國體護持總論
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著書紹介

地球の再生能力の限界

振り返つて我が國と世界の現状を考察するに、今や國の内外における政策の行き詰まりや矛盾が山積みされてゐる。一つの問題を解決するために小手先の付け燒き刃的政策を行ひ、そのために却つて多くの問題が發生するといふやうな、イタチごつこの有樣である。このやうな混迷の原因は、「政策」の誤りだけでなく、その根本となる「思想」の誤謬にある。「現代は政策の時代であつて思想の時代は終はつた」との巷の喧傳は流言蜚語の妄想にすぎない。現代は政策繁多な時代ではあるが、逆に、それらを制御統制する明確な思想が缺如してゐる時代なのである。そして、聞こえはよいが實現性のない空想論や建て前論、提唱者自身ですら自己規律しえないやうな精神論だけが賑やいでゐる。今こそ、日本を救ひ、世界を救ふための世界思想が確立し實踐されない限り、このままでは、日本はおろか世界や地球に未來はない。

これまでに起こつた大規模な異常氣象や天變地異は、生活環境の變化と食料の缺乏などから、國家の滅亡、民族大移動、内亂、革命、戰爭などの異變をもたらしてきた。平和時に構築された法體系は、そのときには役に立たず、喧しく主張されてきた自由と人權は空文化し、實定法の脆さを實感してきたのが人類の歴史である。これからも、想像を絶する「變局時」に遭遇する危險は益々高まつてきた。現在、國境や地勢地形區分を越え、人種・民族・宗教の區別なく、地球規模で生態系環境の汚染と破壞が進行し、それが近宇宙にまで擴散してゐる。成層圈の異變(フロン、ハロン、亞酸化窒素などによるオゾン・ホールの擴大など)、對流圈内の大氣の汚染、海洋・河川・湖沼・地下水などの水質汚濁と化學物質及び放射能による水質汚染、作物土壤などの化學物質汚染及び放射能による地質汚染など枚擧に暇がない。さらに、これらの汚染が氣象現象等によつて地球全域に擴散して生態系に複雜に組み込まれ、これに自然現象や人爲的な要因も加はる。そして、再生不能な伐採と酸性雨や旱魃等の災害による熱帶雨林などの森林の消失と砂漠の擴大、有害異物の大氣飛散と廣域雨散、飮料水・食物・資源の汚染、公害病、奇病、奇形の發生など人類その他の動植物の生體内汚染と異變、種の絶滅の危機、といふやうに生態系全體の汚染と破壞が進行してゐる。生態系環境の汚染と破壞の範圍は、いはゆる「天・地・人」の地球總ての事象に及んでゐる。

また、世界の平均氣温が年々上昇し、暖冬・冷夏・寒波・熱波・集中豪雨・集中豪雪などの異常氣象現象が連續發生してゐるため、各地に農作物などの壞滅的被害が多發してゐる。この原因の一つが、埋蔵燃料(石炭、石油、天然ガスなど)の燃燒使用の急激な增大と森林の急速な消失との相乘效果が原因と説明されてゐるが、これは必ずしも科學的には明確ではない。しかし、水蒸氣、二酸化炭素、亞酸化窒素、メタン、フロンなどの大氣中の濃度が著しく上昇することによる「温室效果」といふ積極的要因と、逆に、メキシコのエルチチョン火山やフィリピンのピナトゥボ火山の大噴火など、過去から將來に亘つて續く火山活動により大量の亞硫酸鹽微粒子などが成層圈にまで噴き上げられた結果として、地表面に達する日射量を減少させる「日傘效果」などの消極的要因とが複雜に絡み合つてゐることは推測できる。

