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日本國との平和條約(サンフランシスコ講和條約、桑港條約)
  (続き)

第五章  請求權及び財産

第十四條

(a) 日本國は、戰爭中に生じさせた損害及び苦痛に對して、連合國に賠償を支拂うべきことが承認される。しかし、また、存立可能な經濟を維持すべきものとすれば、日本國の資源は、日本國がすべての前記の損害及び苦痛に對して完全な賠償を行い且つ同時に他の債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。
   よって、
 1 日本國は、現在の領域が日本國軍隊によつて占領され、且つ、日本國によつて損害を與えられた連合國が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を當該連合國の利用に供することによつて、與えた損害を修復する費用をこれらの國に補償することに資するために、當該連合國とすみやかに交渉を開始するものとする。その取極は、他の連合國に追加負擔を課することを避けなければならない。また、原材料からの製造が必要とされる場合には、外國爲替上の負擔を日本國に課さないために、原材料は、當該連合國が供給しなければならない。
 2(Ⅰ) 次の(Ⅱ)の規定を留保して、各連合國は、次に掲げるもののすべての財産、權利及び利益でこの條約の最初の效力發生の時にその管轄の下にあるものを差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で處分する權利を有する。
   (a) 日本國及び日本國民
   (b) 日本國又は日本國民の代理者又は代行者 竝びに
   (c) 日本國又は日本國民が所有し、又は支配した團體
       この(Ⅰ)に明記する財産、權利及び利益は、現に、封鎖され、若しくは所屬を變じており、又は連合國の敵産管理當局の占有若しくは管理に係るもので、これらの資産が當該當局の管理の下におかれた時に前記の(a)、(b)又は(c)に掲げるいずれかの人又は團體に屬し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。
  (Ⅱ) 次のものは、前記の(Ⅰ)に明記する權利から除く。
   (ⅰ) 日本國が占領した領域以外の連合國の一國の領域に當該政府の許可を得て戰爭中に居住した日本の自然人の財産。但し、戰爭中に制限を課され、且つ、この條約の最初の效力發生の日にこの制限を解除されない財産を除く。
   (ⅱ) 日本國政府が所有し、且つ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品竝びに日本國の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具及び用具類その他の投資敵性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であつたもの
   (ⅲ) 宗教團體又は私的慈善團體に屬し、且つ、もつぽら宗教又は慈善の目的に使用した財産
   (ⅳ) 關係國と日本國との間における千九百四十五年九月二日後の貿易及び金融の關係の再開の結果として日本國の管轄内にはいつた財産、權利及び利益。但し、當該連合國の法律に反する取引から生じたものを除く。
   (ⅴ) 日本國若しくは日本國民の債務、日本國に所在する有體財産に關する權利、權原若しくは利益、日本國の法律に基いて組織された企業に關する利益又はこれらについての證書。但し、この例外は、日本國の通貨で表示された日本國及びその國民の債務にのみ適用する。
  (Ⅲ) 前記の例外(ⅰ)から(ⅴ)までに揚げる財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支拂われることを條件として、返還しなければならない。これらの財産が清算されているときは、代わりに賣得金を返還しなければならない。
  (Ⅳ) 前記の(Ⅰ)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で處分する權利は、當該連合國の法律に從つて行使され、所有者は、これらの法律によつて與えられる權利のみを有する。
  (Ⅴ) 連合國は、日本の商標竝びに文學的及び美術的著作權を各國の一般的事情が許す限り日本國に有利に取り扱うことに同意する。

(b) この條約に別段の定がある場合を除き、連合國は、連合國のすべての賠償請求權、戰爭の遂行中に日本國及びその國民がとつた行動から生じた連合國及びその國民の他の請求權竝びに占領の直接軍事費に關する連合國の請求權を放棄する。

第十五條

(a) この條約が日本國と當該連合國との間に效力を生じた後九箇月以内に申請があつたときは、日本國は、申請の日から六箇月以内に、日本國にある各連合國及びその國民の有體財産及び無體財産竝びに種類のいかんを問わずすべての權利又は利益で、千九百四十一年十二月七日から千九百四十五年九月二日までの間のいずれかの時に日本國内にあつたものを返還する。但し、所有者が強迫又は詐欺によることなく自由にこれを處分した場合は、この限りでない。この財産は、戰爭があつたために課せられたすべての負擔及び課金を免除して、その返還のための課金を課さずに返還しなければならない。所有者により若しくは所有者のために又は所有者の政府により所定の期間内に返還が申請されない財産は、日本國政府がその定めるところに從つて處分することができる。この財産が千九百四十一年十二月七日に日本國に所在し、且つ、返還することができず、又は戰爭の結果として損傷若しくは損害を受けている場合には、日本國内閣が千九百五十一年七月十三日に決定した連合國財産補償法案の定める條件よりも不利でない條件で補償される。

