國體護持總論
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領土問題の一般基準

まづ、これらを考察するについて前提となることを整理する。まづ、領土の取得については、前に述べたが、「先占」といふ「無主地先占の法理」があり、これは、傳統的な國際法において、領域支配の權原の原始的取得の一つの方法として、ローマ法の無主地先占の法理を類推し、「いかなる國の領域にも屬さない地域は、それを先占する意志を示し實效的に支配すればその國の領域となる。」といふものである。

しかし、我が國は、神話に煙る傳統國家であり、大東亞戰爭までは現在のやうな複雑な領土問題は起こらなかつた。現在の我が國の領土問題といふのは、すべて大東亞戰爭後のことであり、それまでの我が國の領域については、「時效」の法理と「割讓」によつて全て説明がついたのである。

從つて、現在の領土問題の全般については、大東亞戰爭の停戰前後の事情から判斷する必要があり、かつ、主としてそれで充分である。先占といふ歴史的な事情に拘つて、これに左右されることはない。現に、「西サハラはスペインによる植民地化の時點において誰にも屬さない地域(無主地)であつたか」といふ國連總會の質問に對してなされた昭和五十年の「西サハラ事件」における國際司法裁判所の勸告的意見でも、無主地先占が成立する餘地は少ないと判斷されてゐるので、それ以外の取得原因ないしは喪失原因について充分に檢討する必要がある。

これについて參考になるのは、「パルマス島事件」において昭和三年に常設仲裁裁判所のなした判決である。この判決の要旨において、以下の個別的領土問題に關係のある重要な點を列擧すれば以下のとほりである(文獻316)。

①「國家間の關係においては、主權とは獨立を意味する。地域の一部分に關する獨立とは、他のいかなる國家をも排除して、そこにおいて國家の機能を行使する權利である。」

②領域主權は、その結果として、自國領域内において他國とその國民の權利を保護する義務を伴ふ。なぜなら、領域主權を基礎とする空間の配分は「國際法がその擁護者である最低限の保護をすべての場所で諸國民に保證する」といふことを目的とするからである。

③領域主權は、事情に應じた方法でその權限を表示することなしには國家は右の義務を履行することはできないから、「領域主權の繼續的かつ平和的な行使は、權原としては十分に有效である」

④司法制度が完備した國内法では抽象的な所有權を認めることが可能であるが、超國家的な組織に基礎を置かない國際法では領域主權を具體的な表示を伴はない抽象的な權利とみなすことはできない。

⑤地圖が法律上の證據となるために必要な第一の條件は地理學上の正確性であるが、いづれにしても地圖は間接的な指示を與へるだけで、法律文書に付屬する場合を除いて權利の承認または放棄を意味するやうな價値をもつものではない。

⑥隣接性があることを權原とする主張は、實定法上の規則としての存在を證明することはできない。

⑦ 領域權の行使に對する抗議が行なはれた記録がなければ、主權の表示の平和的な性格は認めなければならない。

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