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河野洋平告発鑑定書

関係各位 平成十九年八月二十三日



鑑 定 意 見 書


弁護士  南出 喜久治



関係各位からの要望により、河野洋平衆議院議長(以下「河野洋平」といふ。)が官房長官であつた平成5年8月4日に行つた戦地売春婦(慰安婦)に関する談話(以下「河野談話」といふ。)の内容が虚偽であり、それがそのまま撤回されずに存続してゐることに関して、刑事告発が可能であるか否か、また、それが可能な場合には、どのやうな手続をとればよいのかといふ点について小職に照会があつたので、これに答へるものとして以下のとほりこれに関する鑑定意見を述べる。

第一 鑑定の趣旨

本件について、河野洋平に対し、以下の要領により同人の所為が公務員職権濫用罪(刑法第193条)に該当するとして告発を行ふことが可能である。

一 告発事実の表示

被告発人河野洋平は、宮澤喜一内閣における官房長官、現在では衆議院議長の要職にあり、その間継続して衆議院議員の地位にある者であるが、前記内閣における官房長官であつた平成5年8月4日、「慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話」として、下記内容の談話(以下「河野談話」といふ。)を発表したが、その摘示事実中、「軍の要請を受けた業者」、「官憲等が直接これに加担した」、「いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」とする点(以下「摘示事実」といふ。)が真実と異なる虚偽のものであることを認識しながらあへてこれを公表し、さらに、現在では河野談話中の摘示事実が虚偽であつたことが客観的に明らかになつてゐるのであるから、摘示事実が虚偽であることを事後において撤回ないし取消の措置を講ずるなどして真実を公表しなければならない義務があるにもかかはらず、河野談話発表時から現在に至るまで、その職権を濫用し、摘示事実が虚偽であることを理由として撤回を公表することなどを故意に怠り続ける行為を継続したことにより、河野談話を契機として慰安婦であつたと称する者らから我が国に対して損害賠償訴訟が多数提起され、さらに、河野談話を根拠として平成19年7月30日未明(日本時間翌31日未明)にはアメリカ合衆国下院本会議において、我が国の首相に対し公式の謝罪声明を求めることなどを内容とする第121号決議(以下「米議会決議」といふ。)がなされたことなどによつて、我が国がこれらの訴訟に応訴を余儀なくされ、また、米議会決議に対する我が国政府の釈明的見解を示さざるを得なくなるなど、もつて、その職権を濫用して我が国をして義務なきことを行はしめたものである。

二 河野談話の表示

「・・・慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合にも、甘言、強迫による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別にすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強迫による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。・・・」

三 罪名、罰条の表示

刑法第193条 公務員職権濫用罪

第二 鑑定理由

一 河野談話の虚偽性

1 河野談話は、平成3年12月より、我が国政府で調査を進めてきた結果の政府報告書に基づくものとされたが、その政府報告書によれば、このやうな、軍が強制連行に関与したといふ事実は全く報告されてゐなかつた。それゆゑ、河野談話は、政府報告書に基づかない完全な虚偽の内容だつたのである。

2 これは、初めに謝罪ありき、とする崩壊直前の宮澤内閣が最後に行つた我が国に対する最大の背信行為であつて、現に、我が国は、この河野談話の記者発表前に、予めその内容を極秘裡に韓国側へ通報し、その内容の適否を協議して韓国の了解を得てゐたのである。

3 そもそも、民間事業として戦地における売春営業にすぎず、本来であれば「戦地売春婦」と云ふべきを、あたかも従軍看護婦や従軍記者などのやうに軍属を連想させるやうな「従軍」の名称を付した「従軍慰安婦」といふ用語を捏造し、これを意図的に使用するメディアなどと連動した対応がなされてきた。

