國體護持總論
トップページ > 著書紹介 > 國體護持總論 目次 > 【第五巻】第五章 復元措置と統治原理 > 第六節:國家機構改造

著書紹介

前頁へ

議會制度と内閣制度

占領憲法の議院内閣制を運用することは、帝國憲法に違反するものではない。帝國議會において内閣總理大臣に指名された者に大命降下されることは、立憲主義的運用として當然に認められるもので、戰前においても同樣であつた。

しかし、現行の選擧制度での議員は、議員になりたい人の中から抽出された立候補制であり、議員にならせたい人を抽出する制度ではない。制度の本質からして、德のある者を選別する制度ではないのである。知名度があることと德性が高いこととは別問題である。知名度とは、メディアに便乘した「功」があるに過ぎない。しかし、これまで述べてきた參政權の閉塞的情況が解消され、效用均衡理論による效用の均衡が實現していけば、自づと德のある人を選別できる機能が高まつてくる。

また、二院制を維持するとして、缺損機關である貴族院の代替機關として現在の參議院を認めるとしても、現在の參議院は衆議院と同樣の選擧による議員抽出制度であることからして、衆議院との獨自性を維持することは困難である。衆議院は人口比例代表とし、參議院は、地域代表制、産業代表制ないしは職能代表制などを採用して、廣範で多樣な國民の意志が反映される制度とすべきである。そして、試案としては、衆議院とは異なり、參議院においては、政黨政治を排除する必要がある。政黨所屬議員が進出できる領域は、衆議院だけに限定し、參議院、地方議會及び首長の選擧からは政黨を排除する。政黨が候補者に對し推薦や支持を表明することも禁止する。いはゆる支持政黨を持たない選擧民がどの既成政黨の支持率よりも多い現状からすれば、支持政黨のない者や支持政黨はあつても特定の事項についてその支持政黨とは意思を異にする者の政治意思を實現しうる選擧制度がなければならないのである。

これまで述べてきたとほり、政黨は、いまや國民が議會への意思を忠實に反映するについて、妨害となつてゐる面があることを否定できない。參議院が衆議院のカーボンコピーと化し、二院制の本來的機能を否定してしまつたのである。このやうな政黨政治の弊害を除去するためには、政黨自體を否定するのではなく、その機能領域を限定縮小することによつて矛盾の擴大を防ぐことになる。

また、これ以外に政黨のもたらした弊害としては「黨議拘束」がある。票決における黨議拘束は、國民代表制を否定するもので、議員は國民代表として國民全體の奉仕者となるのではなく政黨の奉仕者(從屬者)となるからである。そもそも、票決における黨議拘束とその違反者に對する制裁について、黨内民主主義によつて決定する手續がなされない政黨は、國民と議會との導管的機能のない政黨であるから、少なくとも公費助成は打ち切るべきである。


ところで、國政における現在の議院内閣制の運用を見ると、内閣に法案提出權(發議權)を認めてゐる。これは、内閣に法案提出權を認めることが議院内閣制の根幹であるとする見解によるものであつて、これによつて立法と行政との有機的關連と一貫性を實現することになると説かれてきた。しかし、現實は、内閣自體の法案策定能力がないことから、官僚がこれを行ふことになつて、實際は官僚に法案提出權を與へたに等しくなつたゐる。官僚に法案の策定を委ねることは、「全體の奉仕者」が「全體の支配者」となることを意味する。官僚は自己に都合の良い法案を策定し、これを内閣に實現させる。「國の將に亡びんとするや、必ず制多し。」(左傳)と云ふが、官僚は自己の權益を守るため、次々と法令を增産し國の活動を多く制限して行く。これが繰り返されることにより、官僚によつて内閣を支配する「官僚的内閣制度」が確立されるに至つた。これが官僚制による弊害の元凶となつてゐる。

それゆゑ、このやうな弊害を除去するためには、内閣の法案提出權を否定し、議員のみに法案提出權を認める制度(議員立法制度)に徹する必要がある。これによつて、權力の抑制と均衡が圖られ、議會が立法機關であるとする本來の姿を取り戻すことができる。

また、このやうな内閣の官僚依存體質は、豫算編成において特に顯著であつて、現状では、内閣には實質的な豫算編成能力がなく、これも全て官僚に委ねられてゐる。本來ならば、内閣が豫算大綱を決定し、その細目と積算等を官僚に指示するといふものでなければならない。イギリスなどでは、これらの官僚支配による弊害を除去するために、政治家と官僚との接觸を原則として禁止するが、本來の目的は、官僚依存體質の弊害を除去することであつて、接觸の禁止といふ形式にあるのではない。むしろ、これからの課題は、議員の法案策定能力をどのやうにして向上させるか、内閣の豫算編成能力をどのやうにして高めるのかといふことにある。

それゆゑ、これらについても、やはり公用均衡理論に基づき、議員以外の臣民にも一定の要件(相當數の提案贊同者、立法事實や提案趣旨の明確化、法文骨子の確定など)の下に、直接的に法案提出權を認める制度を導入する必要がある。臣民には、請願權(帝國憲法第三十條、占領憲法第十六條)があり、立法請願もできるが、これはあくまでも請願であつて法案提出ではない。政治參加の直接制か間接制かといふ議論は、住民投票とか國民投票など立法の最終段階における贊否の表明以前に、その立法過程に參加できるか否かに力點が置かれなければならないのである。

このやうに、選擧權を有する臣民が議員に賴ることなく直接に立法提案ができることになれば、議員になりたい者は、それ以上の自己研鑽を積まなければ、選擧民の支持を得た議員の地位を維持することができなくなる。そこに議員の德の向上が期待できるからである。

続きを読む