國體護持總論
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ホロコースト宣言たるポツダム宣言

ともあれ、これに纏はる歴史問題と政治問題といふ現實的な國際問題を解決するために、私は、これらの無明の輩と同じやうに、獨立喪失條約を初め、一切の講和條約群の無效を主張する必要があるのではないかといふ誘惑に過去何度も襲はれたことがあつた。それは、この無明の輩の主張のやうな、日韓保護條約と日韓併合條約は「無效」、ポツダム宣言の受諾も降伏文書の調印は「有效」とする倒錯した論理矛盾を犯さずして、その逆に、前者を「有效」、後者を「無效」とする論理が嚴然と存在するからであつた。つまり、ポツダム宣言の性質が原爆投下によつて我が民族を殲滅する目的の「ホロコースト宣言」であつたとする論理である。

すなはち、ポツダム宣言第十項には、「吾等は、日本人を民族として奴隷化せんとし、又は國民として滅亡せしめんとするの意圖を有するものに非ざる」としながらも、同第三項には、「蹶起せる世界の自由なる人民の力に對するドイツ國の無益且無意義なる抵抗の結果は、日本國國民に對する先例を極めて明白に示すものなり。現在日本國に對し集結しつつある力は、抵抗するナチスに對し適用せられたる場合に於て全ドイツ國人民の土地、産業及生活樣式を必然的に荒廢に歸せしめたる力に比し、測り知れざる程更に強大なるものなり。吾等の決意に支持せらるる吾等の軍事力の最高度の使用は、日本國軍隊の不可避且完全なる破壞を意味すべく、又同樣必然的に日本國本土の完全なる破壞を意味すべし。」とし、ポツダム宣言の締め括りは、「右以外の日本國の選擇は、迅速且完全なる壞滅あるのみとす。」としてをり、「完全なる破壞」が何度も繰り返し強調されてゐる。

つまり、ポツダム宣言を受け入れない場合には、原爆投下によつて我が民族を殲滅することを宣言し、それが單なる強迫ではなく、實際にも廣島、長崎に投下されて數十萬人を虐殺されてゐたからである。民族殲滅を強迫手段とし、しかもそれが單なる脅しではないとして、現實に順次大量虐殺を斷行し續けて見せしめを行ふといふ手法の強制は、人類史上最大級の卑劣な強制であり、この強制方法は、當時の戰時國際法においても許容性の範圍外のものとして全く豫定してゐなかつた事柄である。當時、陸戰協定では、殘虐な兵器の使用を禁止されてをり、毒ガスやダムダム彈も禁止されてゐたのであるから、原爆がこれに當たることは明白であつた。國際法上違法な兵器を用ゐた民族殲滅といふこの最大級の強制は、前者(日韓保護條約と日韓併合條約)には全くなく、後者(ポツダム宣言の受諾と降伏文書の調印)には歴然と存在した。それゆゑ、前者は「有效」であり、後者は「無效」であるとする論理である。

現在では、これは當然に認められる論理ではあるが、當時はそこまでの論理として認められてゐたかについていろいろと見解は分かれるであらう。しかし、國際政治は、學問で決着できるものではなく、學説はあくまでも學説にすぎない。また、強制における脅迫文言(害惡の告知)は樣々であつて、その告知された害惡の内容如何によつて強制の性質が必ずしも變質するものでもない。刃物をちらつかせ「腕一本を切り取る」といふ脅迫がなされたままで實行に移されない場合と、「皆殺しにする」といふ脅迫がなされ一人づつ目の前で射殺されて行く場合とでは、確かに脅迫の程度と態樣は異なる。しかし、被害者が畏怖し自由な意思を抑壓されて加害者に屈服する過程は、被害者の性格、信念、環境などの被害者側の要素と、加害者の性格、目的、害惡の内容など加害者側の要素との相關關係によるものである。それゆゑ、告知された害惡の内容と害惡の實現の程度は、確かに重要な要素ではあるが決定的な要素ではない。

そして、この國際政治の現實を直視した我が國の先人の足跡と潔さ、「恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ」とする教育敕語の精神などを文化總體とする我が國としては、負け惜しみ、負け犬の遠吠え、引かれ者の小唄を唄ふ反面教師である無明の輩と同じ穴の狢となつてはならないとの自戒を以て私はこの誘惑を退けてきた。

しかし、「ホロコースト宣言」であつた「ポツダム宣言」を條約法條約第四條が不遡及を宣言してこれを「有效」としたことは、國際的にも恥ずべき不條理がまかり通つたといふことである。條約法條約は、昭和五十六年七月二十日に公布され、同年八月一日に發效した。それゆゑ、條約法條約第四條が、「この條約は、自國についてこの條約の效力が生じている國によりその效力發生の後に締結される條約についてのみ適用する。」としてゐるために、この條約が發效から約三十六年前の「ポツダム宣言の受諾」とそれ以降の講和條約群にも遡及せず、すべて有效とされたといふことである。ところが、このやうな國際法における不遡及原則を貫くのであれば、同じくその當時において、遡及處罰の禁止を含む罪刑法定主義が國際法として確立してゐたにもかかはらず、「平和に對する罪」や「人道に對する罪」を事後に新設して遡及的に處罰した東京裁判などは、そもそも許されないものとしなければならなかつたし、これの「無效」を宣言しなければならなくなる。ポツダム宣言は遡及效を否定して有效とし、東京裁判は遡及效を肯定して有效とする。いづれにしても、このやうな露骨な二重基準を振りかざし、なりふり構はずにヤルタ・ポツダム體制(國連體制)を堅持して我が國を封じ込めてゐるのである。このやうな國際政治の現状を踏まへて我が國が再生するためには、この國際政治と國際法の論理に依據しつつ、これを實現しうる強かな論理と戰略を構築しなければならない。それが後に述べる講和条條説の論理に基づく占領憲法(東京條約、占領憲法條約)の破棄通告戰略なのである。

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