國内系と國際系の區別
以上のとほり、背理法により、國民主權論の矛盾を明らかにし、國民主權論の誤りが證明された。嚴密に言へば、國民主權論による占領憲法の妥當性と實效性が否定されたといふことである。つまり、國民主權論の立場に立てば、本來ならは、分斷國家を併合する際においてなされるべき手續がなされなかつたし、占領憲法の謳ふ國民主權に基づき運用されてゐないので、占領憲法はその實效性を缺き憲法としては無效であるといふことである。
このやうに、分斷國家について考へるとき、そこには、單に國内法だけでは解明できないことに氣付く。日本列島が海に圍まれてゐるが如く、國内である國土は直ぐに海から諸外國の國際領域に接してゐる。そして、この國内系の法體系と國際系の法體系とは、それぞれ別個の原理と適用範圍で成り立つてゐる。附言するに、この國内系と國際系の區別は、これまで述べてきた「主權」概念の「二義性」に對應するものである。國家最高の意思決定といふ意味での「主權」概念はまさに「國内系」であり、対外的獨立(主權國家)といふ意味での「主權」概念は「國際系」のことである。
そこで、以後においては、國内系に屬する法體系と、それに接してゐる國際系に屬する法體系との關係について、前章で述べた區別を踏まへて、さらに檢討することとする。