(b) 戰爭中に侵害された工業所有權については、日本國は、千九百四十九年九月一日施行の政令第三百九號、千九百五十年一月二十八日施行の政令第十二號及び千九百五十年二月一日施行の政令第九號(いずれも改正された現行のものとする。)によりこれまで與えられたところよりも不利でない利益を引き續いて連合國及びその國民に與えるものとする。但し、前記の國民がこれらの政令に定められた期限までにこの利益の許與を申請した場合に限る。

(c)(ⅰ) 日本國は、公にされ及び公にされなかつた連合國及びその國民の著作物に關して千九百四十一年十二月六日に日本國に存在した文學的及び美術的著作權がその日以後引き續いて效力を有することを認め、且つ、その日に日本國が當事國であつた條約又は協定が戰爭の發生の時又はその時以後日本國又は當該連合國の國内法によつて廢棄され又は停止されたかどうかを問わず、これらの條約及び協定の實施によりその日以後日本國において生じ、又は戰爭がなかつたならば生じるはずであつた權利を承認する。
   (ⅱ) 權利者による申請を必要とすることなく、且つ、いかなる手數料の支拂い又は他のいかなる手續もすることなく、千九百四十一年十二月七日から日本國と當該連合國との間にこの條約の效力を生ずるまでの期間は、これらの權利の通常期間から除算し、また、日本國において翻譯權を取得するために文學的著作物が日本語に翻譯されるべき期間からは、六箇月の期間を追加して除算しなければならない。

第十六條
日本國の捕虜であつた間に不當な苦難を被つた連合國軍隊の構成員に償いをする願望の表現として、日本國は、戰爭中中立であつた國にある又は連合國のいずれかと戰爭していた國にある日本國及びその國民の資産又は、日本國が選擇するときは、これらの資産と等價のものを赤十字國際委員に引き渡すものとし、同委員會は、これらの資産を清算し、且つ、その結果生ずる資金を、同委員會が衡平であると決定する基礎において、捕虜であつた者及びその家族のために、適當な國内機關に對して分配しなければならない。この條約の第十四條(a)2Ⅱの(ⅱ)から(ⅴ)までに掲げる種類の資産は、條約の最初の效力發生の時に日本國に居住しない日本の自然人の資産とともに、引渡しから除外する。またこの條の引渡規定は、日本國の金融機關が現に所有する一萬九千七百七十株の國際決濟銀行の株式には適用がないものと了解する。

第十七條

(a) いずれかの連合國の要請があつたときは、日本國政府は、當該連合國の國民の所有權の關係のある事件に關する日本國の捕獲審檢所の決定又は命令を國際法に從い再檢査して修正し、且つ、行われた決定及び發せられた命令を含めて、これらの事件の記錄を構成するすべての文書の寫を提供しなければならない。この再審査又は修正の結果、返還すべきことが明らかになつた場合には、第十五條の規定を當該財産に適用する。

(b) 日本國政府は、いずれかの連合國の國民が原告又は被告として事件について充分な陳述ができなかつた訴訟手續において、千九百四十一年十二月七日から日本國と當該連合國との間にこの條約が效力を生ずるまでの期間に日本國の裁判所が行つた裁判を、當該國民が前記の效力發生の後一年以内にいつでも適當な日本國の機關に再審査のため提出することができるようにするために、必要な措置をとらなければならない。日本國政府は、當該國民が前記の裁判の結果損害を受けた場合には、その者をその裁判が行われる前の地位に回復するようにし、又はその者にそれぞれの事情の下において公正且つ衡平な救濟が與えられるようにいなければならない。

第十八條

(a) 戰爭状態の介在は、戰爭状態の存在前に存在した債務及び契約(債務に關するものを含む。)竝びに戰爭状態の存在前に取得された權利から生ずる金銭債務で、日本國の政府若しくは國民が連合國の一國の政府若しくは國民に對して、又は連合國の一國の政府若しくは國民が日本國の政府若しくは國民に對して負つているものを支拂う義務に影響を及ぼさなかつたものと認める。戰爭状態の介在は、また、戰爭状態の存在前に財産の滅失若しくは損害又は身體障害若しくは死亡に關して生じた請求權で、連合國の一國の政府が日本國政府に對して、又は日本國政府が連合國政府のいずれかに對して提起し又は再提起するものの當否を審議する義務に影響を及ぼすものとみなしてはならない。この項の規定は、第十四條によつて與えられる權利を害するものではない。

(b) 日本國は、日本國の戰前の對外債務に關する責任と日本國が責任を負うと後に宣言された團體の債務に關する責任とを確認する。また、日本國は、これらの債務の支拂再開に關して債權者とすみやかに交渉を開始し、他の戰前の請求權及び債務に關する交渉を促進し、且つ、これに應じて金額の支拂を容易にする意圖を表明する。

第十九條

(a) 日本國は、戰爭から生じ、又は戰爭状態が存在したためにとられた行動から生じた連合國及びその國民に對する日本國及びその國民のすべての請求權を放棄し、且つ、この條約の效力發生の前の日本國領域におけるいずれかの連合國の軍隊又は當局の存在、職務遂行又は行動から生じたすべての請求權を放棄する。

