力において再び歐米と肩を竝べることができなくすることである。アメリカは、ホロコーストの目的で我が國に原爆攻撃を行つたのであるから、我が國が國力を回復して再軍備した場合、アメリカに對して核爆彈による「核の報復權」を當然に主張して行使してくるであろうと恐れた。我が國は唯一の被爆國であるから、核攻撃による報復權は我が國だけが今もなほ保有し行使しうる權利がある。それゆゑ、アメリカを含む連合國は、連合國體制を維持し、我が國が核による攻撃を含む報復權を行使できないやうに、軍事産業は勿論のこと、その基礎となる産業すらも認めなかつた(ポツダム宣言第十一項)。

さらに、「その國の青少年に祖國呪詛の精神を植ゑつけ、國家への忠誠心と希望の燈を消すことが革命への近道である」(レーニン)とするやうに、祖國を呪詛させて精神的にも弱體化させるために、過去の歴史を捏造して罪惡感を植ゑ付ける方策を實施した。それは、檢閲、報道などによる徹底した情報操作で洗腦することであり、江藤淳によれば、ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(War Guilt Information Program 略稱「WGIP」)と呼ばれるものであつた。これについては、その存在を疑問視する見解もあるが、假に、それが具體的な計畫として存在を證明できなかつたとしても、以下の事實經過からして、その意圖が繼續して實施されてきたことは明らかである。

情報操作による洗腦については、戰前に普及したラジオ(日本放送協會)、朝日新聞、毎日新聞などのメディアをGHQは最大限に利用した。玉音放送によつてほぼ完全な停戰となつたラジオ放送の持つ威力をまざまざと悟つたGHQは、この威力を最大限に利用して、情報操作による洗腦を行つた。まづ、昭和二十年十二月八日から、GHQは、僞史である『太平洋戰爭史』を全國の新聞に掲載させ、その掲載終了後に中屋健弌譯で昭和二十一年に高山書院から刊行させた。そして、翌九日からは、『眞相はかうだ』といふラジオ番組を放送させ、それが『眞相箱』、『質問箱』と番組名を變更しながらも、昭和二十三年八月まで續けられた。虚僞と誇張により皇軍の殘虐さを植ゑ付けるといふプロパガンダ放送であつた。

また、昭和二十年十二月十五日、GHQは『國家神道、神社神道ニ對スル政府ノ保證、支援、保全、監督竝ニ弘布ニ關スル件』(資料二十九)といふ覺書による指令(いはゆる「神道指令」)を發令し、「大東亞戰爭」などの用語の使用を禁止した。なほ、GHQのいふ「國家神道」とは、一般的に指摘されてゐる戦前の國家神道とは異なるものである。つまり、神道指令の二(ハ)によると、「本指令ノ中ニテ意味スル國家神道ナル用語ハ、日本政府ノ法令ニ依テ宗派神道或ハ教派神道ト區別セラレタル神道ノ一派即チ國家神道乃至神社神道トシテ一般ニ知ラレタル非宗教的ナル國家的祭祀トシテ類別セラレタル神道ノ一派(國家神道或ハ神社神道)ヲ指スモノデアル」と定義してゐるのである。即ち、「非宗教的ナル國家的祭祀」を「國家神道」とし、宗教色が希薄とされる祭禮、儀禮的參拜などが含まれることになる。

そして、さらに、同月三十一日には『修身、日本歴史及ビ地理停止ニ關スル件』(資料三十)といふ覺書(いはゆる「教育指令」)を發令し、修身、日本歴史、地理の授業を停止して教科書を回收し、教科書の改訂を指令したのである。

これを受けて文部省は、翌二十一年一月十一日には『修身、日本歴史、地理停止に關する通達』、同年二月十二日には『修身、國史、地理教科書の回收について通達』、同年四月九日には國史教科書の代用教材として『太平洋戰爭史』を購入して利用させる旨の通達を發令して、GHQの洗腦教育に加擔した。

加へて、GHQは、「3R5D3S政策」を實施し、我が國の家族制度や教育制度などの社會基盤を解體させ、日本の國體を潰滅させることを目論んだ。この「3R5D3S政策」といふのは、 Revenge(復讐)、Reform(改革)、Revival(復興)の「3R」、Disarmament(武裝解除)、Demilitarization(非軍事化)、Disindustrialization(非工業化)、Decentralization(權力分散)、Democratization(民主化)の「5D」、Sex(性解放)、Screen(映畫、テレビ)、Sport(スポーツ、娯樂)の「3S」のことであり、特に、3S政策は、國防意識の低下、愛國心・祖國愛や國家國民の一體感を喪失させるために、欲望と頽廢の娯樂に大衆を動員して感化させ、政治的無關心を增幅させる愚民政策であつた。獨立後の今もなほ、慣性の法則によつてその動きは止まらない。むしろ、欲望と頽廢の傾向は一段と加速されてゐる状況にある。

