國體護持總論
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權利義務條項

帝國憲法第二章には「臣民權利義務」についての條項が規定され、占領憲法では、これに對應するものとして第三章に「國民の權利及び義務」についての規定がある。

これらの條項を比較して云へることは、その特徴とし次の二つが擧げられる。第一は、占領憲法はポツダム宣言第十項の「日本國政府は、日本國國民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障礙を除去すべし。言論、宗教及思想の自由竝に基本的人權の尊重は、確立せらるべし。」に基づいて權利條項を補充したことであり、第二には、占領憲法が非獨立占領下であつたことから、國防條項や國家緊急權條項を持たないことに對應して、これに關する規定を設けてゐないことである。

これら各規定は、各條項毎に個別具體的に對應するものではなく、内容的にも一致したものではないが、①帝國憲法(帝)と占領憲法(占)に共通してあるもの、②帝國憲法にあり占領憲法にはないもの、③帝國憲法になく占領憲法にあるもの、の三つに分類することができる。

まづ、①の分類に屬するものとしては、國籍要件の法定(帝第十八條、占第十條)、納税の義務(帝第二十一條、占第三十條)、居住と移轉の自由(帝第二十二條、占第二十二條第一項)、逮捕・監禁・審問・處罰に對する保障(帝第二十三條、占第三十三條・第三十四條・第三十七條第一項、第二項)、裁判を受ける權利(帝第二十四條、占第三十二條)、住居侵入・捜索に對する保障(帝第二十五條、占第三十五條)、信書の祕密の保障(帝第二十六條、占第二十一條第二項)、所有權の保障(帝第二十七條、占第二十九條)、信教の自由(帝第二十八條、占第二十條)、言論の自由(帝第二十九條、占第二十條第一項)、請願權(帝第三十條、占第十六條)である。

また、②の分類に屬するものとしては、能力即應・機會均等の任官權(帝第十九條)、兵役の義務(帝第二十條)、國家緊急時の權利制限・非常大權(帝第三十一條)、軍人の特例(帝第三十二條)である。

さらに、③の分類に屬するものとしては、個人の尊重、幸福追求の權利(占第十三條)、法の下の平等(占第十四條)、公務員選定罷免權、全體の奉仕者、普通選擧の保障、祕密投票の保障(占第十五條)、國家賠償請求權の保障(占第十七條)、奴隷的拘束の禁止、苦役からの自由(占第十八條)、思想及び良心の自由(占第十九條)、檢閲の禁止(占第二十一條第二項)、職業選擇の自由(占第二十二條)、外國移住・國籍離脱の自由(占第二十二條第二項)、學問の自由(占第二十三條)、婚姻等の制度保障(占第二十四條)、生存權(占第二十五條)、教育を受ける權利、教育を受けさせる義務、義務教育の無償(占第二十六條)、勤勞の權利と義務、勤勞條件基準の法定、兒童酷使の禁止(占第二十七條)、勤勞者の團結權等(占第二十八條)、法定手續の保障(占第三十一條)、押收に對する保障(占第三十五條)、拷問等の刑罰の禁止(占第三十六條)、辯護人選任權、國政辯護人制度(占第三十七條第二項)、自白法則(占第三十八條)、遡及處罰、二重處罰の禁止(占第三十九條)、刑事補償制度(占第四十條)である。

では、これらの權利と義務の條項は、どのやうな效力を持つのものであらうか。まづ、①の分類に屬するものについては、帝國憲法と占領憲法の權利と義務の内容と態樣に本質的な同一性が見られるので、占領憲法によつて權利態樣が擴張されて實施適用されてゐるものは、憲法的慣習として認めてよい。また、②の分類に屬するものは、そのまま存續してゐることになる。つまり、全ての權利條項は、「ただし、戰時や災害などの國家緊急事態の場合はこの限りではない。」と解釋されるのである。そして、③の分類に屬するものについては、規範國體に違反し、あるいは有害無益な規定、すなはち、第十一條後段の全部、第十二條前段の全部、第十三條前段の全部、第十四條第二項の全部、第十五條第一項、第十八條の全部、第二十四條第一項中の「兩性の合意のみに基いて成立し」の部分、同條第二項中の「個人の尊嚴と兩性の本質的平等に立脚して」の部分を除いて、その實施適用されてゐるものは、憲法的慣習として認められる。

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