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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第八十八回 議会請願訴訟

いさめにも なかだちもとむ しかけこそ とりはらふべき しくみなりけり
(諫めにも仲立ち求む仕掛けこそ取り払ふべき仕組みなりけり)

私は、昨年の平成28年12月6日付けで、衆議院と参議院の双方に対し、請願書を提出しました。


その内容は、国会法第79条及び地方自治法第124条には、請願をなす条件として、「議員の紹介」が必要とするとあることについて、この条件を削除する法改正を求めるものです。


請願といふのは、法律の制定や改廃その他一切の事項を求めるために文書にて国家機関に申し出る権利で、帝国憲法第30条や占領憲法第16条で認められてゐるものです。


そして、帝国憲法と占領憲法に基づいて、一般法として請願法が定められ、文書で行ふことが求められてゐるだけですが、その特別規定として定められた国会法第79条には、「各議院に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。」とあり、地方自治法第124条にも、「普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願書を提出しなければならない。」となつてゐます。


しかし、議員の紹介を必要とするのは、明らかに請願権の制約となつてをり、紹介議員となつてくれる議員がゐなければ請願できないといふことになるのです。


このやうな制約は、果たして認められるものなのでせうか。


このことに関して、平成16年の第161回臨時国会において、参議院に対して、「紹介議員がなくても請願できるようにすることに関する請願」がなされたことがありましたが、この請願を受け入れた立法措置はなされてゐません。

しかも、この請願は、紹介議員を不要にせよとの請願の趣旨と矛盾して、紹介議員があつたために、皮肉なことに請願として受理されたものです。


紹介議員を不要とする法改正を求める請願を受理させるために、その請願に紹介議員を求めるといふのは、「離婚したいので結婚しよう」のやうな自家撞着に陥つてゐます。


ですから、今回は、その請願の内容と手続との整合性からして、この請願には紹介議員を求めることはできず、紹介議員なしで請願しました。


さうすると、予測通り、同請願書が衆議院及び参議院に送達された同月7日の翌日(8日)ころには、請願として受理せず、陳情として処理した旨の通知が年明けまでに届きました。これは、請願不受理処分の通知です。


日本国憲法第16条には、「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」とあり、同第13条には、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」とあります。


また、同第14条第1項には、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とあります。


つまり、占領憲法によれば、請願においては、「平穏」に請願することのみが求められてゐるだけであつて、その他の条件や制約を課すことはできないのです。


また、他の国家機関に対する請願には、議員の紹介等の条件などがなく、国会法第79条及び地方自治法第124条のみが例外的に制約されてゐます。しかし、この例外としての制約自体は、平等原則に違反し、合理的な理由がないものです。


しかも、議員の紹介といふのは、その議員が当該請願の内容を支持し、あるいは請願の採択において賛成しなければならないといふ義務はなく、極論するならば、当該請願の内容に反対であつても紹介議員になれるのです。

その上、このやうな紹介議員を求めるためには、それなりの時間と労力などが必要となりますので、その負担を強いることも請願を行ふことについての制約となり、不合理なものと言へます。


従つて、このやうな形式的かつ形骸化した議員の紹介を条件とする請願制度には、いかなる意味においても合理的な理由が見出し得ません。


あくまでも、「平穏」に行ふことのみが求められてゐるだけで、その他の条件や制約を禁止してゐる日本国憲法第16条からして、本件請願を受理しなかつた処分は違憲無効であり、しかも、請願法によれば、すべての国家機関に対する請願については、条件や制約が定められてゐないにもかかはらず、国会法第79条及び地方自治法第124条のみが議員の紹介を条件とする例外となつてゐることに、合理的な理由はありません。


帝国憲法第30条には、「日本臣民ハ相當ノ敬禮ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ從ヒ請願ヲ爲スコトヲ得」として、相当の敬礼を守れば、外に条件や制約はないので、議員の紹介を求めるのは違憲です。


帝国憲法第30条に基づく請願令でも、帝国議会への請願には「議員の紹介」を求めてゐませんが、昭和22年に廃止された議院法第62条には、「各議院ニ呈出スル人民ノ請願書ハ議員ノ紹介ニ依リ議院之ヲ受取ルヘシ」とあり、これが現在に引き継がれたといふ経緯です。


そこで、日本国憲法第13条及び同第14条第1項に違反するものであるといふ理由により、請願不受理処分が違法であることを理由にその取消を求める行政訴訟と国家賠償請求訴訟を起こしました。


裁判所は、不受理としてもこれを陳情書として受理したので、請願としての不受理には「処分性」がないといふ意味不明で不当な判断をしましたが、国家賠償請求訴訟としては現在も係属してゐます。


