國體護持總論
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著書紹介

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選擧制度

現行の選擧制度のうち、選擧權については、選擧權取得年齢を定めた一人一票制の普通選擧制度がとられてゐる。人は、ある年齢までは選擧權がなく、選擧權を取得すると一人一票は終身變はらない。制限選擧制の場合は、性別、財産、納税額、教育などの一定の資格で選擧權が與へられたが、普通選擧制になると、これらの資格が撤廢され、一律に「一人一票制」となつた。これが選擧における平等を實現するものであるとの思想によつて支持され、占領憲法でも、「成年者による普通選擧」(第十五條第三項)としてゐる。しかし、これが實質的公平と云へるのか。成年者となつたばかりの者と、それから多くの社會經驗を積み重ねてきた者との政治判斷の價値が同じであるのか。自己の政治判斷の價値と他人の政治判斷の價値とを單純に比較することはできないとしても、自己の過去における政治判斷と現在における政治判斷とは比較できる。自己研鑽を繼續してきた結果からして、現在の政治判斷が過去の政治判斷よりも勝つてゐるはずである。ところが、自己の一票は過去から現在まで同じで、票数が增えることがない。それどころか、過去から現在までに、自己と同じく成年者となつて選擧權を取得した者が增えてゐることからして、自己の有してゐた一票の價値は相對的に低下する。

つまり、ある人が成年者となつたときには、その人を含めて百人の選擧權者が居たとしよう。ところが、その三十年後には選擧權者が二百人となつたとすれば、その人の選擧權の價値は二分の一に減少するのである。しかも、その人からすれば、選擧權を取得したばかりの時期よりも、より高い見識で選擧權を行使するのであるから、その人の選擧權の價値は高まつてゐるはずなのに、逆に選擧權の價値が減少するのである。政治的見識に進歩があるのに、その進歩に對應する選擧權が認められないことは、人が年齢とともに政治的に成熟して行くことを完全に否定することになる。

ましてや、未成年者には選擧權がなく、成年者になれば突然に選擧權が附與され、それ以後は終身「一人一票制」といふ同じ選擧權しか認められないといふのも、極めて素朴な嫌惡感を抱く制度である。

それゆゑ、結論的には、「一人年齢票制」にして實質的公平を實現すべきである。年齢を重ねるごとにその人の票數が增え、年齢數と同じ票數を選擧ごとに一括投票する制度にするのである。そして、未成年者にもその年齢に應じた選擧權を附與し、それを親權者が代理投票することができるものとすべきである。政治は、未成年者にも影響を及ぼし、未成年者もその支配に服することになるものならず、未成年者は、次代を擔ふ者であつて、その未成年者を養育監護する親權者には、より多くの政治的發言權を認めるべきである。次代を擔ふ未成年者を生み育てる者と、未成年者を生み育ててゐない者とを政治的に同列に論じてはならないのである。

そして、この一人年齢票制の技術的な運用についても、滿年齢によると各人の生年月日ごとに票數が一票増えることになるので、運用上の支障と煩雜さが拭へない。そこで、前に述べたとほり、傳統に回歸して、數へ年を導入することになる。誰もが生まれたときに一歳であり、年が變はれば一歳年を取る。それで選擧民登録の煩雜さは解消できると同時に、生まれた者は、一歳であつて零歳ではないので、生まれたときから一票の選擧權を有し、それを親權者が代理行使することになる。ただし、現行制度のやうな共同親權を前提とすると、代理行使する者を定める制度が必要となつてくるが、家族制度が復活して行く過程において、戸主制度などの復活も視野に入れながら、代理行使の態樣も檢討されることになる。

この一人年齢投票制は、いはば年寄りの意見が尊重される制度であり、若年者の無知による横暴と暴走を防いで政治を安定させ、祭祀の復活などと連動して傳統的な保守政治が實現するのである。

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