國體護持總論
トップページ > 著書紹介 > 國體護持總論 目次 > 【第一巻】第一章 國體論と主權論 > 第二節:傳統と革命

著書紹介

前頁へ

國家の承認

いづれにせよ、國家の要件を滿たせば、國家もまた「法人」となるが、「法人」は非視覺的な存在であることから、對内的にも對外的にもそれを何らかの方法で認知させる必要がある。國内は勿論、國際社會においても、その設立手續や承認手續をなす機關もない。それゆゑ、對外的には、すべて國際慣習法に委ねられることになり、他國の承認によつて國家として承認されることになる。

しかし、他國が承認すると云つても、それは利害關係のある政治的な行爲であり、必ずしも承認が得られるとも限らない。そこで、新國家が誕生しても他國の承認がない限り國家としては認めないとして、他國の承認に創設的な效力があるとする見解(創設的效果説)と、國家としてその要件を滿たせば他國の承認なくして成立するとし、事後の承認は確認的意義しかないとする見解(確認的效果説)とが對立する。

わが國では、創設的效果説が多數説であるが、これによると、既存の國家が新國家の生殺與奪の權限を持つといふ不都合がある。創設的效果説は、國内で勝手に誰かが獨立宣言をすれば國家が成立してしまふことを理由に確認的效果説を批判するが、そのやうな形式的な獨立宣言をしたからと云つて、國家成立の實質的要件を滿たさない限り國家としては認められないのであつて、そのやうな批判は當たらない。

いづれにせよ、國家成立の實質的要件を滿たさないのに、それを國家として承認したとしても、それは「尚早の承認」として無效であるとされる。その例として、わが國が滿洲國を承認したことがこれに當たるとする見解がこれまで存在したが、リットン調査團報告書の全文を解讀した最近の研究によつて、滿洲事變はわが國の侵略行爲ではなく、滿洲國は國家として承認されるべきものであつたことが明らかとなつてゐる(文獻317)。

なほ、この國家の承認と關連するのが、分離獨立運動における「交戰團體」の承認の問題である。現在では、大東亞戰爭を契機として國際慣習法により民族自決權が認められて、非獨立領域(從屬領域)の住民がその意志によつて獨立する權利が認められてゐる。しかし、他方、當初から多民族國家として建國された場合に、民族自決權を認めることは、民族間での「合邦の合意」(條約)を随時任意に解除する權利を認めることとなり、國家の分裂と崩壞を受忍しなければならなくなる。このやうな動きに對し、國家がこれまでの合邦の合意に基づいて國家防衞の權利としてその動き抑壓することも認められることになる。しかし、その衝突態樣が過激かつ廣範になれば内亂が内戰となり、結果において雙方の利益が共倒れ的に失はれる可能性があるが、それでも獨立に向けて結成した政治團體(民族解放團體)としては、その獨立運動を警察や軍隊が彈壓し始めたとき、これに對して應戰することになる。そして、その衝突の規模と範圍、それに武器使用の態樣と戰況の優劣の推移により、内亂が内戰化すると、この民族解放團體は、國際法上の國家や政府に準ずる「交戰團體」として承認される可能性が出てくる。

そして、この交戰團體として承認される要件についても、國家としての要件に準じたものが當然に要求される。

それは、まづ、①交戰團體が一定の領域を占領し事實上の政府を樹立してゐること、②交戰團體が戰爭法規を遵守する意志と能力を持つてゐること、の二つが最低限度の要件とされる。特に、②を要件とするのは、既存の國家としては交戰團體を反亂軍として國内法で處斷すればよく、捕虜として扱ふ必要はないので、その處斷が殘虐化する危險が大きい。それがさらに内亂を激化させる要因ともなるので、國際社會としては、雙方に戰時國際法を適用して、内亂を内戰(國際法上の戰爭)として認定して殘虐化に齒止めをかけるために、交戰團體として承認する必要があるからである。

現在の國際社會をみると、交戰團體となりうる内亂の現象は多く發生してをり、それは、民族自決權だけを契機とするのではなく、宗教や宗派を共通する者の共同社會國家建設といふ、いはば「宗教自決權」による交戰團體化の傾向もあるので、それをも認めざるを得なくなつてゐる。東西冷戰構造の時代であれば、それぞれの陣營内における民族問題や宗教問題などは、各陣營内の結束を亂すことになるので、國家はそれを抑壓し、あるいは、陣營の最終勝利のために各民族と各宗教宗派が相互に自重してきたことがあつたが、冷戰構造が崩壞した現在では、それに齒止めがかからず、それが現在における多くの國際紛爭の底流にある。

このやうに、多民族・多宗教國家内における同一民族・同一宗教の者が獨立を指向する場合と同樣に、これまで同一民族、同一宗教として統一されてゐた國家が、敗戰や内亂などを原因として分斷國家となつた場合に、その統一合邦をめざす方向も、民族自決、宗教自決として認められることになる。

続きを読む