4 その詳細については省略するが、それらの具体的な事実関係については、関係各位が承知されてゐるとほりである。

二 公務員の真実義務

1 占領憲法第15条第2項によれば、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」と規定し、一般職であると特別職であるとを問はず、すべての公務員は「全体の奉仕者」であるとされ、同第99条において、公務員には占領憲法の尊重擁護義務があることを規定してゐる。また、これらの規定を受けて、国家公務員法第96条第1項では、一般職の公務員について、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と規定してゐる。衆議院議員などの特別職の公務員についてこのやうな規定がないのは、そのやうな義務がないのではなく、むしろ、それ以上の誠実義務が課せられてゐるものの、その名誉を重んじることから、あへて注意規定にすぎないこの種の明文規定を設けなかつたにすぎないのである。

2 このやうな義務の具体的内容としては、虚偽の内容を真実であるかのやうに発表してはならないといふやうな「真実義務」が基礎的内容であることは多言を要しないところである。特に、本件に即して云へば、河野洋平としては、軍が強制連行に関与したといふ事実は全く報告されてゐなかつた政府報告書に基づき、そのやうな報告はなかつたことを内容とする河野談話を公表すべきであつて、虚偽の摘示事実を内容とする河野談話の公表は、明らかに真実義務に違反する。

3 また、いかなる理由によるものであつたにせよ、河野洋平としては、摘示事実が政府報告書と異なつたものであることを知悉してゐたのであるから、事後において、それが政府報告書とは異なる内容であり、しかも、事実と異なる虚偽のものであつたことを告白して河野談話を撤回ないし取消して、全体の奉仕者としてそれを報告し、河野談話によつて我が国に生じた一切の不利益事態の是正、回復を図り、それによる損害の拡大を防止して原状回復を行ふといふ「是正義務」もまたこの真実義務の内容となるものである。

4 つまり、河野洋平は、河野談話が前提とする事実が虚偽であることを知つてゐたのであるから、河野談話を発表してはならない義務があり、さらに、発表後においても、河野談話が虚偽の事実に基づくものであることを説明して発表し、河野談話自体をその発表者の立場から撤回するなどの是正義務があるのである。

三 公務員職権濫用罪について

1 ところで、刑法第193条は、「公務員がその職務を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。」と規定し、公務員職権濫用罪(以下「職権濫用罪」といふ。)を定めてゐる。

2 この行為主体は、公務員であり(身分犯)、その客体は「人」である。その範囲については制限はなく、公務員も客体たりうるとするのが通説である。公務員は国の事務を執行する者であるから、公務員に対する妨害行為等は、すなはち国に対する妨害行為等となるから、国も客体たりうることになる。また、犯罪の性質上、この「人」とは、自然人のみならず法人も含むことは当然であり、国家もまた法人であることからこれに含まれることになる。つまり、詐欺罪、背任罪、窃盗罪などにおいても、その客体として「人」ないしは「他人」とあるが、これに自然人はもとより、私法人、国や地方公共団体その他の公法人を含むことは当然だからである。

3 また、国の被害者性について云へば、職権濫用罪においては、国は常に間接的被害者の地位にある。なぜならば、占領憲法第17条では、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は自治体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、これを受けて国家賠償法が制定されてゐることからすると、国は公務員の不法行為における間接的な被害者である。このやうに、国は間接的被害者の立場にあることからすると、国が直接的な被害者となる場合も当然に想定されるのであつて、殊更にこの直接的な被害者となる場合を除外することができる根拠はどこにも見当たらない。従つて、その意味においても、刑法第193条の「人」には、国が含まれると解されることになる。

四 河野談話発表行為の犯罪性

1 以上の検討からすると、河野洋平が故意に真実義務に違反し、その職務の本旨に反して職権を濫用し河野談話を発表した結果、我が国からすれば、これがなければ多くの慰安婦関係訴訟が提起されなかつたのに、これらに対して応訴することを余儀なくされたこととなり、被害者である国に「義務のないことを行わせ」ることとなつたのであるから、河野談話発表行為は職権濫用罪に該当することになる。