そもそも、請願権は、選挙権が制約されてゐた時代において、国民が統治機関に直接にアクセスする権利として芽生えたものが現在に至るまでに制度化されてきたものであつて、広義の参政権に位置づけられます。そして、現在では、普通選挙制度が採用されたものの、現行の小選挙区制による選挙制度のあり方からして、死に票が多く生まれるため、死に票に投票した選挙民や既成政党の政策を支持できない選挙民などが議会政治に対して直接にアクセスできる稀少な権利として、益々その必要性が重視されてきてゐるのです。


広義の参政権である請願権は、憲法上の権利であることからして、請願を受けた公務員には請願に対する応答義務が課せられてゐるのであつて、それがなければ憲法上の権利とは言へないのです。憲法上の権利であるからには、この権利行使に特定の効果が付与されるものであつて、請願権は単なる「請願の自由」とは異なるのです。

この点において、憲法外の任意の要求である「陳情」とは区別されてゐるのです。


従つて、紹介議員がないことを理由として、憲法上の請願権の行使として行つた「請願」が、請願者の意志に反して、憲法保障外の「陳情」として取り扱はれること自体が憲法上の権利を侵害したことになるのです。


これに対して、国側の主張はかうです。


国会法79条が各議院に対する請願について,議員の紹介によることを要件としている趣旨は,議員が国民の代表であり,個別的なものであるとしても,その希望を取り次ぐことは議員の本来的な職務と考えられ,かつ議会における取扱いに責任を負わしめることとなって慎重な審査が期せられるであろうこと,及び議会における審査の便に資することができることによる。


しかし、これは、個々の「議員」に対する「請願」ないしは「陳情」と「議院」に対する「請願」とを混同したものです。


確かに、選挙民からの陳情を受け、それを必要に応じて取り次ぐことが議員の職務であつたとしても、請願を取り次いでくれる議員を知らない場合や、投票した候補者が落選したために請願の内容を理解して貰へる議員が見当たらない場合、さらには、請願の内容から紹介議員を得ることができない場合など、国民と議員との直接的な接点の有無、交流関係の濃淡、請願の内容やその理解度などから、議員の紹介があることを請願の要件とすることによつて、請願をなしえない人々が生まれることは必至です。


議会請願をするについては、その請願内容が議員やその所属する政党の主張と一致するか否か、さらにまた、請願者の人的交流の範囲や人脈の広狭などによつて、紹介議員となつてくれる人物を確保できる者と確保できない者とに別れます。

つまり、確保できない理由は、単なる自己責任として突き放すことができるほど単純な問題ではないのです。


紹介議員を確保できない立場といふのは、社会的身分に属するものであり、紹介議員を確保できない者が、社会的身分による不合理な差別を受けることとなる点において、日本国憲法第13条と第14条が保障する機会の平等を侵害されることになります。


また、紹介議員を確保できるとしても、その請願をなすについて、紹介議員になつてもらふことを依頼することによつて、その議員やその所属政党との間で依存関係や支配従属関係になることを嫌つて「紹介依頼を回避する自由」も認められなければなりません。


また、国側は、こんなことも主張してゐます。


 議会における取扱いに責任を負わしめることとなって慎重な審査が期せられるであろうこと,及び議会における審査の便に資することができること

とか、

 国会会期中の限られた期間内に多数の請願の処理が円滑にされるよう,様式を欠く請願や願意不明確な請願がみだりに提出されることの弊害を防ぐ必要性もある

などと反論するのですが、このやうなことは、議会以外に対する請願の場合も同様であつて、議会請願に固有のものではありません。


およそ、請願一般に言へることとして、様式の不備や内容の確定などを形式要件が具備してゐるか否かの精査は、受付事務の段階でなされるものであつて、そのことは議会請願の場合も同様です。この事務は、議会事務局が行ふものであつて、これを紹介議員が行ふものではありません。紹介議員にはそのやうな権利も義務もないのです。このやうな事務的な事項は専ら議会事務局で行はれるものであつて、現に、今回の請願は、そのやうにして処理されたものなのです。


ましてや、紹介議員は、当該請願の採択について賛成する義務もありません。単に、紹介するだけであつて、請願の内容に反対であつても、請願者から請願の機会を奪つてはならないとの寛容的な配慮で紹介議員となる事例も少なからず存在するのです。


このやうな事件(平成29年(ワ)第22843号)が、現在、東京地方裁判所民事第10部合議B係に係属してゐます。次回の口頭弁論期日は来る12月8日午後1時30分に709号法廷で開かれます。


南出喜久治(平成29年12月1日記す)


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