
新保護主義
このやうな反グローバル化運動の理念的背景の一つに、新保護主義がある。この新保護主義とは、元グリンピース・インターナショナルの經濟擔當者コリン・ハインズ、ロンドンのテムズ・バレー大學教授ティム・ラングなどが「地域や經濟、生活の保護に對する關心を再び呼び起こすことを狙ひ」として提唱したものである。これは、地元密着型の自給自足經濟を確立し、不必要な貿易や不健全な活動を制限するといふもので、世界經濟のグローバル化は急速に多國籍企業に權力が集中を招いてゐるとしてグローバル化に反對するものである。
そして、具體的には、次の七つの手段を主張してゐる(文獻190)。
すなはち、
①「國家及び地域レベルでの輸出入の制限」
地元で必要な製品やサービスを可能な限り地元で生産し、どうしても地元では手に入らないものは他の地域から調達し、海外貿易は最後の手段とするもの。
②「資本の統制」
資金が地元の投資に使はれるやう、銀行、年金、ミューチュアル・ファンドなどに規制を敷き、「地元を繁榮させるために地元に投資を」といふ政策を打ち立てるといふもの。」
③「多國籍企業の統制」
GATT(WTO)を廢止してでも、多國籍企業の活動を統制する必要があり、「賣りたい場所に據點を置く」企業だけに、經濟アクセスを與へるといふもの。
④「新競爭政策」
大企業の解體によつて、競爭的状況を作り、製品の改善、資源の效率的利用、選擇肢の提供などを行はせるといふもの。
⑤「自立に向けた貿易と援助」
GATT(關税および貿易に關する一般協定)をGeneral Agreement for Sustainable Trade(持續可能な貿易に關する一般協定)と變へ、地域の自立達成による最大雇用を目標に、地元經濟の開拓に焦點を當てるといふもの。
⑥「資源税の導入」
環境問題に對應するために、資源税を導入するといふもの。
⑦「政府の再強化」
これらのことを行ふためには、政府の力を強化しなければならず、國家、地方、地域レベルの政府が市場アクセスに關する統制力を持つやうにするべきであるといふもの。
の七つの手段を主張する。
そして、この新保護主義によれば、イギリスのやうな貿易立國は滅亡するとの反論に對しては、貿易が雇用や賃金の低下を招いてゐる現在ではグローバル化こそ滅亡の道だとの再反論を行ふのであるが、金融危機や景氣大變動が起こると、保護主義的主張は、心情的に大衆の贊同を集め、これに對して、現在の經濟構造を維持する勢力からは、保護主義的傾向への強い警戒心が叫ばれることになるといふのは、ある意味で象徴的な傾向と云へる。