自立再生政策提言

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連載:千座の置き戸(ちくらのおきど)【続・祭祀の道】編

第九十四回 食糧安保と土地安保

みづからが かてのすべてを うみだせば まほらまとてふ かたきかまへに
(自らが物資の全てを生み出せば眞秀玉といふ堅き構へに)

国の備へとは、軍備だけで満たされるものではない。我が国のやうに、四方海に囲まれた国家は、海が天然の堡塁であると同時に、物資の流入を困難にする障壁ともなりうる。持久戦を余儀なくされたとき、それは籠城となり、食糧の備蓄と、さらには自給はもとより欠かせない。


そ加藤清正が常在戦場として、熊本城を鉄壁の防備で固めた上、籠城に備へての通常の兵糧備蓄に加へて、壁土に籾米や干瓢などを入れて塗り込むほどの徹底した備へをしたことは、時を超えて西南戦争において薩軍敗走の契機となつたことからしても明らかである。西郷隆盛がいみじくも吐露した如く、薩軍は加藤清正に敗れたのである。


これは何を意味するか。つまり、国の備へ(防備)とは、軍備だけでなく、食糧備蓄が究極の兵站として必須となるといふことである。

孫子が、「是の故に軍に輜重なければ則ち亡び、糧食なければ則ち亡び、委積なければ則ち亡ぶ。」と説いたのもこのことであらう。


しかし、これだけでは足りない。さらに言へば、真の防備とは、敵に対する長期戦を覚悟した永続的な籠城であると言へることから、単に備蓄するだけではなく、備蓄が枯渇しないために、食糧その他の物資を間断なく補へる自給自足の体制が確立してゐることが必要となつてくる。


では、我が国の現状はどうか。


周囲は邪悪な国家に囲まれてゐることから、安全保障を考へるについてはどうしても軍備のことに関心が高くなるのはやむを得ないとしても、食糧備蓄と食糧の自給自足体制を忘れてはならないのである。軍事安保に目を奪はれて、自由貿易体制といふ国防上の危険思想に洗脳されて食糧自給率を低下させても危機感がなく、食糧安保は等閑にされてゐる。


それどころか、昨年(平成29年)4月、第193回国会では、森友学園問題といふ些末なことで大騒ぎしてゐる最中に、どさくさ紛れで、主要農作物種子法(種子法)廃止法とこれと一体となる農業競争力強化支援法(支援法)が可決成立してしまつた。


戦後の食を支へるため、コメなどの種子の生産と普及を都道府県に義務づけた種子法は、歴史的役割を終へたとし称して、これを廃止し、これと一体として成立した支援法は、これまで公的試験機関が有する種苗の生産に関する治験を民間事業者へ提供することを促進し、民間の力を活用して品種開発を進めるためのものであると説明されたが、その真の狙ひは、我が国の農業を壊滅的に破壊することにある。「民間」とは、実際には外国企業のことである。


季節や風土の変化に富む我が国では、多種多様なコメを地域に適した種を選んで、各都道府県が専門の施設や職員によつてそれを維持、管理、開発してきて今日に至つた。ところが、この蓄積された貴重な知見をモンサントなどのグローバル種子企業に譲渡してしまふと、これを利用してその圧倒的な資金量によつて新たな種子を開発し、その特許を取得する。そして、この手法により、世界の農家にその種子を提供し、同時に化学企業と連携して、化学肥料や除草剤をセットで販売するといふ方法でこれらの企業が世界の農業市場を独占してきた。


そして、現在は、強力な除草剤でも枯れない作物として開発したのが遺伝子組み換へ作物(GM)であり、これは食品としての安全性に疑問がある上、これを育てるのに用ゐられる除草剤は、健康被害や環境破壊を引き起こす危険が大きい。


さらに、モンサントは、数種の品種を掛け合はせたハイブリッド品種(F1、一代雑種)といふ育てるのに大きな手間のかからない品種を開発して、これを農家に売りつけるが、これは一代限りの品種で、種子の自家採取ができず、毎年この種子を買はなければ農業生産し続けることはできないのである。


初めは安価で販売し、これの依存体質となれば、徐々に価格をつり上げて多年に亘つて暴利を貪る。他に転作できない「ホールトアップ」状態の世界の農民は、F1品種で作物を作り続けなければならない「農奴」と化すのである。


このやうに方法で一国の農業をグローバル種子企業の隷属下に置くやり方は、すでにメキシコのトウモロコシ生産において、種子等の代金が余りにも高額となつてメキシコ農業が解体的被害にあつて大問題になつたことがある。


にもかかはらず、我が国も同じ危険な目に遭ふことが明らかなのに、我が国の農業をモンサントやシンジェンタなどのグローバル種子企業に支配させる目的で、TPPを推進させ、種子法の廃止と支援法の制定をあへて安倍内閣が行つたのである。


世界では、反モンサントなどグローバル種子企業の進出反対の運動が高まつてゐるの潮流の中で、我が国が種子法の廃止と支援法の制定をし、今年(平成30年)4月から施行されることになつたことは、我が国のみならず世界の食糧安保を危殆に貶める稀代の悪法であつて、これを強力に推進した安倍政権は、食糧安保を放棄した売国政権であると言はざるを得ない。


