國體護持總論
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眞正護憲論の特徴その二

第二の特徴は、「帝國憲法と占領憲法の關係について、舊無效論は、これらが同列の二者擇一關係(一元的關係)であるとするのに對し、眞正護憲論(新無效論)は、これらが上下の包攝關係(二元的關係)であることを明らかにしたこと。」といふ點である。

これは、理論的には第一の特徴に含まれてゐるものであるが、新舊の無效論の相違をより鮮明に理解してもらふために注意的にこの點も特徴として指摘したものである。これは、法律的な觀點といふよりも、いささか情緒的で印象的な特徴である。

つまり、舊無效論においては、帝國憲法をとるか、占領憲法をとるか、いづれかの二者擇一の一元的處理で結論を出して一切の決着をつけたいといふ心情が強い。占領憲法を不倶戴天の敵とするのである。

これに對し、眞正護憲論(新無效論)は、憲法として認めるか否かについては同じ心情に立ち、二者擇一で決着を付けることには人後に落ちないが、憲法としては無效である占領憲法を別の地位と待遇で正式に受け入れてやらうといふことである。これは、決して、同情でも節度のない寛容でもない。大げさに言ふつもりはないが、これは然諾を重んずといふ武士道の發露に似た心情である。

確かに、後述するとほり、舊無效論でも、「占領憲法は占領管理法に過ぎない」といふ「法律説」見解もあるが、それは、どちらかと云へば、正式な法律としての地位ではなく、「法律もどき」と揶揄して引かれ者のやうな待遇をして扱つてゐる。會社の場合を例にとれば、舊無效論は、「占領憲法」といふ名の人物を「代表取締役」の地位として迎へることはできないし、單なる「平取締役」としても、さらには正式の「社員」(從業員)としても認められないとする。少し寛容な考へになつたとしても、役員待遇といふか、準役員と云ふやうな顧問かオブザーバーのやうな程度なら暫定的に認めてやろうといふところである。そして、その暫定的な地位については、會社の創立記念日には失效したり、出て行けとか、辭めろと言ひ渡されたら出て行かねばならない。しかし、これには、他の役員や社員などは黙つてはゐない。占領憲法といふ名の人物がこれまでやつてきた仕事や社員の採用などはどうなるのか、といふ批判である。これが後で詳しく述べることになる法的安定性についての疑問と不安である。

しかし、それに對し、眞正護憲論(新無效論)は、代表取締役として認めないのは當然としても、正式に「平取締役」として認めようといふのである。しかし、外國人の取締役であることから、在留資格の關係や、何らかの理由で國外追放になる場合はその地位を失ふが、取締役はあくまでも取締役であり、會社の決まり事には必ず從つてもらふ。明確にその地位を認める代はりに、その地位と序列を認識してもらふことである。

眞正護憲論(新無效論)とは、占領憲法が講和條約に轉換して成立はしたが、有效要件である時際法的處理がなされてゐないので、未だ發效してゐない状態にはあるが、それは單なる無效ではなく、有效化の可能性があるといふ意味で、有效論と無效論の「中間形態」に位置づけられ、あるいは「廣義の有效論」に分類されうるのであり、無效論と有效論といふ素朴で單純な分類では區分しにくい見解であるといふ「特徴」があるといふことになる。

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