パンとサーカス(panem et circenses)といふ言葉は、詩人ユウェナリスが古代ローマ社會の世相を揶揄した表現であり、權力者から無償で與へられるパン(食料)とサーカス(娯樂、見世物)によつて、ローマ市民が政治的盲目に置かれてゐることを指摘したものである。この手法は愚民化を促進させるもので、これをさらに徹底させたのがGHQによる占領政策であつた。アメリカは餘剰食料を提供し續けて我が國の食料自給率を低下させ、低俗な娯樂番組や思考停止を來すスポーツ番組などのテレビ放送や、扇情的で獵奇的な多くの低俗娯樂に馴致した大衆を生み出した。まさに釜中の魚の如く、「外面似菩薩、内心如夜叉」ともいふべきGHQの占領政策によつて、祖國の民度は著しく低下して衆愚政治に陥つたのである。

また、一方では、臣民に向けて、プレスコードと日本新聞協會などによる情報操作を行ひ、神道指令や教育指令などによる思想言論統制によつて衆愚政策を推進させ、「民主化」を渇望してゐた臣民に解放軍であるとの幻想を抱かせた。そして他方では、特定の思想と職業などによる差別と排除を公然と行ふ公職追放を斷行し、それによつて實現した實質的な制限選擧制度によつてGHQに迎合する議員と官僚のみを當選させ、あるいは登用し、さらに、同時進行的に、東京裁判による戰犯の處斷を斷行した。さうすれば、占領政策に反對し異議を唱へることよつて不利益な處分や待遇を餘儀なくされるとの恐怖感を植ゑ付けて、臣民全體に萎縮效果を與へる。特に、占領憲法の制定手續と東京裁判の訴訟手續とが同時進行することによつて、その效果は倍加した。そして、マッカーサーが、解任されて歸國した後の昭和二十六年五月五日の米上院聽聞會で「日本人の成熟度は十二歳、勝者にへつらふ傾向」があると評價したとほり、マッカーサーの離日するときの羽田空港では涙を流して萬歳三唱をして別れを惜しむ多くの盲しひたる民が世に踊り、衆參兩議院が擧つてマッカーサーへの感謝決議をしたやうに、「愚蒙の民」と「阿諛の輩」で國内を埋め盡くすことに成功した。これが成功したのは、占領初期に直ちに敢行された強權政治によるものであり、占領統治や占領憲法に携はる政府關係者には徹底した強要によつて占領政策を敢行したことによる。

それは、後にふれるとほり、立法に對しては、昭和二十一年五月四日に鳩山一郎(日本自由黨總裁、衆議院議員)、同二十一年五月十七日に石橋湛山(日本自由黨、衆議院議員)及び同二十三年一月十三日に平野力三(日本社會黨、衆議院議員)をそれぞれ公職追放した「三大政治パージ」をはじめ何百人もの政治家、國會議員を排除したことである。また、行政(内閣)に對しては、萩原徹外務省條約局長の更迭(昭和二十年九月十五日)、内務大臣山崎巖の罷免要求(昭和二十年十月四日)、それによる東久邇宮稔彦内閣が總辭職(同月五日)、農林大臣平野力三の罷免要求(昭和二十二年一月四日)、閣僚中五名の公職追放該當者がゐたことによる幣原喜重郎内閣の改造人事と松本烝治國務大臣の暫定的特免の申請(昭和二十一年一月十三日)、大蔵大臣石橋湛山の公職追放(昭和二十二年五月十七日)などによつて重壓をかけた。さらに、司法に對しても、東京地方裁判所が昭和二十三年二月二日になした平野力三に對する公職追放指定の效力發生停止の假處分決定に干渉して取消させるなど、立法、行政、司法などあらゆる政治事象において、占領憲法の實效性は否定され續けた。それゆゑ、占領憲法の效力を論ずるときは、このやうな、その制定に至る具體的かつ個別的な事實のほか、占領憲法の制定過程の基礎となる占領統治全般がもたらした政治環境や社會状況などの一般的事實、つまり「占領憲法の立法事實」を考察することが不可缺なものとなるのである。

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