2 ところが、刑事訴訟法第250条第6号によると、職権濫用罪の公訴時効は3年であるから、河野談話が発表された平成5年8月4日から現在まで14年以上経過してゐるため、同法第255条により、河野洋平が国外に居る期間を除外したとしても、河野談話の発表行為だけに着目すれば公訴時効が完成してゐる可能性が高い。

五 河野談話撤回不作為行為の犯罪性

1 しかし、河野洋平の真実義務はこれだけではない。職権濫用罪の「行為」は、真実義務違反に違反して河野談話の発表行為を行つたといふことだけではなく、河野洋平が、河野談話発表後において、速やかに河野談話を撤回するなどの是正義務を故意に履行しないといふ不作為行為もその対象とされる。「行為」とは、「作為」であると「不作為」であるとを問はないからである。

2 この不作為による是正義務違反行為は、まさに確信犯的な故意行為であつて、しかも、不作為といふのは、監禁罪などと同様に、その違法状態が解消されない限り行為が継続してゐるといふ態様の「継続犯」であるから、現在もその犯罪行為を行ひ続けてゐるのであつて、公訴時効の起算点は「犯罪行為が終つた時から」(同法第253条第1項)であるから、そもそも公訴時効は進行してゐないのである。公訴時効が進行するのは、河野洋平が是正義務を履行して河野談話を撤回したときからである。つまり、河野洋平は、未だに犯罪行為を続けてゐる犯人であるといふことである。

六 本件告発事実について

1 ところで、前記四の行為(河野談話発表行為)と前記五の行為(河野談話撤回不作為行為)とは、個別に認識されるものではない。むしろ、両者は不可分一体のものとして認識されるものである。

2 すなはち、包括一罪ないしは、両罪が手段と結果との関係にある牽連犯(刑法第54条)に該当するので、科刑上の一罪であるから、その公訴時効は、最終行為の時より起算するのが判例である。それゆゑ、前記四の行為(河野談話発表行為)もまた公訴時効が完成してゐないことになる。

3 従つて、上記第一の一(告発事実)では、包括一罪としての構成とした。

七 告発手続について

1 以上の理由に基づいて、河野洋平に対して告発する場合、誰であつても職権濫用罪の告発は可能である。告訴の場合は、被害者でなければなしえないが、告発は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発することができる。」(同法第239条第1項)のであつて、何ら利害関係のない誰であつても告発できる。

2 その具体的な手続や文書の作成については、市販の「告発状」の書式を利用して各位において創意工夫されたいが、一応はその概要だけを述べるとすると、まづ、表題は「告発状」とし、「告発事実」としては上記を参考にして記載されたい。そのまま記載してもよいし、他の事項を付加しても差し支へない。そして、告発に至つた事情等を「告発の事情」としてそれぞれが記載されればよい。そこには、河野談話の内容が虚偽であることの詳細な事実関係、慰安婦訴訟の実態、米議会決議とその経緯などについて、その証拠資料を引用して詳細かつ具体的に記載していただきたい。それ以外には、告発人の住所、氏名、被告発人の住所(神奈川県小田原市成田233)、氏名(「河野洋平」と正確に記載すべきであり、間違つても、「江沢民の傭兵」といふ意味で「江の傭兵」といふやうな諧謔表示では受け付けてくれない)、そして、日付と宛先を書いて完成である。

3 宛先については、明確な規定はないが、刑事事件の裁判籍(土地管轄)の関係で、犯罪地(東京)又は被疑者(河野洋平)の住所、居所若しくは現在地といふことになり、住所地以外にも、神奈川県の小田原事務所(神奈川県小田原市成田178-1)、東京事務所(東京都千代田区永田町2-1-2衆議院第二議員会館第503号室)などを所轄する最寄りの警察署、神奈川県警本部、警視庁、横浜地方検察庁(本庁)、横浜地方検察庁小田原支部などでよい。告発状における被告発人の表示において、これらを併記されればよい。現在地も含むので、河野洋平が出張したりした地域の最寄りの警察署や検察庁にも提出できる。

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