國體護持總論
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統治機構條項

次に、天皇條項と不可分一體となりうるその他の統治機構に關する條項について檢討する。

帝國憲法第三章ないし第六章には「統治機構」についての條項が規定され、占領憲法では、これに對應するものとして第四章ないし第七章に規定があるが、これらについても各條項毎に對應するものではない。それゆゑ、帝國憲法と占領憲法の規定を全體として制度的に比較してみると、兩者に共通する制度としては、三權分立、二院制、兩議院議員の兼職禁止、法治主義、會期制、會議の公開、衆議院の解散、議會の公開、議院の規則制定權、議員の免責特權と不逮捕特權、國務大臣の議院出席、責任内閣制、裁判官の身分保障、裁判の公開原則、豫算・決算制度、租税法律主義、豫備費制度、會計檢査院制度などである。

これらの統治機構制度は、國家統治の基本原則として根本規範(規範國體)を組成するものではあるが、その具體的な細目内容は極めて技術的性質を有してゐる。それゆゑ、根本規範を組成するものは、これらの制度の基本や趣旨であつて、これらの制度的保障が維持される限り根本規範に牴觸するものではない。從つて、占領憲法におけるこれらの制度的規定は、帝國憲法との具體的な規定内容の細部において齟齬があるとしても、同質性を有し基本制度自體を否定するものではなく、根本規範(規範國體)に違反するものではないので、講和條約(東京條約、占領憲法條約)の當該條項は成立してゐる。

しかし、形式的には帝國憲法違反であり、憲法改正手續を經たものではなく、時際法的處理もされてゐないので、講和條約(東京條約、占領憲法條約)が轉換成立したとしても、その國内法的效果として、法たる憲法的慣習である憲法的慣習法として存在し、その慣習によつてこれまで運用されてきたことになる。

また、帝國憲法と占領憲法との制度比較について、帝國憲法には規定はなく占領憲法にある制度としては、國會、議院内閣制、參議院、條約の國會承認、彈劾裁判所、地方自治などがあり、逆に、帝國憲法には規定があるが占領憲法にはない制度としては、帝國議會、貴族院、樞密顧問(樞密院)、特別裁判所、行政裁判所などがある。

このうち、帝國議會と國會、貴族院と參議院との對比をすれば、貴族院議員の選出が、皇族、華族、敕任といふ任命制であつたのに對し、參議院議員の選出が公選制となつたことによる相違に由來する。任命制と公選制といふ異なる選出方法による二院制と同じ選出方法(公選制)による二院制といふ相違である。つまり、公選議員による議院は、帝國議會では衆議院のみ、占領憲法では衆議院と參議院の兩院であり、公選一院制と公選二院制との相違に過ぎず、議會制度の本質は同じである。

そもそも、任免權者が特定の身分と資格を持つ者から選任する場合(任命制)と國民から選擧によつて選任される公選の場合(公選制)とを機械的に比較して、どちらが制度の理想目的を實現するかといふことを一律的に論ずることはできない。現在でも、專門性を有する職務(裁判官や諮問機關などの政府委員など)は任命制であり、裁判官などを選擧で選ぶことに抵抗があるのは、專門性の有無を公選では審査できないといふ事情に基づくからである。教育の民主化といふ名目でなされたGHQによる教育解體政策によつて、教育委員會委員の公選制が實施されたが、それが教育の政治化による混亂を生じたことから、任命制へと變更せざるをえなかつたのと同樣に、公選制は、外見、風評、知名度などといふやうな專門性とは全く無縁の要素の有無によつて選出されるからである。立法機關の議員についても立法關連の專門性が要求されるが、公選制では、專門知識と見識、人格に劣る者であつても議員になりたいと希望する者(立候補者)から選任され、議員にさせたい者(高度の專門知識と見識、高潔な人格を有する者)を選任する制度でないところに、この制度の限界と缺陷があるからである。

また、條約の發效について議會の承認を必要とするか否かとか、特別裁判所をどの守備領域について設置するか否かといふことは、極めて統治機構制度の技術的な事項であり、帝國憲法と占領憲法と司法制度の相違は瑣末なものであつて本質的なものではない。特別裁判所といふのは、爭訟事項の專門分化に對應するものであつて、統治機構が權力分立によつて、各權力部門相互間の抑制と均衡を實現させようとするのと同樣に、各權力部門内部においても分立制を採用してきたのである。立法部門における二院制、行政部門における獨立行政委員會(一般行政權から獨立性を保つ行政機關)の設置などはその趣旨であつて、それを司法にも適用すれば、それは特別裁判所制度となるのである。

このやうに、帝國憲法と占領憲法の統治機構制度には相似性がある。ただし、占領憲法第四十一條中の「國權の最高機關であつて、國の唯一の」の部分、第六十六條第二項、第七十六條第二項の全部、同條第三項中の「この憲法及び法律のみに拘束される。」の部分、第八十八條前段の全部は、いづれも規範國體に違反するので認められないが、それ以外の條項における齟齬の多くは制度技術的ないしは運用記述的な相違であつて本質的相違ではない。從つて、前に述べたと同樣に、占領憲法におけるこれらの制度的規定は、帝國憲法との具體的な規定内容の細部における齟齬があるとしても、前記例外の條項を除けば、同質性を有し基本制度自體を否定するものではなく、根本規範(規範國體)に違反するものではないので、講和條約(東京條約、占領憲法條約)の當該條項は成立してゐる。しかし、前記同樣、形式的には帝國憲法違反であり、憲法改正手續を經たものではないので、講和條約(東京條約、占領憲法條約)の國内法的效力として、法たる憲法的慣習である憲法的慣習法として存在し、その慣習によつてこれまで運用されてきたことになる。

ただし、貴族院や樞密顧問(樞密院)は現在では事實上存在せず、機關缺損の状態となつてゐるが、この點については、次章で説明する。

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