野党もまた、森友問題と種子法廃止問題とを比較すれば、どちらが国運に影響があるか、その優先順位がまるで解つてゐない。寄つて集つて愚かの極みである。国家は「愚によつて滅ぶ」とはこのことである。


国防が軍事安保だけで事足りるとする軍事オタクと、これに反対するだけの平和オタクに政治を任せると、我が国は危ふくなる。


国防は、「軍事安保」と「食糧安保」、そして、「土地安保」の総合的な政策によつて実現するものである。


ここで土地安保といふのは、かうである。


現在の我が国の外国人土地法(大正14年法律第42号)は、その第1条で、政令により相互主義を定めることができるとされてゐるものの、その政令は現在も制定されてゐないので、相互主義が採られてゐないのである。つまり、相互主義とは、相手国において我が国の国民が自由に土地を取得できる法制度になつてゐれば、我が国においても、相手国の国民の土地取得を同じ要件の下に認めるといふ国際基準のことである。


しかし、これが採用されてゐないため、中共のやうな私有財産制を認めない共産独裁国家の国民であつても、たとへ観光ビザで訪日した者にも土地の取得を認めるといふ亡国的な制度になつてゐるのである。


尖閣が中共の領土であると虚偽を並べ立て領海等を侵犯し続ける中共の領土的野心は、尖閣だけではなく、尖閣を含めた沖縄全域であり、さらにその魔の手は我が国全土に及んでゐる。

つまり、中共資本による北海道や沖縄の土地を始めとして全国規模で不動産の爆買ひが進み、土地囲ひ込みによる実質的な中共領土化が行はれてゐるのである。


さらに、対馬が韓国の領土であると妄言を吐く韓国資本による対馬の土地の買ひ漁りによつて、実質的な韓国領土化を狙はうとしてゐる。


これにより、地方自治が崩壊して内地が空洞化し、水源などを独占される問題が浮上してきた。


外国人土地法第4条では、国防上必要な地域における外国人・外国法人の土地取得を禁止し、あるいは制限する政令を定められることになつてゐるが、これも未だに制定されてゐない。


このことからすると、我が国は、「土地安全保障」を放棄した国家であると言はざるを得ない。祖先伝来の土地を粗末に扱ふ民族に将来はない。

土地を放棄すれば、食糧自給もままならない。完全自給を達成しうる計画も立てられないのである。


外国人土地法に相互主義と土地取得制限がなされないままであることから、土地安保は危険水域を越えて領土の空洞化が生まれてゐる。

そして、さらには、種子法廃止法と支援法の施行によつて食糧安保も危殆に瀕してゐるが、このまま手を拱いてゐては亡国の道を歩むことになる。

もう時間があまり残されてゐないが、諦めずに食糧安保と土地安保を全うする運動を根気強く続けなければならない。


この運動に取り組んでゐる人たちは、モンサントなどのグローバル種子企業に支配されると国内産のコメの値段が5倍とか10倍になると恐れてゐる。しかし、価格が跳ね上がるのが早いか、安い外米が入つてきて、一気に離農が進み伝統的な稲作農業などが壊滅させられることの方が恐ろしい。食糧自給率は限りなく零に近くなる。国内産の在来種、固有種のコメは、超富裕層の嗜好品として残るしか道はない。


しかし、勘違ひしてはならない。種子法が復元しただけで食糧安保が全うされると思ふのは短絡的である。真の食糧安保は、完全自給への目的を設定した基本政策によつて実現できるものだからである。


日本統治時代の韓半島では、農業振興政策により韓半島の人々の生活は豊かになり、そのために韓半島産の安いコメが増産されることになつた。ところが、それが一気に内地に流入して価格の高い内地米を圧迫し、東北などの米専業農家のコメが売れなくなり極端に疲弊した。

そのため、家族の糊口を凌ぐため妹や娘を遊郭などに売り飛ばさなければならなくなつた米専業農家も多かつた。


その妹を悲しく見送ることしかできなかつた兄が軍隊に入隊して初年兵となつたとき、不自由なく部隊食が食べられる自己の境遇は、妹の不幸を踏み台にした結果ではないのかとの罪悪感から、涙ながらに語つた身の上話に、強い惻隠の情を抱いて共に涙した上官の青年将校が、財閥に迎合した政府の農業政策の大きな歪みに対して素朴な強い憤りを抱いて蹶起したのが二・二六事件の心情的側面であつたことを思ふと、今の状況は、二・二六事件が百回起こつても不思議ではない強烈な危機感を抱かざるを得ない。


食糧安保と土地安保とは、皇土保衛に不可欠なものである。昭和20年6月8日の御前会議においてなされた「聖戦完遂」、「國體護持」、「皇土保衛」の三大国策の決定は、未だ取り消されてはゐないことを強く自覚しなければならない。


南出喜久治(平成30年3月1日記す)


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