國體護持總論
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著書紹介

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通貨保有税の創設

國富本位制を導入することと利子を禁止することとが制度的には不可分一體のものであることはこれまで述べたとほりであるが、これだけで充分であるかと言へば、決してさうではない。それは、これから述べる「通貨保有税」の創設が必要であるといふことである。この創設は、利子の禁止と一體となつて國富本位制の制度を補強することになるからである。

この通貨保有税の導入によつて政府に貫流した通貨は、通貨總量を減少的に調整する場合における「通貨消却」の對象とすることができることから、通貨總量の調整機能を發揮する點においても有用である。


ここで、通貨保有税といふのは、通貨保有者に對して、通貨を保有してゐることに對して通貨保有量に應じて課税される財産税のことである。

現金には個性がないので、これを所持することによつてその所有權が認められることが原則であるが、封金(封をして分離された特定の現金)の場合の所有權はこれを保有(保持)してゐる者ではなく、封金を寄託した者とされる。このやうな性質であることから、この租税は、實質的な所有權を論ずることなく、外形標準により保有したとする事實が認定されることによつて課税するものであることから、通貨保有税と名付けた。

そして、この課税對象者は、現金の保有者のみならず、現金と同視しうるものの保有者も含まれる。換金、拂戻、回収が容易とされてゐる流動資産の保有者であり、具體的には、預貯金等の名義人、貸金や寄託金などの債權者名義人である。


この通貨保有税の性質は、通貨發行管理事務の取扱手數料として受益者負擔の原則による租税である。經濟的機能としては、これまでの利子を債務者が債權者に支拂ふのではなく、債權者と債務者がそれぞれ政府に支拂ふことになる。債權者は貸金の債權者として、「負の利子」を政府に支拂ひ、債務者は貸金の保有者として、これまで債權者に支拂つてゐた利子を債權者に代つて政府に支拂ふといふ機能になる。それぞれが課税對象者として支拂ふことになるのである。その兩者が負擔する税額は、その通貨保有に課せられた税額を折半したものとなる。

しかし、通貨保有税は、共同事業のための出資金や通貨以外の流通財の賃貸における賃料を對象としない。共同事業による配當金等の事業所得や賃料所得に對して課税をどの程度行ふかについては、税制全體との關係で檢討すべきものであつて、ここでは檢討の對象としない。


ところで、共同事業のための出資とは、事業による利益と損失の損益割合が定められたものを言ひ、特に、損失の共同負擔がないものは、實質的には貸金と看做される。貸金か共同事業出資かは、損失が發生したとき、その共同負擔が履行されるか否かによつて判斷される。政策的には、實質的に貸金であるにもかかはらず共同事業出資であるとの假装がなされたときは、債權者と債務者に對し、貸付時から通貨保有税相當の税額と課徴金を徴収することにすれば、法令遵守を擔保させることができる。


また、通貨保有税は、外形標準課税の一種であるから、貸金を原資とする經濟活動の最終的利益の多寡とは無關係である。さらに、通貨保有の多寡は所得の多寡と正の相關關係があるため、累進税(progressive tax)の性質を持ち、消費税(consumption tax)などのやうな逆進税(regressive tax)でないため、所得の再配分機能を充分に發揮することになる。


ところで、國富本位制、利子の禁止及び通貨保有税の創設とが一體性を持つことに合理的な根據があるとしても、これまで社會に定着し人々が慣れ親しんできた、金錢を借りることの利益とその對價を求めることの意識を簡單に捨てろとするのは傲慢ではないか、との批判がありうる。

しかし、その批判は全く當たらない。人の意識は簡單には變へられないし、無理に變へさせるやうことは避けなければならないのは當然であつて、これらの制度の導入は、これに反するものではない。つまり、通貨保有税が導入されても、その意識に本質的な變化は生まれないし、むしろ、その意識が維持されることになるのである。

それは、まづ、貸主としては、そのまま保有すれば通貨保有税を負擔することになるが、貸すことによつて、その税額が半額になる利益(税負擔半減の利益)があり、その利益意識が貸主側の動機付けになる。また、借主としては、借りることにより、これまでの「正の利息」に代はつて、半額の通貨保有税を負擔することで事業資金等に活用できる利點があり、この利益意識が借主側の動機付けになる。これまで貸主に抱いてゐた負ひ目は、貸主に利子を支拂ふことによるものであつたが、それを政府に支拂ふことによつて、納税者としての自負を生み、貸主との對等關係を維持することができる利點もある。それゆゑ、當事者の利益意識の態樣が變化するだけで、利益意識を否定することにならなず、貸金取引を躊躇させたり否定することには至らないのである。


特に、金融機關としては、市井から預金を集め、半額の通貨保有税の負擔を原價として、共同事業出資をすれば、それによる利益から税額負擔分を控除した差額が粗利となる。また、共同出資できない資金については、さらに他者に貸し付けることにより、その半額の税額を軽減できる。

これまで、金融機關は、國の内外における樣々な事業を牽引させてきたが、これからは、金融だけに特化した金融活動の役割を果たす必要はない。しかも、世界の富を遍在させて所得格差を增大させてきたことの歴史に學べば、金融機關その他の金融資本が實體經濟を混亂させる金融資本として暴走してきた時代を終はらせる必要があり、そのためにも、通貨保有税の導入によつて金融專門の活動を終息させ、金融資本(貸付資本)から投資資本へと經濟活動を轉換させる必要がある。


そして、なによりも通貨保有税を導入する效用としては、これまでの通貨に對する信仰による通貨保有から、食料備蓄を中心にした流通財保有へと人々の意識を自然と根付かせることができることである。通貨保有量の大きさを豐かさとしてきた意識から、流通財保有量の大きさを豐かさであると實感する時代へと移行するのである。この意識の變革によつて、國民のすべてが、備蓄に堪える流通財を優先的に選好(preference)してその購入のために保有通貨を放出すれば、その乘數效果(multiplier effect)は甚大なものとなる。企業は、その需要に應へるために、優良な耐久財や長期の備蓄が可能な消費財などを生産する方向へと向かふ。使ひ捨て商品のやうな耐久性のないものは、消費選好から外れる。さうして、生産と消費の經濟循環が、これまでのやうな奢侈で過剰な生産と消費の循環から樣變はりし、資源の無駄使ひを止めることができるのである。

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