國體護持總論
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本土政府の殘存主權

この合邦現象については、本土政府に、沖繩縣及び沖繩縣民に對する「殘存主權(濳在主權)」があることを以て説明する見解がある。この殘存主權とは、「residual sovereignty」の譯語であり、國際法上確定した用語ではなく、桑港條約第三條の解釋として登場したものである。つまり、桑港條約第三條には、「日本國は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)、孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)竝びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆國を唯一の施政權者とする信託統治制度の下におくこととする國際連合に對する合衆國のいかなる提案にも同意する。このような提案が行われ且つ可決されるまで、合衆國は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に對して、行政、立法及び司法上の權力の全部及び一部を行使する權利を有するものとする。」とあり、これに基づき米國の信託統治として沖繩における立法、司法、行政權以外の、領土の最終的處分權が我が國に歸屬してゐるとの説明として、この殘存主權なる概念が用ゐられたのである。

ところが、ここにも國民主權論の矛盾が露呈する。國民主權は、「絶對」、「最高」、「無制限」であるとする定義からして、そもそも殘存主權なるものが成り立つ餘地はない。「制約された絶對的なもの」といふのは、あたかも「一匹狼の集團」、「無所屬クラブ」などといふ矛盾の典型に他ならず、主權概念自體を矛盾崩壞に導くからである。

この矛盾を回避するために、主權概念の相對化を主張し、國民主權における主權の概念と、領土の最終處分權としての主權の概念(領土主權)を區別したとしても、やはり本土政府が保有するとする沖繩に對するこの殘存主權(領土主權)なるものは、主權の通有性である絶對、最高、無制限からは遠い内容である。ここには、處分の對象となる領土(沖繩)だけの要素しかなく、人的要素が全く無視されてゐる。その領土(沖繩)に生存する縣民は、領土(沖繩)の附屬物ではない。沖繩と沖繩縣民とは不即不離の不可分一體の關係にあり、もし、本土政府が沖繩についての領土の最終處分權を行使し、これを米國に割讓したとすれば、沖繩に生存する沖繩縣民の國籍は剥奪され、又は、米國への歸化を強要し、あるいは本土への移住を強制することになるのである。これは、本土政府が主權の歸屬者たる國民全體の部分集合體である沖繩縣民の生殺與奪の權利があると解釋して、主客轉倒の結果に至る。これは、領土を「主物」とし、住民(沖繩縣民)を「從物」とし、「從物は、主物の処分に從う」(民法第八十七條第二項)といふ論理を用ゐて、住民(沖繩縣民)を領土(沖繩縣)の附屬物とすることに他ならない。これは國民主權論の自殺行爲に等しい。ここに占領憲法の國民主權論が抱へる第二の矛盾がある。

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