國體護持總論
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桑港條約

占領憲法第六十一條によれば、「條約の締結に必要な國會の承認については、前條第二項の規定を準用する。」とあり、前條二項には、「豫算について、參議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、兩議院の協議會を開いても意見が一致しないとき、又は參議院が、衆議院の可決した豫算を受け取つた後、國會休會中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を國會の議決とする。」として、豫算と同樣に衆議院の優越性を規定してゐる。

これに對し、法律の場合は、占領憲法第五十九條第一項に、「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、兩議院で可決したとき法律となる。」とし、同第二項には「 衆議院で可決し、參議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多數で再び可決したときは、法律となる。」とし、豫算と條約の場合とその態樣を異にするものの、ここでも衆議院の優越性を認めてゐる。

このやうに、衆議院の優越を規定するのは、參議院よりも衆議院の方が國民主權における一般意志を正確に反映してゐるとの認識によるものだとされてゐるからである。

そして、同第五十六條によれば、第一項で「兩議員は、各々その總議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」とし、第二項で「兩議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半數でこれを決し、可否同數のときは、議長の決するところによる。」として、法律、豫算、條約については、いづれも通常の多數決原理によるものとしてゐるので、國民主權主義の立場からすれば、法律、豫算、條約の規範的價値は同等と認識することになる。

ところで、法律については、同第九十五條で「一の地方公共團體のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共團體の住民の投票においてその過半數の同意を得なければ、國會は、これを制定することができない。」と地方自治特別法に關する規定を設けてゐるが、豫算、條約にはそのやうな規定はない。法律においてこのやうな規定があり、豫算にこのやうな規定がないのは、この規定が特定の地方公共團體に特別の不利益を課す場合を想定したものであつて、歳費の支出を定める豫算により特別の不利益が課せられることは想定しえないからである。しかし、條約の承認の場合はさうではない。現に、桑港條約において、沖繩縣などは米國の施政權下に置かれるといふ不利益を受けたからである。これは法の不備であつて、國民主權主義の立場からすれば、當然にこの場合にも占領憲法第九十五條が類推適用されるべきであつた。ところが、本土政府は、沖繩に對する領土主權(殘存主權)を主張しながら、これを行はなかつたのである。これこそが、前述の安里委員長の問題提起であり、ここに占領憲法の國民主權論が抱へる第三の矛盾がある。

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