國體護持總論
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法定追認

さて、この追認に類似したものとして、「法定追認」といふ概念がある。これは、民法第百二十五條に定められてゐるとほり、追認行爲はなくても、追認と同視しうるやうな事態が生じた場合に、その事實を以て追認をしたものと擬制する制度のことである。もちろん、その事實の發生時期についても「追認をすることができる時以後」であることは追認の場合と同じである。

追認は法律行爲であるが、法定追認は法律行爲ではない。追認をなしうるためには、取消うべき行爲を行つたときと同じ方法と程度で追認の意思表示することが必要であつて、無效な規範を追認する場合においても同樣である。それは、たとへば、帝國憲法第七十三條に基づいて天皇が改めて占領憲法を追認のための發議をなし、少なくともその規範の追認を行ふために新たに設置された帝國議會と同視しうる國家機關によつて、占領憲法の制定手續と同等以上の審議をして承認議決(追認議決)を行ふといふやうな明確な憲法的追認行爲がなくてはならない。

ここで、重要なことは、この追認は、占領憲法で設置された國會が行ふことができないといふことである。なぜならば、追認とは追認權を有する「本人」が行ふものであり、國家のやうな法人の場合は、權限機關(帝國憲法においてその權限を行使しうる國家機關)が行ふもので、帝國憲法を否定して制定されたとする占領憲法によつて設置された「國權の最高機關」(占領憲法第四十一條)である「國會」は、その「權限機關」ではない。本人(權限機關)を強制した者(占領憲法)によつて設置された機關にすぎず、GHQの承繼人である。この國會が追認議決ができるとすることは、泥棒や詐欺を行つた者またはその承繼人が追認できることを認めることに等しい。泥棒や詐欺師の側が、「これは俺のものだ」と宣言しても、それは追認とは云はない。追認は被害者が自發的に行ふもので、加害者が開き直ることを許す制度ではないからである。

また、法定追認の場合は、そのやうな明確な國家行爲がない場合か、あるいはこれと類似した手續を行つたものの、それに不備があつて追認がなされたとは評價できない場合など、何らかの追認類似の事實があり、それに付加された補強的事實が加味されて、追認があつたと擬制されることなのである。それゆゑ、これまで追認も追認拒絶も行ふことがなかつたといふ「不作爲」を以て法定追認とされることは決してありえない。ましてや、これから國會で追認決議したとしても笑止千萬である。

いづれにせよ、占領憲法は追認適格がなく、しかも、その占領憲法で設置された國會などは追認機關ではないので、追認されることはありえず、從つて、追認と同視しうる法定追認が適用される社會的事實の集積もないことは明らかであるが、さらに加へて、後に述べるとほり、占領憲法の追認をなしうる時期は未だ到來してゐないのであるから、追認あるいは法定追認によつて占領憲法が有效となることは到底あり得ないのである。

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