國體護持總論
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著書紹介

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琉球政府の主權

國民主權主義によれば、沖繩縣民を除外し本土の一部國民のみによつて成立した本土政府の占領憲法が沖繩縣民を直接に拘束することはあり得ない。占領憲法第十條には、「日本國民たる要件は、法律でこれを定める。」とするのであり、占領憲法制定時には、沖繩縣民の全ては參政權を行使し得ないのであつたから、沖繩縣民を占領憲法における選擧民團としての國家機關たる「國民」としては認めてゐなかつたといふことになる。もし、沖繩縣民も占領憲法で主權を享有する「國民」であるとすれば、一部の國民を意圖的に除外した占領憲法は、國民主權によつて制定されたといふことはできず、革命有效説と正當性説からすれば「憲法」としては無效であるといふことになる。

沖繩が領土として返還されただけでなく、アメリカの施政權下にあり制限的ながらも桑港條約の發效直前に三權分立の縣民による自治機關としての琉球政府が設立され、昭和四十三年十一月十一日には初の公選による琉球政府主席が選出されてゐた「琉球政府の國民」が「本土政府の國民」となるといふ現象は、その事情と來歴を異にするとしても、法的には、我が國とその保護國であつた大韓帝國との日韓併合(明治四十三年)に類似したところがある。ところが、後者は、當事國の併合(合邦)條約によつて成立したが、前者は、日米間の沖繩返還協定(性質は條約)で實現したもので、琉球政府と本土政府との併合條約によるものではない。

國民主權論によれば、その主權の範圍は、邦域たる領土的範圍と主權歸屬者たる人的範圍によることになるが、沖繩縣と沖繩縣民がこれから除外され、しかも、制限的ながらも沖繩縣下で「縣民主權」が實施されてきた琉球政府は、主權國家と認められるはずである。それゆゑ、本土政府と琉球政府との一體化は、それぞれの獨立を維持した連邦制か、一方の獨立を否定する吸收併合又は雙方の獨立を否定して新國家を成立させる新設合併(對等併合)のいづれかによることになる。そして、琉球政府は、本土政府との連邦制ではなく、本土政府に吸收される吸收併合を選擇したのであるから、琉球政府としては、主權國家の消滅と縣民が本土政府下の國民になることに關する縣民の合意がなされた上で、本土政府との間で併合條約が締結されなければならない。ところが、そのやうな手續はなされてゐない。ここに占領憲法の國民主權論が抱へる第一の矛盾がある。

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