國體護持總論
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著書紹介

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疑問と不安

これまで、帝國憲法を改正して成立したとされる占領憲法が憲法としては無效であることの理由を樣々な角度から考察して述べてきた。しかし、無效の根據について理解し、理論としては無效であると判斷できたとしても、この無效といふ結論からは、眞つ先に次の素朴な「疑問」と「不安」が生じてくると思はれる。

まづ、「疑問」とは、占領憲法が憲法として無效であるとしても、全く何らの效力もないといふのか、といふ點である。これは、法律學的に表現すれば、絶對的無效か、相對的無效か、といふ問題、すなはち、憲法として無效な占領憲法は、憲法以外の他の法令としても一切その效力が認められないのか(絶對的無效)、あるいは、憲法以外の他の何らかの法令として效力が認められるのか(相對的無效)、などといふ前章における無效論の「構造式」に關する問題である。

そして、「不安」とは、法理論的には占領憲法が憲法としては無效であるとしても、これまで占領憲法の下で運用されてきた立法、行政、司法、自治體などによる法令、判決、處分などによる既存の法律關係の現實が遡つて否定されてしまふのか、これから先、いきなり帝國憲法が復元して適用されれば國民生活に大混亂が生ずるのではないか、帝國憲法が現實の政治と合はない點を今後どのやうな方法で調整させていくのか、といふ樣々な不安である。

この「疑問」と「不安」は、いづれもこれまでの舊無效論が充分に説明しえなかつた命題であり、實は、この命題の解明は、無效論の論理構成によつて左右される性質のものであつた。そこで、次章において、帝國憲法秩序に復元し改正する措置について述べるが、この「復元」とは、嚴密には、帝國憲法は未だ改正されずに現在まで間斷なく存續してゐたとの「現存」事實を認識するといふ「認識の復元」であり、その「法的な心構へ」に基づいて法體系の整備をするといふことである。そのことについて述べることにより具體的にその疑問と不安の解消に努めるとして、本章では、さらにその前提となるいくつかの基礎知識について整理しつつ、この「疑問」と「不安」の解消のために必要な眞正護憲論(新無效論)の核心部分である「講和條約説」に迫つてみたい。

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