國體護持總論
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無效理由その七 占領典範自體の矛盾

占領典範は、新たに國民主權主義に基づいて、「初めて」制定されたものとされる。法規名稱は明治典範と同一の「皇室典範」であつても、これとの連續性を認めたものではない。むしろ、明治典範と「斷絶」したものとして制定されたものである。さうであれば、國民主權における「初代天皇」が誰であるのかといふ特定がなされるべきであるが、それがなされてゐない。先帝陛下(昭和天皇)を暗黙の了解として「初代天皇」として運用したことになるのであらうが、そのことについて占領典範には全く規定がない。

明治典範では天皇の退位はできないのであるが(第十條)、それでも昭和天皇の退位論が叫ばれた状況下で占領典範が立法化されたのであれば、この初代天皇を占領憲法第一條に「この地位は、主權の存する日本國民の總意に基く。」とあるとほり、國民投票によつて承認するか否かが問はれなければならなかつた。つまり、明治典範が廢止されたなら、實證法學の立場であれば、その廢止によつて昭和天皇が退位(廢位)されたことになるので、昭和天皇が改めて國民主權下の初代天皇となるためには、占領典範にその規定がなければならない。ところが、占領典範にはその規定がないために、初代天皇は不在のままとなるはずである。それでも、昭和天皇が國民の總意(國民投票)に基づかずに初代天皇に就任することは、國民主權主義に反する運用がなされたことになつてしまふ。つまり、昭和天皇は、占領憲法第一條に違反した地位であつたといふことになる。

また、國民投票によつても昭和天皇が初代天皇として承認されない場合を想定して、初代天皇のみならず、その後繼天皇の選定に關する規定が占領典範に存在しなければならないが、その規定もない。つまり、占領憲法第二條には「皇位は、世襲のものであつて」との制約しかないのであるから、皇族の中から、天皇の立候補者や推薦候補者を立てて、國民投票(選擧)で選任しなければならないはずであるが、その「天皇選擧制度」に關する規定も占領典範は設けてゐないのである。さらに、國民主權下の占領典範が男系男子の皇統を定めてゐる點は、占領憲法第十四條に違反して性別による差別を認めることになる。

このやうに、占領典範は、占領憲法が有效であるとの前提に立てば、占領憲法の平等規定に違反し、さらに、治癒することが不可能な制度の不備と内容の致命的な矛盾を抱へてゐることを理由として無效であるとされるべきものであつた。

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