また、氣象學的知見ではなく、地質學的立場や宇宙物理學竝びに全體的な地球科學の見地からすれば、現在の地球は間氷期後期であり、五度目の氷河期に向かつて寒冷化傾向となる時期でもある。その一方で、太陽の活動度が高まつてをり、太陽面爆發(フレア)現象による太陽系全體の温度上昇があり、CO2のない火星でも温度上昇が觀測されてゐる。これまでの歴史からすれば、太陽活動の減衰傾向があれば日光照射量が低下し、食料減産を來すことになる。温暖化傾向といふのは、これまで人類にとつては食料減産から增産へと轉換しうる結果を生んできたので、一般には望ましい傾向であつた。歴史的にみれば、寒冷化は食料問題を引き起こし、これまで食料を求めて民族の大移動が起こつてきた。たとへば、皇紀十世紀から十一世紀(ほぼ西紀四世紀から五世紀に對應)にかけてのゲルマン民族の南下大移動によるローマ帝國領への侵入は、小規模な寒冷化による食料問題によるものであつたが、それの引き金となつたのは、東ヨーロッパに居住してゐたゲルマン民族居住地に、これもまた食料問題が原因でフン族が侵入してきたことによる。騎馬による戰闘能力に長けたフン族は、支那北方の匈奴ではないかと推定されてゐるが、フン族の侵入によりゲルマン民族は西へ一齊に大移動した。そのころ、日本へも支那大陸から一萬人もの歸化人が南下してきた。これもまた主に食料問題によるものである。

さらに、皇紀十四世紀(西紀七世紀末)に、高句麗の復興を目指して建國された渤海が契丹族の建てた遼の侵入(926+660)で滅亡したが、二年後に遼は舊渤海の領地を放棄したことがあつた。この渤海の滅亡と遼の領地放棄の原因については、我が國の東北地方にまで火山灰が降り積もつた白頭山の大噴火による食料問題ではないかとの見解(金子史朗)もある。また、モンゴル帝國の擴大も人口問題、食料問題が原因してゐる。さらに、フランス革命の前年(1788+660)にフランスでは大凶作となり、そのことがフランス革命を誘發したが、その大凶作の遠因は、我が國で起こつた天明の淺間燒けと呼ばれた淺間山大噴火(天明三年、1793+660)の噴煙が上空に舞ひ上がつて地球を巡つたことによる日傘效果にあつたとされる。このやうに、文明の盛衰と氣候變動とは因果關係があると云へる。

ところで、宇宙物理學的知見からすると、地球磁場が弱化してゐることから、銀河宇宙線(雲の凝縮核)の飛來量が增加し、その結果、雲量が增加して氣温の低下が起こりうるとされる。磁場變動や地軸變動がこれに關連するか否かは不明であるが、昭和十五年から昭和五十五年までの四十年間における氣温の推移からすると、〇・一度の氣温低下が觀測されてゐるが、これに關するIPCC(氣候變動に關する政府間パネル)の説明によると、石油、石炭燃燒によるエアロゾル(浮遊粉塵)の大量飛散によつて地球の薄暮化による日傘效果に加へて、雲が增加したことによる氣温低下とされるが、支那やインドなど急激な産業化によつてエアロゾル(浮遊粉塵)の大量飛散してゐる地域に氣温低下が見られないので、この説明の科學的根據に疑問が投げかけられてゐる。

ともあれ、地球がこれから温暖化に向かふのか寒冷化に向かふのかは不明であるとしても、著しい異常氣象は確實に增大する傾向にある。その原因は、大氣循環速度の低下やその運動停止による攪拌状態だとの説明もある。いづれにせよ、どのやうな原因であらうと、各國の穀倉地帶に異常氣象が起これば、結果的には食料難が發生することだけは確かである。つまり、温暖化を減速させる對策が必要であるといふよりも、食料の安定確保の對策が喫緊の課題であつて、神學論爭や魔女裁判を彷彿させるやうな温暖化對策の大合唱に目を奪はれて、人類の死活問題といふべき食料問題と人口問題を疎かにしてゐることこそが世界最大の問題なのである。

そして、これらの問題の根底には、水の問題がある。そもそも、文明は「水」に始まるものである。インダス文明と呼ばれる「インダス」とは、サンスクリット語で「川」のことであり、考古學的に認識しうる初めての文明とされるメソポタミア文明の地域はシュメールと呼ばれた。このシュメールといふのは「葦の多い地方」といふ意味である。『古事記』上卷には、「次國稚如浮脂而、久羅下那州多陀用弊流之時、如葦牙因萌騰之物而成神名、宇摩志阿斯訶備比古遲神(つぎにくにわかくうきしあぶらのごとくして、くらげなすただよへるとき、あしかびのごとくもえあがるものによりてなれるかみのなは、うましあしかびひこぢのかみ)」とあり、天壤無窮の御神敕(日本書紀卷第二神代下第九段一書第一)にも「葦原千五百秋之瑞穗國」(あしはらのちいほあきのみづほのくに)とあるのは、このことを意味する。

