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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第百三十六回 児相問題とは何か その二

たれよりも うからをさきに まもりけむ わがみすてても すすむこころね
(誰よりも家族を先に護りけむ我が身捨てても進む心根)


(承前)


四(児相の運用上の問題)


児相は、家族(親子)の再統合を実質的に否定する。児童の拘束が長期化し、親子は完全隔離される。その方が予算を多く獲得できるからである。


児虐法第12条の面会・通信の全部制限(禁止)が恒常化してゐる。

児童を父母に面会させると、帰宅したい児童の気持ちが強くなり、その気持ちを抑へさせるための説得と懐柔をすることに労力と時間を要して支障が出るために、親子の面会・通信を禁止して完全隔離する。

言ふことを聞かない児童には、大人しくさせるために向精神薬を投薬することもある。

また、親と面会させないために、児童が親と会ひたくなくなるやうな虚偽の情報を提供する。面会・通信をさせなければ、施設内での待遇の悪さや虐待の事実、さらには、児相が提供した情報が虚偽であつたことや施設内虐待の発覚を防ぐことができるのである。


児虐法第2条の「虐待」概念が犯罪的違法性の有無を明記しない曖昧さのため、恣意的運用がなされてゐる。ついに、親の懲戒権である体罰まで虐待とし、有形力の行使を伴ふ教師の教育的指導(平成21年4月28日の最高裁判所第三小法廷判決は肯定)まで否定する傾向にある。


五(有形力を伴ふ教育的指導)


では、この平成21年4月28日の最高裁判所第三小法廷判決とは、どのやうなものであつたかを紹介する。

この事案は、天草の公立小学校の教員(A)から、学校教育法第11条但書で禁止されてゐる体罰を振るはれてPTSD(Post Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害)に罹つたとして、その被害児童(被上告人)が自治体に対して、国家損害賠償訴訟を提起した。一審、控訴審は被害児童の請求を認めたが、自治体側が上告した。そして、最高裁は、一審、控訴審の判決を破棄して自判し、被害児童の請求を棄却する逆転判決を下した。


その公開された判決は次のとほりである。



1 本件は,B市の設置する公立小学校(以下「本件小学校」という。)の2年生であった被上告人が,本件小学校の教員から体罰を受けたと主張して,B市の地位を合併により承継した上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,平成14年11月当時,本件小学校の2年生の男子であり,身長は約130㎝であった。Aは,その当時,本件小学校の教員として3年3組の担任を務めており,身長は約167㎝であった。Aは,被上告人とは面識がなかった。

(2) Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。

(3) 同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。

(4) そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。

(5) その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。

(6) Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(以下,この行為を「本件行為」という。)。

(7) 被上告人は,同日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴えた。

(8) その後,被上告人には,夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどしたが,これらの症状はその後徐々に回復し,被上告人は,元気に学校生活を送り,家でも問題なく過ごすようになった。

(9) その間,被上告人の母親は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。

3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の上告人に対する請求を慰謝料10万円等合計21万4145円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で認容した。

①胸元をつかむという行為は,けんか闘争の際にしばしば見られる不穏当な行為であり,被上告人を捕まえるためであれば,手をつかむなど,より穏当な方法によることも可能であったはずであること,②被上告人の年齢,被上告人とAの身長差及び両名にそれまで面識がなかったことなどに照らし,被上告人の被った恐怖心は相当なものであったと推認されること等を総合すれば,本件行為は,社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱するものであり,学校教育法11条ただし書により全面的に禁止されている体罰に該当し,違法である。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

前記事実関係によれば,被上告人は,休み時間に,だだをこねる他の児童をなだめていたAの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどしていたが,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとしたAのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。そこで,Aは,被上告人を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(本件行為)というのである。そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は,破棄を免れない。

そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する請求を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


この判例の事案は、明らかに「体罰」である。学校教育法第11条には、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と規定する。


そのために、学校の規律は弱体化し、学校崩壊、学級崩壊が甚だしくなり、生徒が教師に暴行を加へ追ひかけ回し、教師が逃げ回るといふ秩序崩壊の光景が見られた。誰が生徒か先生か解らない「メダカの学校」と化してきたのである。


これに歯止めを掛けたのが上記判例であつた。有形力を伴ふ教育的指導であつて体罰ではないとする「救済判決」である。しかし、体罰も有形力を伴ふ教育的指導なのであつて、この区別は付かないのである。


学校教育法第11条の意味は、体罰は「教育的措置」ではあるが、例外的にこれを認めないとすることにある。つまり、体罰は教育であることを認めた上で、政策的にこれを禁止したといふことである。これは、学校規律を弱体化させるために、法律で体罰を禁止する規定を設けることが有用であるとしたGHQの政策によるものであつた。


また、民法第822条では、「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」とあり、同法第820条には、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」とあるので、体罰は教育であるから、その禁止条項はない。


つまり、教育の専門家である教師には体罰を禁止し、教育の専門家とは限らない親権者には体罰を認めるといふ制度であつた。「学校体罰」は禁止、「家庭体罰」は容認といふことであつた。


ところが、「しつけ」だとの詭弁で女児を殺害した千葉県野田市の女児殺人事件などが起こつたことに藉口して、令和元年6月19日に、愚かにも、親の体罰禁止を盛つた改正児虐法と改正児福法が成立し、さらに、児相の強化も盛り込まれた。


衆参で教育勅語の失効・排除の決議をした71年目になされた教育に関する戦後の愚挙である。

南出喜久治(令和元年12月1日記す)


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