國體護持總論
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國體と典憲の相互關係

このやうに國體と典憲とは、相互に一部が重なり合ふ畛域が存在する。その關係を模式圖的に圖解すれば、章末の別紙二「國體典憲關係圖」のとほりとなる。

これは、三つの重なつた正圓が、上から時計回りに「文化國體」、「正統典範」、「正統憲法」の領域を意味する。そして、それぞれの正圓を、「文化國體圓」、「正統典範圓」、「正統憲法圓」と名付けるとする。

第一章で述べたとほり、文化國體は、規範國體の源泉となる事實の領域であるが、正統典範と正統憲法といふ規範領域との關係では、同じく規範國體の位相を決定する必要があるために、その説明の必要上ここに登場させたものである。

ただし、「正統典範」や「正統憲法」は、成文化された部分が一部あるものの、その全部が成文化されてゐるものではなく、また、規範國體の源泉となる「文化國體」は殆ど成文化されてゐないことから、これらの圖は、それぞれの影繪として平面的に投影されたものと理解されたい。つまり、この圖は、あくまでも平面的な模式圖であつて、立體構造的に認識しうる「文化國體」、「正統典範」及び「正統憲法」の立體的な重なり具合ひを平面的に表現した影繪(平面圖)である。從つて、實像的には、「文化國體」、「正統典範」、「正統憲法」の三つの「球體」が重なり合つた姿を想像されたい。

そして、これら三つの正圓(球體)が全て重なつた積集合部分(共通部分)を①とし、文化國體圓と正統典範圓の積集合部分のうち①の部分を除いた部分を②、正統典範圓と正統憲法圓の積集合部分のうち①の部分を除いた部分を③、文化國體圓と正統憲法圓の積集合部分のうち①の部分を除いた部分を④とする。そして、この三つの正圓の積集合部分である①を圓心とし、①②③④を包攝する中央の點線の正圓(①②③④⑤⑥⑦で構成されるもの。以下「平衡圓」といふ。)を描き、その圓弧によつて區分される文化國體圓の⑤と⑧の部分、正統典範圓の⑥と⑨の部分、正統憲法圓の⑦と⑩の部分の、合計十の部分に分割して、以下にそれぞれの説明することにする。

まづ、平衡圓のイメージについてであるが、これは、第一章で詳しく述べたルドルフ・シェーンハイマーの「動的平衡」の生命觀と、ブノワ・マンデルブロの「フラクタル構造」の自然觀を組み合はせたものに由來する。

すなはち、國家とは、唯物的な屬性だけでは到底把握できない時空間の存在であり、決してその本質を五感の作用によつて認識できない有機的な生命體であつて、その核心に國體がある。國家は、唯物的には、その領域と國民、そして政府とその統治構造が刻々と變化するものの、その國家としては同一性を保つてゐる。

鴨長明が見た「川」、釋尊が聽いた「祇園精舍の鐘の聲」、そして、ルドルフ・シェーンハイマーが見た「ネズミ」など、自然界に生起する一切の森羅萬象には、共通したフラクタル構造(雛形構造)があり、自然界の一部である人間世界についても例外ではない。そして、その存在態樣においても、「動的平衡」といふ永遠の眞理に貫かれてゐる。人の個體の同一性、家族の同一性、國家の同一性など、これらは全體として雛形構造で貫かれ、動的平衡を保つ點において共通してゐるのである。

人の個體生命が動的平衡の存在であれば、人の集團である家族、社會、そして國家もまた、水を湛へて流れる川のやうに、あるいは、回轉する獨樂(こま)のやうに、靜と動の虚實による平衡の存在である。さうであれば、國家の核心部分である文化國體、正統典範、正統憲法もまた動的平衡の部分があるはずである。そして、文化國體、正統典範、正統憲法は、それぞれ守備範圍を異にしながらも、それぞれ畛域を共有してゐることから、各々の固有の領域において、動的平衡を保ち、平衡の破壞を許さざる「變更禁止部分」(動的平衡部分)と、全體としての平衡を破壞しない限度で時代と環境の變化に順應(適應)しうる「變更可能部分」(動的順應部分)とがあるはずである。

