國體護持總論
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著書紹介

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國富本位制の國内系と國際系

この國富本位制は、世界各國家が國内系における通貨制度として採用されるべきものであるが、國際系の貿易取引と外國爲替取引において、これをそのまま採用することはできない。

それは、「法の論理」が適用される國内系と「力の論理」が適用される國際系との相違に根差すものであるが、そもそも、世界政府が成立してゐない状況では、各國と世界とが完全なフラクタル構造になつてゐないためでもある。世界政府が成立して初めて、世界國家の國富本位制が完成することになるだらう。

しかし、それは實現する可能性が極めて低い。そのためも、この現状を踏まへて、國際系における通貨制度と外國爲替制度について最適な制度を考案しなければならないのである。


ドルが基軸通貨として流通してゐるものの、國際流動性のジレンマ(international liquidity dilemma)により、ドルの流通が促進されることによる信賴の向上と、それによつて價値の低下を招くことによる不安定化が逆に信賴を低下させるといふジレンマを將來において解消できる目途がない。

平成二十一年三月二十三日に發表された「國際通貨體制改革に關する考察」といふ論文の中で、中國中央銀行總裁・周小川は、特定の國の通貨であるドルが「準備通貨」(基軸通貨)の役割を兼ねる國際通貨體制には限界があるので、ドルに代へてIMF(國際通貨基金)の特別引出權(Special Drawing Rights SDR)を準備通貨にすべきだと主張した。つまり、ケインズ案(バンコール案)に返るべしと發言したのである。ケインズがアメリカ一極支配に挑んだ新制度案を引き合ひに出したのは、ケインズと同じ思ひを共有してゐるためであらう。そして、世界における安定した統一通貨制度が必要であると感じるくらいに、現行の國際通貨制度に強い危機感と問題意識が世界の隅々で湧き上がつてゐることだけは確かである。


これらを解決するための方法として、まづ結論を言へば、各國が貿易取引及び外國爲替取引においてのみ金本位制(金塊本位制)を採用し、各國が國際取引に限定した金兌換通貨(貿易通貨)を發行することである。

バンコールのやうな人工貨幣單位(世界通貨)を創設するとなると、世界の中央銀行を設けて、それに通貨發行權を委ねることとなるので、現状ではそれは不可能である。世界政府がないままにそれを實施するとなると、國際的な力関係によつて、FRBなどの歐米銀行家連合體が再統合した組織が編成され、それに牛耳られることなつて、結局は元の黙阿彌になつてしまふことが必至である。

これを回避するためにも、統一した國際通貨でなく、國際基準による各國の金兌換通貨(貿易通貨)で足りる。各國がそれぞれ自國の通貨發行權に基づいて國際基準を滿たした金兌換通貨を發行すれば、他國のそれと均一同價値のものとなるから、各國の貿易通貨が均一同價値で流通することになるので、すべてが國際通貨になるのである。


また、金塊(金地金)の現物取引でも取引は可能ではあるが、取引に用ゐられる現物の金塊について、その重量、體積、比重、純度などの檢査や金塊製造者の信用性の調査などを取引毎に逐次實施する作業が必要となる。迅速性に缺き、運搬、保管などのリスク負擔も大きい。そのために、どうしても金兌換券によることなるのである。


この金本位制は、リカードが提唱した金核本位制の一種である金塊本位制(金地金本位制、gold bullion standard system)であり、金爲替本位制(gold exchange standard system)ではない。この金塊本位制は、イギリスにおいて一九二五年から一九三一年まで採用されてゐたことがあるものである。

ただし、その金兌換通貨である國外通貨(貿易通貨)の發行總量は、各國(政府と民間)がそれぞれ保有する金塊(金地金)量と同じでなければならない。また、これは金額が表示されるのではなく、金の重量が表示された金券(金塊引換券)である。そして、各國の貿易通貨も、金の重量表示であるから、各國の貿易通貨は均質かつ同價値である。この金本位制は、まさに金塊本位制であり、國内における國富本位制の通貨(國内通貨)と同じ趣旨による通貨發行額の制限を受けるのである。これは、國富本位制の一種である。しかし、國富の總量が國内通貨の總量を決定するのではなく、國富の一部である金塊(金地金)の保有總量が貿易通貨の總量を決めるといふ金塊本位制である。

そのために、國内通貨發行の基準となる國富からは、金塊の總量(政府と民間の保有總量)を除外し、金塊とそれ以外の國富とを通貨制度の上で棲み分けさせることになる。


金塊は商品(商品通貨)であるから、國富本位制による國内通貨と金塊本位制による國外通貨(貿易通貨)又は金塊自體との交換取引、あるいは、外國の貿易通貨と國内の貿易通貨又は國内通貨との交換取引が想定されるから、政府としてはその取引市場(金塊市場)を開設し、あるいは私的に取引される場合には取引當事者に届出義務を課して取引量の詳細を報告させ、金塊總量の變化を把握しなければならない。この金塊市場に參加できるのは、金塊保有者及び貿易通貨保有者であり、主として貿易業者になるから、輸出入の貿易収支はここでなされることになる。


