國體護持總論
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絶對と相對の概念區別

まづ、前に述べた「峻別の法理」からすると、法律學は、原則としてデジタル思考の論理に基づき、アナログ思考の論理ではない。有效であると同時に無效であるなどといふ、有效と無效の中間領域ともいふべき鵺的な概念は存在しえない。裁判所がなす「判決」に至る審理は、立證責任(主張事實の存在を證據によつて證明しなければ不利益に認定されてしまふ立場)が事項毎に當事者のいづれか一方にあるのであつて、雙方が共に負擔することはないといふ徹底したデジタル世界(on or off )である。それゆゑ、判決は、その法律學の論理であるデジタル思考の論理が適用されるため、それが全部認容される全面勝訴の判決であらうが、全部認容されなかつた全部敗訴の判決であらうが、はたまた、その一部のみが認容される一部勝訴又は一部敗訴の判決であらうが、全て同じ論理で貫かれる。一部認容の判決と雖も、全體のうちの一部が數量的に可分的な判斷をなしうる場合であつて、全體が數量的でないものや不可分一體のものについて一部認容の判決がなされることは絶對にあり得ない。ところが、同じく裁判所が關與するものであつても、裁判上の「和解」の場合には、アナログ思考の論理が許される。それは、對立當事者が判決によらずに互讓により紛爭を解決するためであり、法律學の論理を排除することの合意も原則として認められるからである。かくして、法論理學においては、有效か無效かの區別は峻別され、集合論の論理で表現すれば、有效の集合と無效の集合との積集合は空集合(共通要素なし)であるといふことである。

ところが、無效とは、本來的に確定的に無效(絶對無效)を意味するが、ときには、その状態が不確定な場合がある。つまり、無效のものが何らかの要因によつて有效に變化したり、その逆に、有效のものが何らかの要因によつて無效になつたりすることがある。しかし、これは、同一の事象において、有效と無效とが同時に成立することを意味するものではなく、ある時點で有效であつたものがその後に無效となり、あるいはある時點で無效であつたものがその後に有效になるといふ場合である。それは、確定的有效、不確定的有效、確定的無效、不確定的無效といふもので、たとへば、詐欺、強迫によつてなされた法律行爲は有效ではあるが、その後に取消の意思表示をすれば無效になるといふ「取消うべき行爲」といふものや、無效の行爲を事後に追認することによつて有效となるといふ「無效行爲の追認」といふものである。これらは、峻別の法理の「例外」に屬するものとされるが、嚴密に言へば、これは峻別の法理の「應用」といふべきものである。つまり、これは、「確定」と「不確定」、「有效」と「無效」といふ二種の對立概念を組み合はせたものであつて、決して峻別の法理を否定したものではないからである。

そして、憲法といふ事象において、占領憲法の成立時(帝國憲法の改正時)には無效であつても、事後に有效となりうるか否かといふ議論は、それが確定的に無效であるか否かといふ問題に還元されるのであつて、占領憲法は帝國憲法の改正の限界を超えて國體を破壞する内容であることから、事後において追認などによる有效化が絶對にできないといふ意味で確定的無效(絶對無效)であることは前に述べたとほりである。

しかし、占領憲法が確定的に無效(絶對無效)であるといふことは、あくまでも憲法としては無效であるといふことであつて、それ以外の法令(法律、敕令、條約など)として效力を持ち續けるのか否かといふこととは全く別の問題である。既に述べた「確定的な無效」を「絶對無效」とも表現するので紛らはしいのであるが、これとは別に、一つの事象において無效なものが他の事象において有效であることを肯定するのを「相對的有效」と名付け、また、他の一切の事象においても無效であるとするのを「絶對的無效」と名付けることにより、相對と絶對といふ二つの對極概念を用ゐて區分をすることができる。

そして、このことを踏まへて、占領憲法を無效とする見解に共通することは、占領憲法が「憲法事象」において無效であるとする點であるが、「他の法令事象」の一切において無效であるとする「絶對的無效説」と、「他の法令事象」において有效であるとする「相對的無效説(相對的有效説)」とに區分することができる。

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