つまり、文化國體圓、正統典範圓、正統憲法圓の積集合部分を圓心とする平衡圓は、その圓内の①②③④⑤⑥⑦の部分が「動的平衡部分」の領域となり、ここに屬する事項については、その制度の根幹を變更することは不可能となる(變更禁止部分)。その意味において、この規範國體の部分(平衡圓)は「根本規範」としての「規範國體」であり、この點線圓(平衡圓)は「規範國體圓」である。そして、その圓外の⑧⑨⑩の部分については、平衡圓内(規範國體圓内)の事項に牴觸しない限度において變更が可能である(變更可能部分)。もし、不變かつ普遍であるものを國體と定義するのであれば、⑧は、規範國體には含まれないことになるが、規範國體を保護する「根冠」(植物の根の最先端にある冠状の柔組織)に似た文化國體の部分として理解されることになる。つまり、變更不可能といふ點においては、平衡圓はまさに規範國體の範圍(根本規範)と一致することになる。

では、このやうに區分した上で、それぞれに屬する主な事項を説明しながら具體的に列擧してみる。

まづ、三圓の積集合である①は、規範國體の最も中核に位置するところで、我が國においては最も重要である。ここは、國家の生命的基軸となる本能と家族と祭祀の部分であつて、その最も重要な機能は、保存と維持であり、そのためには、原子、細胞、蟻や蜂などの生態、宇宙などに見られるやうに、國家においても核は不可缺で、それが我が國の宗家である皇室であり、すめらみこと(總命)である。また、國家の營みの根幹となる理念も、この①に位置することになる。それゆゑ、萬世一系の皇統、天皇祭祀(宮中祭祀と神宮祭祀)、國體の支配(法の支配)、王覇辨立、修理固成、天壤無窮、八紘爲宇、惟神の道(神道)、敬神崇祖、家族制度(家父長、家督、家産、世襲、相續など)、民俗祭祀(祖先祭祀、自然祭祀など)、やまとことのは(大和言葉)などが①に位置する。また、教育敕語に示された多くの德目などの精神的所産や、ことのはのみち(歌道)、言靈、數靈の教へなどの文化的所産も含まれる。そして、第六章で述べる自立再生論は、これらを維持し、齋庭稻穗の御神敕による自給自足體制を實現するための具體的な制度であるから、ここに位置することになる。

次に、文化國體圓と正統典範圓の畛域である②は、宗家である皇室固有のものが位置する。文化國體の中心には、神聖であり高貴なるものを求める心、祈りの心があり、皇室祭祀がある。そして、そのための男系男子の皇統と、それを示す三種の神器、皇家の自治と自律などがある。

さらに、正統典範圓と正統憲法圓の畛域である③には、攝政制度、國家變局時での規範改正禁止などが含まれ、文化國體と正統憲法の畛域である④には、大權制度、神聖不可侵(無答責、補弼制)、萬機公論制などがある。

そして、文化國體のその他の動的平衡部分である⑤には、民俗の傳統と祭祀などがある。また、正統典範のその他の動的平衡部分である⑥には、皇族會議の制度あり、正統憲法のその他の動的平衡部分である⑦には、法治主義、權力分立制、臣民の權利義務などがある。

そして、動的順應部分として、文化國體の⑧には、民俗、風習、歌舞音曲などの文化諸相など、正統典範の⑨には、男系男子における皇位繼承順位の決定方法など、正統憲法の⑩には、統治機構の技術的規定、たとへば、二院制、衆議院の優越性などがそれぞれ含まれることになる。靈峰富士(不二)の山の荘嚴さは、その広くて長い裾野が支へるのと同じやうに、國體の動的平衡部分は、動的順應部分が支へてゐるのである。

かくして、文化國體、規範國體、正統典範、正統憲法との相互の關係が理解されたものと思ふ。

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