國體護持總論
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著書紹介

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内憂の根源

祖國の再生に向けて、以上のやうな復元措置は必要なことであるが、それ以上に渇望しなければならない復元措置がある。それは、皇室とその藩屏たる宮家の再興である。

「悠遠の昔から國民に其の首長を供給する特權を保有してきた一定の王朝の統治以外には、如何なるものの統治にも進んでは之に服從することを潔よしとしない國民がある。」と英國のジョン・スチュアート・ミルは、その『代議政體論』で我が國のことを述べた。また、アイルランド生まれの英國政治家ジェイムス・ブライスは、晩年になつてロシア革命を目の當たりに經驗し、その後に日英同盟が解消されるに至る前年の大正十一年に、八十二歳の老躯に鞭打つた渾身作『近代民主政治』の中で、「日本に於ては、その發祥、神話の霧の中に茫漠たる皇室に對する宗教的忠義は、その領主に對する武士の個人的な忠義と結合し、日本軍人に一死報國を特權と心得る國家的及び國民に對する無私の騎士的な忠義を發生せしめた。かくの如く忠義が一樣に國民の全階級に旁魄としているように見受けられる國家は他にその例を見ない。」と述べてゐる。

いづれも戰前の我が國柄を描寫したものであるが、今の我が國に、これほどまで外國が羨むほど眩しくて高貴な精神的民度は殘つてはゐない。どうしてこれほどまで民度を落として低俗に陷つたか。その原因は、立憲君主制の我が政府が招いた未曾有の敗戰處理をなすについて、國體を護持するとか皇室を守るなどといふ美名の下に、逆に、御皇室を生け贄として、その犧牲によつて國體を踏みにじつて利得を得た臣民全體のいかがはしさにある。

大東亞戰爭敗戰後に、我が國がGHQの占領統治下におかれたとき、美德を重んじて恥辱と共に生きることを峻拒して自決する人々や隱棲する人々が相次いだことから、狡臣と愚民のみが生き殘つてGHQの占領政策に迎合した。そして、己の責任を隠蔽して保身をはかり、皇恩を仇で返して明治典範を廢止し、皇室彈壓法(占領典範)を制定して、御皇室の藩屏となるべき宮家の皇籍を剥奪し、御皇室の自治と自律、そして財産を奪つた。

そして、獨立回復後もそのことを全く是正回復させることなく、文化國體の中核である皇室の弱體化と空洞化を促進させた。象徴天皇制とは名ばかりで、國民主權の下での傀儡天皇制といふ究極の政治利用を今もなほ續けてゐる。

昭和二十年八月二十八日、東久邇總理大臣は、記者會見において、「この際私は軍官民、國民全體が徹底的に反省し、懺悔しなければならぬと思ふ、全國民總懺悔することがわが國再建の第一歩であり、わが國内團結の第一歩と信ずる。」と述べたが、この、いはゆる「一億總懺悔」は、未だに果たされてはゐないのである。

そして、この忘恩背德による傀儡天皇制は、着々と皇室を蝕んで行く。煩瑣な公務をこなされ、ご靜養もままならず、皇室に最も重要な宮中祭祀までも疎かにならざるをえないやうな多忙なる環境の下におはしますことは、皇室にとつて重大な危機である。いま、兩陛下の宸襟を惱まし、あるいは皇室を取り卷く樣々な好ましからざる諸相が生まれるのは、敗戰の總懺悔をなさず占領典憲の制定を恬として恥じない敗戰利得者である臣民の樣々の所業の累積した弊害が根源にあるからである。

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