國體護持總論
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廢憲論

復元態樣の一つとして、占領典憲を單に廢止し、根本規範である正統典憲は、いづれも不文法の體系とすればよいとする復元方法の提案がある。

これは、復元措置の方法論の一つであつて、その理論的根據となるのは無效論寄りの見解である。しかし、舊無效論と似非改憲論(有效論)であれば、破棄、廢止の根據において理論的な破綻をきたすことになるので、眞正護憲論(新無效論)しかこの見解を支へる理論はない。

ところが、占領典範の無效性の理由の一つなつてゐる成文廢止の無效性について第一章及び第三章で述べたとほり、この廢憲論といふ不文法化の提案は無理がある。

つまり、不文法制は、規範の適用と運用に柔軟性があるものの、その柔軟性の高さが規範の適用と運用における豫測性の低さと表裏の關係にあることから、その豫測性を高めるために徐々に成文法制化されてきた。そして、成文化が進んでその豫測性が高まれば高まるほど逆に柔軟性が低くなり、形式的な硬直した規範の適用と運用といふ弊害を生じる。ところが、人々の一般的な規範意識は、法の豫測性を基軸として維持されるものであることからすると、成文法制化は必然的な趨勢となつてゐる。このことからして、我が國も成文法制化に踏み切つたのであつて、これを完全否定することは成文法制化の意義を損なふことになり、却つて恣意的解釋や運用がなされ、法治主義を蔑ろにする危險があるので、できる限り避けるべきものである。

確かに、現實には改正ができない情況を見据ゑて、占領憲法の廢止を求める點においては政治的に優れたものがあるが、次の三つの點において難點がある。

一つ目は、そもそも、何を根據にして廢止ができるといふのか、といふ要件論、本質論に疑問がある點である。

二つ目は、今後は不文法主義として國家經綸が可能かといふ點である。明治以來、成文法主義で運用されてきたことや、複雜化する社會への對應に不安がつきまとふ。根本的には、我が國は不文法體系の國家ではあつたが、技術的には、成文法を補助として用ゐてきた。英國の場合も同じである。ましてや、これまで占領憲法の性質や解釋などに關して國論が分裂してきた状況においては、さらなる混亂が豫想されるからである。

三つ目は、占領憲法の無效を理由にこれを廢止するのは理解できても、それと同時に、その無效の根據となつた帝國憲法までも廢止するのは全く道理に合はないのである。

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