輸出の場合は、流通財が國外に移轉するので、國内的に見れば消費されたことになり、國内通貨總量を減少させる原因になるが、その對價として、自國又は他國の貿易通貨を取得し、これが金兌換通貨であることから金塊(流通財)の取得と同視できる。これに對し、輸入の場合は、その逆の關係になる。

それぞれの增減の變化は、最終的には金塊市場での貿易収支によつて確定するが、その結果において、輸出超過の場合は、金塊以外の流通財が減少し、金塊が增加するので、それに對應する國内通貨量が貿易通貨量へと振り替へられる。また、輸入超過の場合はその逆の處理がなされる。

しかし、各國政府としては、財政的措置などにより、貿易収支によつて變動する貿易通貨量を安定的に管理することが政策的に要請される。それは、貿易通貨量を急激かつ大幅に增減させることは、それが心理的に影響して著しい信用収縮や信用過熱を來すことになる恐れがあるからである。


そして、このやうな通貨制度を導入する前提として絶對に必要なことは、金塊市場における爲替取引、交換取引では貿易決濟に限定し、金融資本は絶對に參加させてはならないことである。後で詳しく述べるが、「お金がお金を生む」といふ制度は、國富本位制に反するので、全世界から駆逐せねばならないからである。

また、前に述べたが、基幹物資の自給率を高めるために「貿易をなくするための貿易」といふ方向貿易理論によつて貿易自體が縮小に向かふので、各國が保有しなければならない金塊總量を大きく增やさなければならない必要はなくなるのである。


ところで、各國が、國外においても本位制を採用する必要があるとしても、その本位財を金塊にする必要があるのか、金塊以外に本位財とするものがありうるのではないか、との疑問がある。

しかし、いまのところ金塊を本位財とするには理由がある。まづ、金本位制よりも長い歴史を持つ銀本位制について言へば、銀は金に比べると、これまでからして供給量や價格の變動が激しいことがあつたことから、今後も同樣の事態が起こると豫測されるので本位財としての安定性はなく不適格と思はれる。

また、原油は、現實には世界の商品通貨として、實質的に原油本位制(crude oil standard system)として流通してゐるが、この原油を本位財として正式に價値尺度にすることにも問題がある。國際石油資本と、これに對抗して結成されたOPEC(Organization of Petroleum Exporting Countries)との均衡繼續に不安があり、産油國と非産油國とが偏在してゐる現状では公正公平な價値基準としては不適切だからである。また、原油は採掘生産開始までのイニシャルコスト(初期經費、初期投資、initial cost)は膨大であるが、この事業は送電事業と同樣に費用逓減産業であることから、その後における生産調整による價格操作や金融資本の介入が必然的に起こりうる可能性が高いからである。


なほ、我が國からすれば、籾米は、生活必需品である食糧として備蓄に最も適したもので、流通財の中でも富の蓄積を實現できる最高のものである。我が國は、これまで米(コメ)本位制(rice standard system)の時代があつた實績があり、これが國の内外において新たな商品通貨となる大きな可能性がある。籾米の保管方法は比較的簡單で、玄米、精米と比較しても、長期に亘つて劣化せずに保管ができるものだからである。今からでも、籾米本位制(米本位制)が世界的に併用的でも採用されれば、我が國を初めとする米生産國の地位が向上し、原油本位制との均衡が保たれることになる。


このやうな世界經濟に移行するためにも、外國爲替制度は、これまでの變動爲替相場制(floating exchange rate system)から固定爲替相場制(fixed exchange rate system)に復歸しなければならない。しかも、その固定爲替相場制は、過去のものと同一ではなく、年度毎に更新して變更されるものでなければならない。更新基準は、前年度比を基準として、各國の基幹物資の自給率、國富總量、國富成長率、購買力平價などの加重平均による比率の增減で修正されるものである。自給率が高くなり國内供給力が增加して内需(domestic demands)が擴大すれば、國富が增加して國力が強まるので、國力の指標である自國通貨の價値を高めることになる。そうなれば、方向貿易の實踐により、自給率を高めるために必要な外國からの生産財や知的サービスなどの提供を安く受けることができ、さらに自給率の向上につながる。また、その逆に、自給率が低くなり、國内供給力が低下すれば、輸入依存性が高くなり、國富が減少して國力が弱まるので自國通貨の價値を低くすることになる。

輸出に有利であるとして自國通貨の價値を下げることに腐心して貿易収支の黒字擴大に奔走する海外市場依存型の經濟政策は、重商主義の亡霊(新重商主義、new mercantilism)に取り憑かれてゐるためである。我が國は、貿易立國によつて富を獲得したが、今や貿易立國ではなく、技術立國、投資立國となつてゐる。そして、今度は自給力を強くして自給率を高め、完全自給國へと向かふことを國家目標とせねばならない。


ニクソン・ショックにより、固定相場制では一ドル三六〇圓であつたのが、變動相場制になつた途端に一ドル三〇八圓へと、今とは比較にならないほどの急激な圓高になつたとき、これでは輸出産業が大打撃を受けると動揺した當時の水田三喜男大藏大臣が、大變な事態になつたとして昭和天皇に奏上されたことがある。そのとき、陛下からは、圓高になるといふことは圓の價値が上がるといふことで、國民の財産や勞働の價値が高くなることではないか、とのお言葉を賜つたと仄聞する。まさに、このお言葉のとほりなのである。

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