人の生命を維持するのは、水と土と空氣と食物である。これらがいづれも複合的に汚染すれば、當然に體も命も汚染される。體は、殆ど水でできてゐるから、水が歪めば體も歪む。水と土が歪めば食物が歪み、そして體が歪む。たとへば、ファーストフードのハンバーガーには約七十種類の食品添加物が投入されてをり、市販の各種清涼飲料水や化學調味料などにも、多種多量の保存料、着色料、香料などの食品添加物や白砂糖などが投入されてゐることから、これを飮食し續けることによつて、生活習慣病、低血糖、骨粗鬆症、高血壓症、アレルギー症状、精神異常、妊娠異常、認知症、免疫力低下、味覺障害など、萬病を引き起こすことになるのである。

また、治水が文明の基礎であることと同樣に、人の體も水でできてゐるといふ現實に目を塞ぎ、現代醫療は、醫食同源といふ醫療の原點を見失ひ、限りなく生命體の攝理に背馳して歩んでゐる。そのためか、燒け石に水の如く、難病、奇病、慢性病が蔓延して不健康社會となり、醫療費負擔が急激に增大し、これに反比例して勞働能力と實質的な生活水準は低下し續ける。さらに、世界の異常氣象の多發と人口の爆發的增加を考慮すれば、食物の源泉である農林水産資源を遍く將來的に繼續確保しうるかについて著しい不安がある。穀物については後述するとして、世界の漁業資源の減少については深刻なものがある。國連食糧農業機關(FAO)によると、世界の漁業資源のうち、十七パーセントは亂獲の状態にあり、八パーセントは枯渇の状態にあるといふ。そして、資源の大半にあたる五十二パーセントは、資源の再生維持の限界點まで漁獲されてをり、漁獲總量を增加しうる資源は極めて少ない状態にあるとされてゐる。

また、水は、人の生命を維持する飮料水や生活用のものだけでなく、農業用、工業用などもあり、食料生産や産業生産を支へるものであるが、すべて淡水であり、この淡水量は地球上の水としては餘りにも少量なのである。

さらに言へば、人類にとつて食料や水の確保は必要不可缺ではあるが、とりわけ、生存のための生體的な安全が確保されなければならない。しかし、これを脅かすものとして、「核」の存在がある。

核保有國の原爆や水爆は、世界を何回となく滅亡させる數量であり、その管理についても政府の不安定化などによる核汚染の不安がある。その上、昭和四十年に、アメリカの軍艦が沖繩近海の海中に落としてしまつた水爆一基や、同六十一年に、バミューダ諸島東海域において舊ソ連の原子力濳水艦が三十二基の核彈頭、二基の核魚雷、二基の原子爐と共に沈んだことなど、現在、判明してゐるだけでも、世界の海に沈んでゐる五十基の核兵器と九基の原子爐があり、さらには、海洋投棄されてゐる無數の放射性廢棄物による放射能漏れの脅威がある。核保有國はこれらの回收責任を果たさず、核の廢絶について合意すら行つてゐない。地球上に紛爭が多發してゐることなどからして、核戰爭や原發事故などの最大の「人災」が今後とも發生する危險はある。

このやうに、シュメール文明やエジプト文明の崩壞は森林の過剰伐採といふ「人災」に原因があつたことの教訓を生かしきれずに、世界は混迷してゐる。文明の崩壞の原因は、人類の營みが、地球上の他の動植物との共生といふ自然な地球の營みから大いに逸脱して、地球の最外層(地殻)から成層圈に至るまでの物質循環に急激で大量の人爲的變更を加へたことによるものである。これを推進してきたのは、地球は人間だけのものであり、總ての動植物などは人間のために生け贄として生存を認められ、文明とは人間と自然との對決であつて、その目的は人間が自然を征服することであるとする「天に唾する」人間中心思想によるものである。そのため、文明の崩壞は、この思想がもたらす自業自得の「人災」なのである。

以上のことは、人類及びその他地球上の總ての生物は運命共同體であることのみならず、地球自體が一個の生命體であつて、進歩主義文明といふ人類の自然破壞活動によつて、傷ついた體を自然治癒できる地球の能力(再生能力)にも限界があることを物語つてゐる。

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