國體護持總論
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著書紹介

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占領統治下に制定された法令の性質

これまで、占領憲法及び桑港條約の公布に伴ひ、帝國憲法下及び占領統治下に制定された法令が、獨立回復後にどのやうな效力があるかについては樣々な議論があつた。とりわけ、占領時代の『占領目的阻害行爲處罰令』(昭和二十五年政令第三百二十五號)が講和獨立後にどのやうな效力があるかについての論爭は、これに關する大きな示唆を與へてゐる。そして、このやうな論議に關する有權解釋として一定の見解を示したのが、『日本國憲法施行の際現に效力を有する命令の規定の效力等に關する法律』(昭和二十二年四月十八日法律第七十二號)及び『日本國憲法施行の際現に效力を有する敕令の規定の效力等に關する政令』(昭和二十二年五月三日政令第十四號)であつた。

このうち、法律第七十二號の第一條には、「日本國憲法施行の際現に效力を有する命令の規定で、法律を以て規定すべき事項を規定するものは、昭和二十二年十二月三十一日まで、法律と同一の效力を有するものとする。」とあり、政令第十四號には、「日本國憲法施行の際現に效力を有する敕令の規定は、昭和二十二年法律第七十二號第一條に規定するものを除くの外、政令と同一の效力を有するものとする。昭和二十二年法律第七十二號第一條に規定するものを除くの外、日本國憲法施行の際現に效力を有する命令の規定中『敕令』とあるのは『法律又は政令』、『閣令』とあるのは『總理廳令』と讀み替えるものとする。」とされてゐたのである。

つまり、これらの法令により、「法律事項を規定した命令」を「法律」と、「敕令」を「政令」と、いづれも同一の效力を有するものとし、「ポツダム緊急敕令」に基づき發せられた命令(ポツダム命令)の效力は占領憲法施行後も維持されることになつたのである。

しかし、法律事項を規定した命令は、たとへ帝國憲法第八條の「法律ニ代ルヘキ敕令」である「ポツダム緊急敕令」に基づくものといへども、この緊急敕令は命令に對して法律事項の白紙委任を定めてゐたため、帝國憲法下の解釋においても「絶對無效」である。從つて、この無效な命令を法律とするためには、手續的には、一旦その命令を全部廢止し、その上で同樣の内容の法律を制定せねばならない。しかし、前掲昭和二十二年法律第七十二號は、その法律制定手續をもつて、明示的に、無效な命令を有效な法律に轉換させたのである。このことは、公法における「無效規範の轉換」を立法措置の方法によつて明確に肯定したことによるものと理解できる。

そして、さらに、桑港條約の發效時においても、同樣な處理がなされる。つまり、占領統治時代において制定された法令は、桑港條約が發效した日と同日に施行された『ポツダム宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件の廢止に關する法律』(昭和二十七年法律第八十一號)によつて、昭和二十年九月二十日に公布(即日施行)された『「ポツダム」宣言の受諾に伴ひ發する命令に關する件』(昭和二十年敕令第五百四十二號)が廢止され、連合國占領軍の郵便物・電報・電話の檢閲に關する件など占領統治のために制定された法令などは、時際法的に處理されて消滅し、それ以外の占領統治時代に制定された法令は、その後も國内系の規範として存續することとなつた。しかし、これらの法令は、すべて國内系のものと理解してよいのであらうか。

確かに、これらは占領統治のために、形式上は國内系の法令として制定されたが、いずれも講和條約群である入口條約(ポツダム宣言、降伏文書)、中間條約(占領憲法)、出口條約(桑港條約、舊安保條約及びその繼承である新安保條約)といふ連合國との一連の講和條約を履行するために制定されたものであるから、占領憲法が國際系であるのと同樣、これらの占領統治目的の法令もまた國際系の存在と判斷できる。

しかし、占領統治中に占領政策の實現のためにGHQの指示で制定された法令がすべて國際系であるとは限らないし、その線引きは難しい。ところが、桑港條約發效と同時に時際法的に處理された法令は、それまで國際系に屬するものであつたとしても、その後はすべて國内系に屬することとなつた。それが時際法的處理の經緯であつた。

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