國體護持總論
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著書紹介

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その他の制度

その他の淨化裝置としては、平安初期の桓武天皇の時代に令外官として設置された「勘解由使」の制度も參考となる。勘解由使(かげゆし)とは、令外官(りゃうげのくわん)として設置された職制であり、國司の交替に立ち會つて、新任者が前任者の職務に不正がなかつたことを證明して發給する「解由状」(げゆじゃう)を調査したのである。これと同樣に、官僚が職務上の地位を後任者に引繼ぐ場合、その引繼がれた前任者の職務執行に不正がなかつたか否かを效用均衡理論に基づく監察者が業務監査をして確認する制度が必要となる。もし、これが有效に機能してゐれば、昨今の「消えた年金」などの社會保險廳の不正は相當程度防止できたはずである。

また、このやうな國家に仇をなす公務員の不正行爲やスパイ(間諜)行爲などについては嚴罰主義を以て處斷し、これらとの關連で、一般的な公務員賠償制度の導入が必要となる。公務員を法的責任の面で特別待遇することなく、民間人以上の刑事、民事上の責任を課し、違法や不正があつた場合には、國家機關が當該公務員に賠償請求をなし、又は國家機關がそれを怠るときは、臣民からの代表訴訟が提起でき、さらに、臣民が直接に被つた損害に對しても、國家機關に對する請求とともに、現行の制度を改正して、當該公務員にも賠償請求が行へることを認めなければならない。

そして、公務員の退職金の支給時期については、これらの違法や不正がなかつたことが業務監査の結果で證明された後でなければならない。

これらの制度改革の實效性を維持するために必要なことは、「官僚の天下り」を全面的に禁止することが前提となる。「官僚の天下り」の「天下り」といふ言葉は、そもそも官尊民卑の支配感覺によるものであつて、この天下りによつて、社會構造や經濟活動の硬直化と序列化を生み出し、企業經濟活動における政官財の癒着による不正の温床となることが實證されてゐるからである。


また、國家の單年度制の豫算制度を廢止し、複式簿記の採用による多年度制の繼續會計に移行しなければならない。單年度制の單式簿記による豫算制度では、年度内に豫算を全額消費することが「有能」であると官僚内部では評價されるといふ不條理な制度の温床となつてゐるからである。

單年度制が豫算制度として定着した理由については、いくつかの見解があるが、次年度への繰り越しを原則として認めないためである。議會の議員は、任期制であるから、單年度制であつても繰り越し處理が無制限に認められたり、複年度制になると、その後に選任された議員による議會の審議權を奪ふことになるからである。これは、ある意味で國民主權主義によるものではあるが、比較的正常な運用形態でもあつた。これによつて、子孫に借金を繰り越して負擔させるといふことをある程度防げる機能があつたからである。ところが、現在では、繰り越し處理を原則化し、子孫に借金を押し付ける國民主權主義の本領を發揮し續けてゐる。それゆゑ、單年度制の豫算制度を廢止するまでの經過措置として、債務の繰り越しと赤字國債等の發行を原則として禁止しなければならない。


かくして、國家統治の全領域について、信賞必罰制度の導入し、財政赤字の刑事上、民事上の責任を嚴格に追及して解決への道筋を示し、人事管理についても、「德と官と相配し功と賞と相對す」といふ西郷南洲遺訓の理念による效用均衡理論に基づく制度の導入を實施しなければならない。

そして、これら樣々な國家機構改造を行ひ、我が國と世界に平和で豊かな社會を實現するためには、次章で述べるとほり、效用均衡理論のみならず、第一章から本章までで説いた理論を統合した自立再生論に基づくことになる。この自立再生論は、社會科學における「大統一理論」(統一場理論)である。自然科學においても、量子色力學と電弱理論などを統一的に記述する理論の構築が試みられてゐるのと同じやうに、社會科學の分野においても、法學、憲法學、國法學、政治學、經濟學、社會學、社會心理學、教育學、歴史學、民族學、哲學、宗教學などを統一的に貫いて記述できる理論である。

つまり、直觀と論理、本能論と理性論、家族主義と個人主義、祭祀と宗教、國體論と主權論といふ對立した雛形構造の振動的平衡を見定めて、擴散から収束へと向かふ祭祀生活の社會を實現することが、我が國と世界全體の安定と平和をもたらすのである。

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