國體護持總論
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眞正護憲論の特徴その七

第七の特徴は、「眞正護憲論(新無效論)は、帝國憲法第七十六條第一項は、『無效規範の轉換』の法理を示す評價規範であることを明らかにし、これによつて、占領憲法は帝國憲法第十三條に基づく講和條約(東京條約、占領憲法條約)として評價され、一連の講和條約群の中間に位置するものであるとしたこと。」である。

帝國憲法第七十六條第一項は、「法律規則命令又ハ何等ノ名稱ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ總テ遵由ノ效力ヲ有ス」と規定する。この規定の性質について、これを「有效解釋の原則」を規定したものとの見解がある。立法者の意思を尊重して、不備や輕微な違反があつたとしても、できるかぎり有效と解釋せよとの原則のことである。これも評價規範の作用に屬するものではあるが、評價規範は、必ずしも有效に解釋せよとの「方向性」が定まつたものではない。成立要件である行爲規範の基準とは別個に、有效か無效かを評價するといふものであつて、「初めに結論ありき」の方便のためのものではない。

あくまでも、「此ノ憲法(ノ趣旨)ニ矛盾セサル」ことを要件として、それが滿たされれば「遵由ノ效力」があるといふことである。成立手續に輕微な違法があつても、憲法に矛盾しないといふことは、成立要件に違反して無效となる「成立違法」ではなく、事後的な評價としての效力要件に違反して無效となる「評價違法」のことである。

 第二章でも述べたが、ポツダム宣言の受諾と降伏文書の調印については、政府の國内手續においてはこれを「條約」としては扱つてゐなかつたことがある。樞密院官制では、「國際條約ノ締結」は諮詢事項となつたゐたが、この諮詢手續がなされず、官報の登載にも、これを「條約」欄ではなく、「布告」欄に公示されたのである。また、關東大震災のとき、樞密院の諮詢を經ずに緊急敕令が發令されたことがあつた。しかし、これらは、成立違法を招くが、國家緊急時のことでもあり「此ノ憲法(ノ趣旨)ニ矛盾セサル」場合であるから、評價違法とはならないのである。

帝國憲法第七十六條第一項において、「何等ノ名稱ヲ用ヰタルニ拘ラス」とされてゐる點は、およそ規範定立行爲において、法形式に「違式の過誤」がありうることを豫測してゐるからである。ここで「違式」とは、本來あるべき法形式に違背するといふ意味であつて、「法律」で定める事項(法律事項)を「命令」の名稱を用ゐて命令として定めたり、「講和條約」として定める事項(講和條約事項)を「憲法」の名稱を用ゐて憲法として定めたりすることなどを想定してゐる。

そして、この規定の解釋としては、假に、形式的には「憲法ニ矛盾セサル」場合であつても、その實質が規範國體を害するなど「憲法(ノ趣旨)ニ矛盾」する場合は無效であり、「遵由ノ效力」はないとすることにある。また、この規定の論理解釋としては、「此ノ憲法(ノ趣旨)ニ矛盾」するものは「遵由ノ效力」がなく、遵守義務はないといふことになる。そして、それにとどまらず、規範國體の復元力として、規範國體と矛盾相克した規範を排除して本來の憲法秩序に復元させるべき名譽ある義務を我々は負ひ、その崇高な權利(祖國防衞權)を行使しうるのである。

ところで、「何等ノ名稱ヲ用ヰタルニ拘ラス」とあるのは、規範は形式名稱によつて階層構造上の序列が定まるのではなく、その内容等の實質に即して序列が決定されるといふことでもある。憲法として無效な占領憲法が東京條約(講和條約、占領憲法條約)に轉換することの實質的な理由については後述するが、この規定は、その法形式の序列においては無效とされた規範が、その名稱とは異なる序列の法形式の規範として成立したものと評價しうるときは、その異式の規範がその有效要件を滿たせば有效と評價してその效力を認めるとの「無效規範の轉換」の法理を示すものである。また、この規定は、前述した一般的な「規範の轉換」の法理を示すものであり、無效規範の轉換のみならず、有效規範の轉換がなされる根據となつてゐるのである。

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