國體護持總論
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眞正護憲論の特徴その六

第六の特徴は、「眞正護憲論(新無效論)は、帝國憲法第七十五條を基軸として、占領憲法が憲法として無效であることを理由付け、同時に、明治典範廢止の無效、占領典範の制定の無效を明らかにしたこと。」である。

これは、すでに第四節及び第五節で述べたとほりであるが、附言すれば、舊無效論は、帝國憲法第七十五條違反を根據とせず、主としてヘーグ條約違反を主張してきた。ただし、井上孚麿は、帝國憲法第七十五條について言及したものの、それを無效論の獨立した理由の一つとして擧げなかつた。また、小山常実は近著において、これを主張するに至つた。

このやうに、舊無效論の中でも、帝國憲法第七十五條を主張する論者も居たが、これまで有效論が無效論を批判してきたのは、主としてヘーグ條約違反の點に集中してゐた。もし、舊無效論が帝國憲法第七十五條を基軸として論旨を展開してきたといふのであれば、有效論がヘーグ條約違反の點や帝國憲法第七十三條違反の點についてのみ無效論を批判するのは的外れである旨の再反論をすべきであつたのに、それがこれまで全くなされてゐなかつた。このことは、やはり、帝國憲法第七十五條違反を基軸とする意識に缺けてゐたと云はざるをえないのである。

そもそも、ヘーグ條約違反を犯したのはGHQであり、我が國ではない。それゆゑ、占領憲法が講和條約でないとすれば、國内的な立法行爲であり、對外的には「單獨行爲」といふことになる。そして、それがヘーグ條約違反を犯したGHQの強迫によるものであるから、舊無效論としては、國内的立法行爲(單獨行爲)における意思の欠缺で無效ないしは瑕疵ある意思表示として取消しうるとするのであらうが(民法第九十八條參照)、このヘーグ條約違反を理由とするだけでは、占領憲法の無效理由を根據付けることはできない。

ケルゼンの言ふとほり、法規の效力的序列において、憲法と條約とのいづれが優先する(上位にある)のかといふ點については、憲法優位説が通説であるから、下位のヘーグ條約に違反するとの事由によつて、どうして上位の帝國憲法が無效になるのかといふ點について説明しえない致命的な缺點が舊無效論にはある。この缺點を回避しようとすれば、條約優位説に依らざるを得ない。しかし、「世界國家連邦」が實現してゐない現在の國際社會にあつては、當然に主權國家の獨立と安全とが維持されなければならず、國際協調のために努力することは國家の責務でもあるが、國家の存立基盤は、その憲法の根本規範であるから、たとへ「確立された國際法規」であつても、根本規範の部分より優位となることはありえない。ましてや、帝國憲法第十三條の講和大權ではなく、同じ條文で竝列的に定められた一般條約大權に基づき、獨立時の平和状態に平穩に締結された一般條約たるヘーグ條約が憲法規範よりも優位するとするのは、帝國憲法の解釋からしてもあり得ないし、そのやうに解することは法の自殺行爲であつて法秩序の混亂を來すことになる。つまり、占領憲法の制定(帝國憲法の改正)が、變局時ではない通常時に帝國憲法第十三條の一般條約大權に基づいて締結したヘーグ條約に違反するとしても、それがどうして上位規範である帝國憲法の改正までを無效とすることになるのかといふ疑問である。憲法よりも條約の方が效力において優位するとの條約優位説を採るか、あるいは、ヘーグ條約が憲法と同等の地位にあるとしなければ、この結論は導き出せないのである。

また、舊無效論は、帝國憲法第七十五條を明確な根據としてこなかつたので、眞正護憲論(新無效論)のやうに、明治典範廢止の無效、占領典範制定の無效を導き出すことが、これまでできなかつたのである。

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