國體護持總論
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效力論爭の鳥瞰

以上の考察で明らかとなつたのは、占領憲法の效力論爭が多面的、多元的なものであり、その爭點についても、占領憲法の、①目的、②主體(權限機關)、③内容、④手續(手段、方法)、⑤時期などの各事項について樣々な主張がなされてきたことが解る。

占領憲法は、無效論からすれば、①日本弱體化、國體破壞といふGHQの目的によるものであり、動機の不法、不正の目的によるものであること、②制定の主體(權限機關)は、實質的にはGHQであり、我が國の自主性は奪はれてゐたこと、③内容においても、國體の變更を伴ふものであつて、改正の限界を超えてゐること、④手續(手段、方法)においても、著しく審議不十分であつたこと、⑤時期においても、帝國憲法第七十五條に違反し、ヘーグ條約にも違反してゐたことを理由に無效であると主張するものであるが、これに對し有效論は、必ずしもこれに一對一に對應して反論してゐない。ただし、ヘーグ條約違反であるか否かについては論爭がされてゐるが、最も重要な帝國憲法第七十五條(類推)違反については全く反論がない。

また、このこととの關連で、いつの時點における效力の有無を論ずるのかといふ點(效力時點)についても、無效論は、憲法改正に内容的な限界があるとする見解(限界説)に立ち、概ね「制定時」の效力を問題とし始源的に無效であるとするのに對し、有效論は、憲法改正に内容的な限界がないとする見解(無限界説)と革命有效説を除いて、概ね「現在時」の效力を問題とし後發的に有效であるとする傾向にある。

そして、これに加へて爭點としなければならないのは、失效説の説明でも觸れたが、次章で詳述するとほり、占領憲法の法的效力について、占領憲法の名稱が形式的には「憲法」であるとしても、はたしてこれが眞の「憲法」なのか、それとも「法律」又は「條約」その他の法令といふべきなのか、といふ法の「領域」の問題が橫たはつてゐる。

これに關する私見は、結論を言へば、占領憲法は「講和條約」、しかも「憲法的條約」の限度でその成立を認めなければならないとする見解に立つてゐる。その意味からすれば、占領憲法は「憲法」の領域では「無效」であるが、「講和條約」の領域では「成立」したとすることとなり、無效論と云つても、正確には「相對的無效説」と名付けるべきかも知れない。これに對し、從來までの無效論(舊無效論)も有效論も、失效説を除き、法の領域としては「憲法」だけに限定し、他の領域についての言及はない。失效説を除く舊無效論は、おそらく一切の法の領域において無效とするものであつて、その意味では「絶對的無效説」と呼稱すべきかも知れない。ただし、失效説は、制定時は憲法としては無效で管理基本法としては有效とする點において相對的無效説であり、これが憲法的條約(占領憲法條約)として成立したとする私見と近似するところがあるが、現時點(占領終了)では失效してゐるとすることからして、現在時評價からすればこれも絶對的無效説であり、現在時においても憲法的條約(占領憲法條約)として成立したものの未だ發效してゐないとする私見とは異なる。

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