國體護持總論
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著書紹介

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維新

これまでクーデターに關する樣々な樣相を述べてきたが、我が國における政治的動亂は、その目的が成就したか否かを問はず、その高い精神性に特徴がある。特に、國體を護持し、國體に回歸するといふ傳統保守の復古的方向を持つたものについては顯著である。

國體の破壞ないしは變更を伴はず、むしろ、國體護持のための政治刷新がなされる場合、たとへそれが暴力を伴ふものであつても、それを「維新(非革命)」と定義すれば、維新は、單なる自己の利益獲得のためのクーデターとは異なり、國體と一體融合した精神性を持ち、その義擧をなす使命感とこれに殉ずることが崇高な名譽であるとの確信に支へられたものである。

一般に、法律學においては、所有權が侵害されたとき、それが侵奪以外の方法で妨害されたときは、その保持を全うするために妨害の排除を求め(妨害排除請求權)、妨害されたり侵奪されたりする恐れ(危險)が差し迫つてゐるときはその保全のための豫防措置を求め(妨害豫防請求權)、さらに、それが妨害の程度を越えて占有を侵奪されてしまつたときは占有を回收して返還を求めること(返還請求權)ができる。この保持(妨害排除請求權)、保全(妨害豫防請求權)及び回收(返還請求權)の三態樣は、その所有權から湧出する物權的請求權として所有權と一體のものとして認められてゐる。

このことからすれば、我々が祖先から受け繼いだ國體は、いはば、個々の所有權を遙かに超えた祖先の全財産であるから、それが妨害されたり侵奪された事實があり、またはその行爲が行はれようとするときは、國體から湧出する權利として、これを保持し保全し回收して國體を防衞する權利(祖國防衞權、國體防衞權)が認められることになる。これは、後に述べるフラクタル理論(雛形理論)によつても裏付けられるもので、これが維新の原動となる核心である。

ちなみに、本書では、「先祖」と「祖先」とを同義とし、統一して「祖先」と表記する。先祖(とほつおや)、上祖(かみつおや)の表記が本來であり、祖先は、明治になつて英語の「ancestor」の譯語として使用されたことに由來するものであるが、祖先崇拝などの用語例と統一するために、ここでは便宜的に「祖先」として表記することとした。

閑話休題。人には、決して他人の所有權を侵害したり、奪つたりする權利はない。それゆゑ、人の權利を奪ふことを正當化するかの如き「革命權」なるものは到底認められない。これは裸の暴力であり犯罪であつて「權利」ではない。むしろ、それを行つてはならない「義務」がある。それゆゑ、革命といふ非權利の犯罪から國體を防衞する權利(反革命權)であるところの祖國防衞權(國體防衞權)とは雲泥の差がある。

そして、祖國防衞權(國體防衞權)は、個々の臣民にそれぞれ歸屬してゐるものであるが、決して私的な權利ではなく、公的なものである。祖國とその構成員である臣民全體が享有する權利であると同時に、祖先から繼承された國體を護持してさらに子孫へと世襲させなければならない義務を伴ふものである。これは崇高なる權利であると同時に、名譽ある義務なのである。これは、「高い身分に伴ふ義務」(ノブレス・オブリージュ noblesse oblige)といふやうな身分特權ではなく、臣民固有の普遍的な權利であり義務であり名譽である。これら點については後に再び觸れるが、この祖國防衞權こそがこれまで脈々として受け繼がれてきた尊皇運動の法的根據なのである。

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