(b) 前記の放棄には、千九百三十九年九月一日からこの條約の效力發生までの間に日本國の船舶に關していずれかの連合國がとつた行動から生じた請求權竝びに連合國の手中にある日本人捕虜及び被抑留者に關して生じた請求權及び債權が含まれる。但し、千九百四十五年九月二日以後いずれかの連合國が制定した法律で特に認められた日本人の請求權を含まない。

(c) 相互放棄を條件として、日本國政府は、また、政府間の請求權及び戰爭中に受けた滅失又は損害に關する請求權を含むドイツ及びドイツ國民に對するすべての請求權(債權を含む。)を日本國政府及び日本國民のために放棄する。但し、(a)千九百三十九年九月一日前に締結された契約及び取得された權利に關する請求權竝びに(b)千九百四十五年九月二日後に日本國とドイツとの間の貿易及び金融の關係から生じた請求權を除く。この放棄は、この條約の第十六條及び第二十條に從つてとられる行動を害するものではない。

(d) 日本國は、占領期間中に占領當局の指令に基いて若しくはその結果として行われ、又は當時の日本國の法律によつて許可されたすべての作爲又は不作爲の效力を承認し、連合國民をこの作爲又は不作爲から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動もとらないものとする。

第二十條
 日本國は、千九百四十五年のベルリン會議の議事の議定書に基いてドイツ財産を處分する權利を有する諸國が決定した又は決定する日本國にあるドイツ財産の處分を確實にするために、すべての必要な措置をとり、これらの財産の最終的處分が行われるまで、その保存及び管理について責任を負うものとする。

第二十一條
 この條約の第二十五條の規定にかかわらず、中國は、第十條及び第十四條(a)2の利益を受ける權利を有し、朝鮮は、この條約の第二條、第四條、第九條及び第十二條の利益を受ける權利を有する。

第六章  紛爭の解決

第二十二條
 この條約のいずれかの當事國が特別請求權裁判所への付託又は他の合意された方法で解決されない條約の解釋又は實施に關する紛爭が生じたと認めるときは、紛爭は、いずれかの紛爭當事國の要請により、國際司法裁判所に決定のため付託しなければならない。日本國及びまだ國際司法裁判所規程の當事國でない連合國は、それぞれがこの條約を批准する時に、且つ、千九百四十六年十月十五日の國際連合安全保障理事會の決議に從つて、この條に掲げた性質をもつすべての紛爭に關して一般的に同裁判所の管轄權を特別の合意なしに受諾する一般的宣言書を同裁判所書記に寄託するものとする。

第七章  最終條項

第二十三條

(a) この條約は、日本國を含めて、これに署名する國によつて批准されなければならない。この條約は、批准書が日本國により、且つ、主たる占領國としてのアメリカ合衆國を含めて、次の諸國すなわちオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王國及びアメリカ合衆國の過半數により寄託された時に、その時に批准しているすべての國に關して效力を生ずる。この條約は、その後これを批准する各國に關しては、その批准書の寄託の日に效力を生ずる。

(b) この條約が日本國の批准書の寄託の日の後九箇月以内に效力を生じなかつたときは、これを批准した國は、日本國の批准書の寄託の日の後三年以内に日本國政府及びアメリカ合衆國政府にその旨を通告して、自國と日本國との間にこの條約の效力を生じさせることができる。

第二十四條
 すべての批准書は、アメリカ合衆國政府に寄託しなければならない。同政府は、この寄託、第二十三條(a)に基くこの條約の效力發生の日及びこの條約の第二十三條(b)に基いて行われる通告をすべての署名國に通告する。

第二十五條
 この條約の適用上、連合國とは、日本國と戰爭していた國又は以前に第二十三條に列記する國の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合に當該國がこの條約に署名し且つ之を批准したことを條件とする。第二十一條の規定を留保して、この條約は、ここに定義された連合國の一國でないいずれの國に對しても、いかなる權利、權原又は利益も與えるものではない。また、日本國のいかなる權利、權原又は利益も、この條約のいかなる規定によつても前記のとおり定義された連合國の一國でない國のために減損され、又は害されるものとみなしてはならない。

第二十六條
 日本國は、千九百四十二年一月一日の連合國宣言に署名し若しくは加入しており且つ日本國に對して戰爭状態にある國又は以前に第二十三條に列記する國の領域の一部をなしていた國で、この條約の署名國でないものと、この條約に定めるところと同一の又は實質的に同一の條件で二國間の平和條約を締結する用意を有すべきものとする。但し、この日本國の義務は、この條約の最初の效力發生の後三年で滿了する。日本國が、いずれかの國との間で、この條約で定めるところよりも大きな利益をその國に與える平和處理又は戰爭請求權處理を行つたときは、これと同一の利益は、この條約の當事國にも及ぼされなければならない。

第二十七條
 この條約は、アメリカ合衆國政府の記錄に寄託する。同政府は、その認證謄本を各署名國に交付する。


以上の證據として、下名の全權委員は、この條約に署名した。
(以下省略)