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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第六十三回 胎児虐殺

はらみごを おのがてはずを ことわけに おろすをはぢぬ つみのおろかさ
(孕み子を己が手筈を事訳に堕ろすを恥ぢぬ罪の愚かさ)

総務省が平成28年2月26日に公表した平成27年10月1日時点での国勢調査速報値によりますと、我が国の総人口が調査開始以来、初めて人口減少に転じました。死亡数の増加はあるとしても、出生数が昭和24年の269万7000人をピークに年々減少し、今ではその約3分の1程度の約100万人にまで減少してゐることが主な原因なのです。


それは、母体保護法第14条第1項第1号によつて人工妊娠中絶される胎児が公表数でも年間約20万「人」(実際はその2倍と推定)殺され続けて出生数を減少させてゐることがその主な原因となつてゐます。特に、その中でも「経済的理由」によつて人工妊娠中絶される数が大多数を占めてゐるのです。


敗戦直後の最悪であつた国民の経済生活は、その後急激に改善し続けてゐるにもかかはらず、これに反比例して、「経済的理由」によつて人工妊娠中絶する数が減らないのは、どうしてなのでせうか。


一年以上前に、ウルグアイの大統領を退任したホセ・ムヒカは、「私は貧乏ではない。質素なだけです」、「貧乏とは、無限に欲があり、いくらあっても満足しないことです。」などの名言を残しました。経済状態が向上しても、無限の欲があれば、妊娠や育児による経済的負担をしたくないといふ経済的理由によつて人工妊娠中絶をすることになるのです。

このやうに、ホセ・ムヒカは、「命より大切なものはありません」と言つてゐたはずですが、しかし、これと全く矛盾することを行ひました。


それは、ウルグアイで、「すべての成人女性は、妊娠12週の間に、自由意思により妊娠の中止を決める権利を有する」とする人工妊娠中絶を推進する法律を制定したからです。

そして、この法律では、レイプによる妊娠や母体の生命が危険な場合などは、12週といふ制限を適用しないとしてをり、これには一理あるとしても、全面的に人工妊娠中絶をする権利を認めてしまつたのです。これほど自らの言説と矛盾したことを平気で行ふ偽善者も珍しいものです。


これまで、人工妊娠中絶に関しては、特に、カソリック系の団体などが宗教的理由から反対してきましたが、中絶推進派に押し切られて、世界的にも中絶推進の法律が各国で次々に制定されてきてゐます。


我が国でも、敗戦直後の占領期に人口爆発が起こると、食糧問題がさらに深刻になることはもとより、将来における対米報復戦争のための潜在戦力が増強するのではないかと警戒したGHQの指示によつて、議員立法の形式を仮装して人工妊娠中絶を容認する優生保護法が制定されました。これがもしGHQの指示であることがアメリカ本国に知られてしまふと、カソリック系からの囂々たる批判を浴びせられることになるので、どうしてもそのことを隠したかつたので議員立法の形にしたのです。


この優生保護法は、現在では母体保護法といふ法律名称に変更されましたが、その第14条第1項第1号には、「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」について、指定医師が、本人及び配偶者の同意を得て人工中絶を行ふことができるとしてゐます。


しかし、身体的理由の場合はさておき、「経済的理由」の有無や、それによつて「母胎の健康を著しく害する」との認定をどうして指定医師ができるのでせうか。ですから、これは全くのザル法として、指定医師の隠れた巨大利権と化し、無制限に人工妊娠中絶がなされることが恒常化し、現在では、堕胎罪は完全に死文化してしまつて中絶天国(胎児からすれば中絶地獄)となつてゐます。


産婦人科医が、人工妊娠中絶を行ひつつ、他方では、不妊治療を行ひ、商業主義による体外受精、遺伝子操作まで試みようとしてゐるのは、まさにマッチ・ポンプの最たるものと言へるのです。


人工妊娠中絶をする権利とは、言ひ換えれば胎児を殺す権利といふことです。どうしてそのやうな恐ろしい権利が認められるのでせうか。


これまで、これに反対するのは、宗教的理由とか人道的理由として主張されてきましたが、宗教を異にする人はこれに同調せず、逆に、中絶推進派に与することもありました。しかし、経済的理由による人工妊娠中絶に反対するのは、もつと一般的で普遍的な理由があるからです。


それは、人工妊娠中絶は日本国憲法に違反するといふ理由です。日本国憲法第97条には、「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」とあります。


ここに言う、「将来の国民」といふのは、もちろん「胎児」が含まれるのです。胎児もまた基本的人権を享有するものであり、何人にも「胎児を殺す権利」はありません。経済的理由によつて人工妊娠中絶をする権利があるなどと叫ぶのは、胎児を私物化し奴隷化することを認めろとするに等しい人権無視の反憲法的な暴論です。


中絶推進派は、胎児を出産し養育することによつて、これまでの経済的生活を維持できなくなるほどの経済的負担を負ふことになるとの認識によつて中絶を容認します。

しかし、借金を免れるために人を殺すことは強盗殺人罪であり、胎児を金食ひ虫の邪魔者であるとして殺すことも、これと同じことだといふことを自覚せねばなりません。


平時において少なくとも年間約20万人の自国の胎児を大量虐殺することを容認し続けて、母体保護法の改正を阻んできた我が国におけるすべての既成政党や政治勢力が、大量殺戮の結果を生む戦争に反対することを叫ぶ資格などは毛頭ありません。ご都合主義の支離滅裂な偽善者の主張で、自家撞着の極みとしか言ひ様がありません。日本国憲法第97条に違反してきたことの真摯な猛省をしてほしいものです。


私たちは、真の世界平和実現を希求してゐます。そのためには、「隗より始めよ」と言ふとほり、胎児の命を慈しむ心を養ひ、経済的欲望のために胎児を殺すといふ生活態度を糺し、一人一人が世界平和を実現しうる覚悟と行動を一歩一歩着実に積み上げて行く努力をしなければなりません。


もし、出産後の育児等が困難な場合は、夫婦、親子や家族、そして地域、国がこれを支援して、自助、共助、公助により子どもを健康・健全に育て上げることによつて、守つて行く必要があります。


平成28年7月26日に、優生思想を唱へて、障害者施設に隔離された多数の障害者を虐殺した忌まはしい事件が相模原でありました。この犯罪を強く指弾する人であれば、胎児の大量虐殺を即時中止させる声を上げなければならないはずです。


障害者を虐殺したり人権侵害することは認めないが、胎児の虐殺をし続けることは認めるといふ人は、相模原事件の犯人を批判することはできません。この犯人以上に倒錯した認識矛盾があることに一日も早く目覚めてください。


少子化対策をすると言ひながら、人工妊娠中絶を容認するといふのも、マッチ・ポンプの典型です。少子化対策は、まづは母体保護法第14条第1項第1号の「経済的理由」を削除することと、それに対応するセーフティー・ネットの構築を基軸にしなければならないのです。

どうかこの運動に心ある多くの人達が独自の立場で積極的に取り組んでいただき、是非とも法改正が実現できるやうご協力のほどお願ひ申し上げる次第です。

 

南出喜久治(平成28年11月15日記す)


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