國體護持總論
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バーンズ回答の「subject to」問題

バーンズ回答については、第二章で詳細に述べた。

このバーンズ回答の問題點とその影響は大きいものがあるが、「subject to」問題は、つまるところ、外務省の背信行爲による我が國の「自繩自縛」、「自己滿足」が引き起こしたものである。

つまり、バーンズ回答には、

From the moment of surrender the authority of the Emperor and the Japanese Government to rule the state shall be subject to the Supreme Commander of the Allied Powers who will take such steps as he deems proper to effectuate the surrender terms.

とあつたところを外務省は、

「降伏ノ時ヨリ天皇及日本國政府ノ國家統治ノ權限ハ降伏條項ノ實施ノ爲其ノ必要ト認ムル措置ヲ執ル連合軍最高司令官ノ制限ノ下ニ置カルルモノトス」

と意圖的に誤譯した。つまり、「subject to」は、「從屬」、「隷屬」、「服從」の意味であつて、「制限の下におかれる」ではなかつたのである。

つまり、「subject to」を外務省ではポツダム宣言の受諾を推し進めて軍部の抵抗を和らげるために殊更に「制限の下」と誤譯し、軍部はこれを「隷屬する」と正確に理解したことから、政府内部の混亂を招いたが、結果的には、占領態樣は、まさに一貫して文字通り「subject to(隷屬)」であり、我が國の自由意志なるものは、この自繩自縛によつて喪失したのである。

ただし、このやうに翻譯による悲劇は、これだけではない。これも第二章で述べたが、昭和二十年七月二十八日、鈴木貫太郎首相は、「ポツダム宣言」について、「政府はこれを黙殺し、あくまで戰爭完遂に邁進する。」と聲明を出したが、その際、本來ならば、これを「靜觀する」(no comment)とすべきところを、それが弱氣であると捉へられることを避けて「黙殺する」といふことに決定した。そして、連合國では、この黙殺(ignore)を拒否(reject)と受け止めたことから、九日後に原爆投下といふ「迅速且完全なる壞滅」行爲に着手するに至るのである。

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