國體護持總論
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地方自治小委員會

ところで、このうち、地方自治については、特に充分な審議が必要となる。それは、占領憲法第九十二條には「地方自治の本旨」といふ表現があり、これを中央からの分離した團體であるといふ意味の「團體自治」と、それが住民の意思に基づいて運營されるといふ意味の「住民自治」を意味すると一般に云はれてゐるが、必ずしもこのことは明らかではないからである。現在では、中央政府の統治態樣が「議院内閣制」であり、地方公共團體の統治態樣が「大統領制」(首長直接選擧制)であるが、中央と地方とはフラクタル構造であることが望ましいことを考へれば、このやうな構造的相違を肯定することが「地方自治の本旨」の當然の歸結であるとすることもできないからである。

また、「地方の時代」などと空虚なスローガンによつて中央政府と地方政府との分離(地方分權)を求め、連邦制や道州制の趣旨で政府權限を地方に委讓するといふ方向は、現在の國際情勢からして、我が國の國力を低下させることになるので採用できない。生體の細胞と組織、組織と臓器、臓器と個體、個體と家族、家族と社會、社會と國家といふフラクタル構造において、それぞれが獨立することは構造全體の破壞につながる。むしろ、構造全體を支へる循環系に相當する國防、外交、司法、警察、教育、物資流通、水系整備事業などは、これまで以上に中央集權化による強化統一が必要となる。そもそも、占領憲法のいふ「地方自治の本旨」とは、連邦制を意識して規定されたものであつて、我が國の「分國化」による弱體化政策の思想に他ならないのである。占領下において、「警察の民主化」と稱して、警察組織とその運營が地方分權化したことによつて、警察活動が都道府縣單位といふ地域主義的なものとなり、廣域捜査活動に迅速な對應ができないといふ支障を生じせしめた。交通手段の發達などによつて犯罪は國内全域へと廣域化しうるものであつて、このやうな支障を生む構造的な缺陷について、現在のままでは根本的な改善を達成できないのである。

つまり、「地方分權」の「權」とは、主權論でいふ「主權」のことであり、その分割といふことは、究極的には「分國」すなはち「國家分割」を意味することになる。これは、次章でいふ「自立再生論」における「單位共同社會」の極小化とは何の關係もないことであり、むしろ、これを破壞することになるものである。

このやうに、地方自治制度は、極めて危險な要素を孕んでゐる。むしろ、規定全體を削除して、改めて檢討する必要がある。なぜならば、これらの規定は、地方分權に至る占領政策の要諦でもあり、我が國の解體のために地雷を埋め込む規定と言つても過言ではないからである。なぜならば、アメリカが我が國と同じやうに國家の解體を目論んだイラクに對して、主權移讓と稱して押し付けた『イラク憲法』には、露骨にもまさにその地雷が剥き出しで放置されてゐるからである。『イラク憲法』では、イラク國家は共和制であり連邦制としてをり、その連邦制に關して、連邦政府と地方政府との權限が對立するときは、地方政府の權限が優先することになつてゐるからである(第百十五條など)。これでは、地方分權どころか、地方獨立(連邦離脱)の權限が與へられてゐるのに等しい。我が國の地方分權論や道州制の狙ひは、まさにこの分國化の方向を向いてゐるのである。そして、これが外國人の地方參政權とが連動し、早晩これが國政參政權へと發展するのである。

現在では、中央官廳の不正が恆常的に蔓延し、地方分權への方向へと心情的に拍車が掛かつてゐるが、このやうな官僚腐敗は中央集權制自體の問題ではなく、中央官僚の資質の問題である。中央官僚の腐敗部分は徹底して摘出すべきではあるが、この現象に目を奪はれて短絡的に地方分權を唱へて國家の方向性を誤つてはならないのである。この問題は、後に述べるとほり效用均衡理論で解決しうるのである。むしろ、現代では中央集權制による統治態樣の均一化と單純化によるスケールメリットが期待されてゐるのであり、それが來るべき效用均衡理論による統治機構等の再編成にとつて有用だからである。政府と地方、都道府縣と市區町村といふ複合的な權力構造の重壓は解消されなければならないのである。アメリカ、ロシア、支那の地方制度と比較しても、その單位領域は、我が國の場合、餘りにも細分化した僅少地域の地方自治であつて、世界的傾向に背馳してゐる。領土の狹い我が國が、これからも世界に伍するためには、防衞、外交、治安、醫療、教育などだけではなく、均等かつ公平な統一行政を實現しなければならないのである。

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