國體護持總論
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著書紹介

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漁業權

ともあれ、中共が持ち出した漁業補償の前提となる「漁業權」なるものは、國内及び極東において防衞上の桎梏としてしばしば登場してくる。國際問題においても國内問題においても、これがあたかも平和のシンボルであるかのやうに。

しかし、この「漁業權」とは一體何者なのか。

明治八年、政府は、海面官有宣言を行ふと同時に、太政官布達により、海面の使用を希望する者に使用願ひを出させ、使用料を定めて借用させる海面借區制といふ制度を設けようとした。しかし、これは、江戸時代の幕府や藩主から慣習や論功により特權として認められてきた漁場利用の既得權を補償もなく奪ふことになるため、漁師の猛反對によつて、翌九年にはこの布達が撤回され、各地方で、水面を使用して續けられてきた漁場では、それまでの慣習に從ふ旨の新たな太政官布達が出された。その後、久しく慣習として認められてきた漁業權について、我が國は、明治四十三年に『(舊)漁業法』(法律第五十八號)を制定して、慣習上の「海の入會權(いりあひけん)」として、一定の漁場に制限し、海軍の水利權などとは競合・牴觸させないものとしたのである。

ところが、GHQは、その占領下の昭和二十四年に、『(舊)漁業法』を廢止して現行の『(新)漁業法』(昭和二十四年十二月十五日法律第二百六十七號)を制定させ、漁業權を「物權」として認め、漁場制限を逐次解除して、その漁業權を領海全域、内水面全域にまで擴大させることを「民主化政策」の名の下で行つたのである。

しかし、アメリカでは、公用財産である内水面や領海(海區)に私的な權利である漁業權を設定することは否定されてゐる。アメリカでは、議會がアラスカ先住民に對してのみ漁業權を與へたが、その後、アラスカ州最高裁判所は、その漁業權付與を違憲とする判決をなし、公用財産を私的に利用させる漁業權といふ概念自體が否定されてゐる。また、このことは、歐洲においても同樣で、オランダでは明確に漁業權は否定されてゐるのである。

漁業權を認めてゐないアメリカが何故に我が國の隅々にまで漁業權を認めたかと云へば、それは、我が國の報復戰爭を極度に恐れたアメリカが、日本弱體化政策の一環として、帝國海軍の有してゐた海岸の水利權を奪ひ、これを全て漁師に漁業權として分割して與へ、これにより、軍港の再建設をするためには、法的に漁業權を收用する手續が必要となり、財政的にも漁業權の保障を餘儀なくさせることによつて、再軍備を實質上阻止しようとしたためである。そして、水上警察の施設建設も軍事的に轉用しうるとの懸念から、全國津々浦々の内水面にも遍く漁業權を與へた。そのGHQの占領政策を承繼した傀儡政府もまた、漁業權については特別の利便を與へ續け、漁業權を設定する對價の支拂ひを免除し、さらに、特許權の特許料のやうな權利繼續のための對價に相當する負擔をも免除してゐる。つまり、漁業權は物權とされてゐるところ、その設定の對價を一切徴收せず、無償で附與されてゐる。地上權も物權であるが、地上權の場合は、設定の對價(地上權價格)を支拂ひ、さらに、地代をも繼續して支拂ふ必要があることから比較すると、漁業權は、GHQの占領政策の殘滓である不合理な特權として今もなほ維持し續けてゐるのである。

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