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トップページ > 自立再生論02目次 > H29.09.15 第八十三回 防衛機序

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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第八十三回 防衛機序

ぬるまゆに つかりてそなへ わすれける いへのぬかりは くにのひながた
(温ま湯に浸かりて備へ忘れける家の拔かりは 國の雛形)

人体の免疫機序(機能)と国家の防衛機序(機能)とは相似してゐます。


たとへば、ガン細胞に対する免疫機序については、自然免疫を高めてガン細胞に打ち勝つために、多くの種類の免疫細胞があり、中でもNK(ナチュラルキラー)細胞はウイルス感染や細胞の悪性化等によって体内に異常な細胞が発生した際に、すぐさまそれらを攻撃する初期防衛機構として働くもので、最前線で活躍する非常に重要な免疫細胞なのです。


ところが、このNK細胞だけを増殖させればガンを克服できるものでないことが解つてきました。


免疫抑制細胞といふものがあり、これがガン細胞を取り巻いてガートしたり、免疫細胞にそれをガン細胞と誤認して攻撃させたりして免疫細胞の力を弱めたりするので、ガン細胞を減らすことにならないのです。この免疫抑制細胞の働きを押さへ込むことが必要になつてゐます。免疫療法では、この二つの側面が必要になつてきます。


このやうな機序は、国家の防衛機序についても同様のことが言へます。


免疫細胞に匹敵する軍隊をいくら増強しても、それだけで国防は不十分であり、国内や国外からの敵の行ふ非軍事的工作などに対応しなければ、内乱や政府要人の殺害などによつて足下を掬はれることになるからです。


さらには、食料自給率が低くて食料安保が不十分だつたり、ロジスティックス(兵站)が分断されたり、サイバー攻撃によつてコンピュータ機能が破壊されたりすると、火器を用ゐる戦闘部隊自体が活動できなくなつたり、指揮命令系統が混乱して役に立たなくなるのです。


いまや、我が国は、アメリカ、中共、ロシア、韓国などと相互の貿易に依存する経済システム(サプライチェーン、食料依存など)に支配されてをり、火器による全面戦争はできないので、火器を使はない非軍事的外交戦争に重点を置かざるを得ないのです。


それは、宇宙開発競争、サイバー戦争、情報戦争、食料戦争などといふ非軍事的なもののことであり、我が国が出遅れてゐる部門です。


また、我が国は、原発に対する攻撃により原発が破壊され核物質が飛散して原爆投下がなされたと同様の悲惨な結果を防ぐための原発防衛が完全に無防備状態にあります。艦砲射撃や通常爆弾による空爆、あるいは事故に見せかけた破壊工作活動によつて、核汚染を引き起こし、これによつて産業全般に経済的な大打撃を与へて経済戦争に勝利するといふ敵国の戦略に全く抗しきれないのです。


にもかかはらず、原発防衛に対する確固たる具体的方針と方策を示せない原発推進論者といふ者は、そもそも防衛の意味を理解できてゐない素人か、単なる従米思想に毒された者のいづれかです。


所詮、防衛オタクは、防衛オタクでしかありません。

北朝鮮による核・ミサイル攻撃の危険性が高まつてゐますが、中共とロシアの核弾頭も我が国に向けられてゐることを忘れてはならないのです。

「専守防衛」といふ、そもそも防衛効果のない亡国の方針に基づく今の自衛隊では、我が国は守れません。自衛隊、自衛隊と唱へてゐるだけでは、国防にはなりません。

たとへば、島嶼防衛は、海上保安庁と海上自衛隊だけでできるものではありません。リアルタイムの情報を提供してくれる漁民(漁船)の存在が不可欠なのです。そのためには、漁業振興政策が国防上必須なのですが、その担当は農水省であり、全く連携がとれてゐません。

このことからだけでも、我が国の防衛大綱がいかに脆弱であり、無力であるかを物語つてゐます。


防衛は、国家の総力を挙げて行ふものであり、このままでは、昭和20年6月8日の御前会議で決定した三大国策(聖戦完遂、國體護持、皇土保衛)は実現できないのです。

南出喜久治(平成29年9月15日記す)


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