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トップページ > 自立再生論02目次 > H27.06.01 連載:第二十八回 方向貿易理論 その一【続・祭祀の道】編

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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第二十八回 方向貿易理論 その一

とつくにと もののとりひき つづけるは いざのそなへを よはむたねなり
(外国と物の取引(貿易)続けるはイザ(万一)の備へを弱む種なり)


大量消費を煽り、賭博経済に陥つてゐる世界経済は、際限なく自由貿易を煽り、国際分業をより推進して行きます。そして、それと同時に、この経済進出を支へる思想として、欧米流の資本主義的な自由主義の価値観を世界各地に押しつけ、その結果、各地で軋轢を起こし紛争の種をばらまいてゐます。


売れる物は何でも作つて売つてゐます。紛争もビッグ・ビジネスのチャンスだとして、大量の武器取引を紛争が起こることを見越して事前に行ひ、在庫一掃セールをした紛争後においても、次の紛争の備へに必要だとしてさらに武器取引を行つて、死の商人の商圏はどんどんと拡大してゐます。また、我が国は、アメリカなどから「世界の医療性廃棄物処分場」だと侮られながらも、副作用の大きく、医療効果のない有害なワクチンなどを高い値段で大量に買はさせられて、国民の健康被害の危険にさらし続けてゐます。食品についても同じやうなことがあります。


このやうなことが世界の不安定化要因であるにもかかはらず、「国際化」とか、「世界化」とか、「国際貢獻」とか、「グローバル化」、そして「自由貿易化」といふ欺瞞に満ちた掛け声によつて、さらにその傾向が進んでゐます。


人類は、この路線の継続が「飽和絶滅」の危機に瀕することとなり、自らが「釜中之魚」であることを自覚できてゐないのです。

しかし、そのやうなおぞましい傾向の中で、この危機意識を持つた人たちによる国際的な運動の一つが反グローバル化運動です。

これは、人と物と金(産業資本、銀行資本、投機資金など)が国境を越えて行き交ふアメリカ主導のグローバル化(globalization)が、貧富の格差を拡大させ、環境と文化の多様性を破壞するとして、これに反対する組織連帯的な運動のことです。

平成13年7月のイタリアで開催された主要国首脳会議(ジェノバ・サミット)に、世界各地から集まつた数十万人の反グローバル化を唱へるデモ隊が終結し、そのうちの先鋭的な団体が警官隊と衝突し、サミット反対運動では、世界で初めての死者まで出る事態となりました。

そのために、その後のサミット開催においては、開催国において恒常的に異例の警備措置がとられるほどの影響を及ぼしたのです。


反グローバル化運動の矛先は、サミット以外にも、世界貿易機関(WTO)、世界復興開発銀行(IBRD)、国際通貨基金(IMF)などの国際経済機関に対しても向けられてをり、個別的、具体的な規制の要求や提案を行ふ団体も登場してきました。


今もなほ継続してゐるこのやうな運動は、持続可能な成長と貧富の格差の是正といふことを世界的な問題として提起した大きな意義がありました。しかし、運悪く、ジェノバ・サミットの騒動から2か月後の同年(平成13年)9月の「九・一一」事件が起こり、その結果、この運動がテロ活動の温床になるとのすり替へがなされたりして、今後の運動の推進について困難な状況も生まれてゐます。


しかし、いくらサミットにおいて、環境保護やフェアトレード(公正貿易)などを謳ひ上げたとしても、グローバル化を是とした上で、その表裏の関係にある光と陰のうち、光の部分をそのままにして、陰の部分だけを克服できるといふサミット思想の愚かさに加へ、金融資本主義といふ博奕打ちだけに光の当たる制度には未来がないことから、この反グローバリズム運動が終息することは決してないと思はれます。


このやうな反グローバル化運動の理念を支へる背景の一つに、「新保護主義」といふ考へがあります。この新保護主義とは、元グリンピース・インターナショナルの経済担当者コリン・ハインズ、ロンドンのテムズ・バレー大学教授ティム・ラングなどが「地域や経済、生活の保護に対する関心を再び呼び起こすことを狙ひ」として提唱したものです。

これは、地元密着型の自給自足経済を確立し、不必要な貿易や不健全な活動を制限するといふもので、世界経済のグローバル化は急速に多国籍企業に権力が集中を招いてゐるとしてグローバル化に反対するものです。


そして、具体的には、次の7つの手段を主張してゐますので、それを列挙して説明したいと思ひます。


①「国家及び地域レベルでの輸出入の制限」
 地元で必要な製品やサービスを可能な限り地元で生産し、どうしても地元では手に入らないものは他の地域から調達し、海外貿易は最後の手段とすることです。

②「資本の統制」
 資金が地元の投資に使はれるやう、銀行、年金、ミューチュアル・ファンドなどに規制を敷き、「地元を繁栄させるために地元に投資を」といふ政策を打ち立てることです。

③「多国籍企業の統制」
 GATT(WTO)を廃止してでも、多国籍企業の活動を統制する必要があり、「売りたい場所に拠点を置く」企業だけに、経済アクセスを与へることです。


④「新競争政策」
 大企業の解体によつて、競争的状況を作り、製品の改善、資源の効率的利用、選択肢の提供などを行はせることです。

⑤「自立に向けた貿易と援助」
 GATT(General Agreement on Tariffs and Trade 関税および貿易に関する一般協定)をGAST(General Agreement for Sustainable Trade 持続可能な貿易に関する一般協定)と変へ、地域の自立達成による最大雇用を目標に、地元経済の開拓に焦点を当てることです。

⑥「資源税の導入」
 環境問題に対応するために、資源税を導入することです。

⑦「政府の再強化」
 これらのことを行ふためには、政府の力を強化しなければならず、国家、地方、地域レベルの政府が市場アクセスに関する統制力を持つやうにするべきであるといふものです。


以上のとほり、新保護主義とは、この七つの手段と政策を主張する考へですが、この新保護主義に対しては、イギリスのやうな貿易立国は滅亡してしまふなどとの反論がなされます。

しかし、新保護主義は、この反論に対し、貿易が雇用や賃金の低下を招いてゐる現在ではグローバル化こそ滅亡の道だとの再反論をしてゐます。


このやうに、金融危機や景気の大変動、為替相場の乱高下などが起こると、このやうな保護主義的な主張は、心情的に大衆の贊同を集めます。しかし、これに対しては、現在の経済構造を維持する勢力、つまり、わが国を含め、世界の殆どすべての国々とこれを支持する政界、官界、財界、学界など、そして、これに付和雷同的に追随する各階層の人々からは、このやうな保護主義的傾向は、時代の進歩に逆行する時代錯誤思想であるとか、世界経済を混乱に陥れる危険思想であるなどと批判し、この思想への強い警戒心が叫ばれてゐます。


しかし、このやうなことは、多数決で決めるものではありません。人類全体と国家の経済をどのやうに改善すれば、人々が豊かで安全で幸せな暮らしができるのでせうか、そのことをもつと冷静に真剣に考へて見る必要があるのです。

そのことについて次回以降に詳しく述べてみたいと思ひます。

南出喜久治(平成27年6月1日記す)


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