國體護持總論
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事實の慣習的集積

次に、占領憲法が講和條約(東京條約、占領憲法條約)として轉換評價しうる根據の第二の要件としては、法の「實效性」に對應する「事實の慣習的集積」が滿たされなければならないことである。

つまり、法形式の異なる規範が他の規範に轉換されたと評價されるべき「事實の慣習的集積」が存在しなければならないのである。即ち、國内的及び國際的な事情において、講和條約として轉換されたと評價しうる程度の反復繼續した事實が集積し、それが講和條約としての國際的信賴性を形成することによつて、規範性が付與されることである。これが國内法體系における場合とは異なる國際的慣習なのである。

占領憲法(東京條約、占領憲法條約)は、連合國が我が國に占領憲法の内容のとほりの國内法秩序を義務付けること(強制すること)を目的とした性質のものである。そして、形式的にも帝國議會の制定手續を經たものであり、占領憲法下の國會における條約の批准と同樣の手續を先取り的に履踐させたものである。そして、我が國は、連合國との間で締結された桑港條約及びこれと同時に連合國の幹事國であつたアメリカとの間で締結された「舊安保條約」によつて、やうやく獨立が回復された後も、特にアメリカとの通商經濟關係を深め、兩國政府間においても、これらに關連する各種の條約を締結して今日に至つてゐる。そして、このやうな一連の講和條約群及び一般條約群の締結による日米兩國政府間の密接な國際關係の形成や國會審議の經緯からしても、占領憲法は、舊安保條約等との一體的運用によつて、兩國間の基本的條約として尊重し遵守してきた實績がある。自衞隊の創設も我が國には自主性はなかつたもので、專らGHQの意向によるものであり、占領憲法第九條の解釋の變遷も、我が國が自律的に行つたものではなく、實質的にはGHQの「命令と承認」によつてなされたものである。そして、このことは、占領憲法第九條と自衞隊の關係のみならず、占領憲法第二十條、第八十九條と靖國神社の問題についても同樣である。國内事情には大きな變化がないにもかかはらず、連合國の意向など國際的な事情などの變化や諸外國の要求によつて占領憲法の解釋適用が影響されてをり、およそ最高規範としての尊嚴と信賴がない。占領憲法は、連合國に對する「詫證文(謝罪憲法)」であつて、これに基づいて謝罪外交を繼續し、その解釋適用において諸外國の内政干渉を受け續け、それを我が國も受容してゐる。

デュルケームの「集合表象」(集團表象、社會的表象)の觀点から考察すると、占領憲法に對する我が國の社會全體の空氣は、占領憲法第九條の問題と靖國問題などが肥大化して認識され、戰争の放棄や戰力不保持、交戰權の否認といふものを、過去に侵略戰爭を行つたことに對する自國に課した制裁であるかの如く、我が國がそのことを諸外國と約束したとの社會意識に支配され、まさしく「條約」としての拘束力を有してゐる。それゆゑ、諸外國から占領憲法第九條問題や靖國問題などに關する内政干渉的發言があつたとき、これまではそれを内政干渉であるとの反發が弱く、むしろ、真摯にこれを受け止めるといふ空氣が、政界、官界、財界、法曹界その他遍く社會全般に漂つてゐたのである。

このことからしても、占領憲法が施行されてきたとするこれまでの道程における實質的な運用實績の樣相は、むしろ憲法としてのそれではなく、實質的には講和條約としての運用がなされてきたと云へるのであつて、その限度の實效性しか有してゐなかつたのである。

GHQの占領統治は、原則として間接統治形態であつたことからして、占領憲法の制定はまさに間接統治の産物である。間接統治とは、GHQが直接に統治せず、政府を通じてなされるものであるから、GHQと政府とは、常に講和の一環としてあらゆる事項について交渉してきたといふことである。これはまさに講和交渉そのものであり、占領憲法がその交渉によつて誕生したことからして、占領憲法が講和條約の實質を備へてゐることの證となつてゐる。

なほ、占領憲法(東京條約、占領憲法條約)が國際系の講和條約として成立したものの、國内系秩序への編入に必要である立法方式による時際法的處理がなされてゐないことによつて正式には國内系に編入されてをらず、その内容と同樣の憲法的慣習法として國内で通用してゐることは前にも觸れた。それゆゑ、この憲法的慣習法としての國内における事實の慣習的集積は、あくまでも憲法的慣習法として認められるに必要な實效性の要件に關するものであつて、ここでの問題ではない。ここで議論してゐるのは、あくまでも、占領憲法(東京條約、占領憲法條約)としての國際系における實效性(事實の慣習的集積)のことである。つまり、占領憲法が國内法秩序の最高規範である憲法であるとすれば、他國からその解釋に基づいて國政のあり方を批判されることは、極度の内政干渉であるから國際法上許されないにもかかはらず、それを受け入れて續けてきたこと、そして、過去の歴史問題についても他國の批判と抗議を受け入れてそれに我が政府が迎合し續けてきたことなど、我が國と連合國(その便乗國を含む)との國際社會において我が國がこのやうな内政干渉を容認し續けてきた國際的な事實の慣習的集積を以て、占領憲法が講和條約(東京條約、占領憲法條約)であることを根據付けることになるといふことである。

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