國體護持總論
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復元措置の手順

では、法體系の補正整備などの具體的な復元措置としては、どのやうな手順によるべきかについて檢討したい。

正統典範の復元措置としては、前述したとほりであるから、ここでは、正統憲法の復元措置について述べる。

帝國憲法第八條に基づき、占領憲法で設置された國會を帝國憲法第三十三條の帝國議會の代行機關とし、同第五十六條に基づく樞密院官制(明治二十一年敕令第二十二號)による樞密院の設置及びその組織運用等の細目については國務大臣(内閣)に委任する旨の「緊急敕令」の渙發を賜はることとなる。これは、いはば、天皇による實質的な「無效宣言の詔敕」であり、占領憲法を「帝國憲法の改正法」であるとしてなされた「公布」が「講和條約(東京條約、占領憲法條約)」の「公布」に「轉換」されてゐたことの詔敕を兼ねるものである。

帝國憲法第八條は、「天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル爲緊急ノ必要ニ由リ帝國議會閉會ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ敕令ヲ發ス 此ノ敕令ハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スヘシ若議會ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ將來ニ向テ其ノ效力ヲ失フコトヲ公布スヘシ」とあることからして、我が國の獨立後においても、連合國による法制度上の支配體制が繼續し、その國際環境とそれを如實に反映した國内事情によつて、これまで帝國憲法下の法制への復元措置をなしえなかつた事態は、「公共ノ安全」を冒し續けた「災厄」であるから、この復元措置のための緊急敕令(以下「復元緊急敕令」といふ。)が渙發される要件を當然に滿たしてゐる。それゆゑ、帝國憲法體制への復元のために渙發された復元緊急敕令により、國會が帝國議會の代行機關となれば、これまで缺損してゐた帝國憲法下の立法機關を補填することができる。そして、次の國會の會期において帝國議會の代行機關となつた「國會」に提出されることになり、復元緊急敕令の承諾が得られると、我が國は、獨立回復後初めて、復元措置のための基本法と同格の復元緊急敕令が有效に確定することになる。

占領憲法(講和條約)によつて帝國憲法が設置してゐた機關は悉く事実上廢止され缺損状態にあつたために、この機關缺損を補填することが必要となるが、缺損してゐたのは帝國議會だけに限らない。帝國憲法第五十五條の國務大臣(内閣總理大臣及び内閣)、同第五十六條の樞密顧問(樞密院)、同第五十七條の裁判所、同第七十二條の會計檢査院などもある。

しかし、占領憲法では、議院内閣制が採られてゐること、帝國憲法では裁判所と會計檢査院の設置と權限はいづれも法律事項であることからして、樞密顧問(樞密院)以外については、國會が帝國議會の代行機關であることが認められれば、これらの機關缺損は國會(立法機關である帝國議會代行機關)の權限により既に存在する現行法によつて概ね治癒されることになる。

つまり、裁判所については、これまで占領憲法(東京條約、占領憲法條約)が國内的に憲法的慣習法によつて設置された最高裁判所を廢止し、原則としてそのまま帝國憲法下の大審院として再編成すれば足りる。具體的には、『裁判所構成法』(明治二十三年法律第六號)を復活させて改正し、組織的にも人事的にも、大審院、控訴院、地方裁判所、區裁判所を階層構造を現行の最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所のとほり維持すれば足りる。

また、帝國憲法第五十六條の樞密顧問(樞密院)及び樞密院官制は、前述したとほり、敕令で復活することになるが、機關缺損状態が長期に亘つたためその組織及び運用等については整備に時間がかかるので、樞密院官制の具體的運用等を内閣に授權し、樞密院の代行機關として新たに「樞密代行院」を設置することが望ましい。

そもそも、帝國憲法で設置された機關(憲法上の機關)が、事後の措置によつても復活治癒できないときは、その機關は廢止されたものと看做すことができる。なぜならば、それは、「法は不能を強いるものではない。」といふ大原則があるからであつて、それは憲法と雖も例外ではない。憲法上の機關の缺損が復活治癒できないときは、その機關は廢止されたものと看做され、当該規定は失效ないしは停止状態となつて、その點についての憲法改正(憲法條項の削除改正)手續を殊更に必要とするものではない。

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