國體護持總論
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國家の概念

以上のことを踏まへれば、國家の本質部分は「國體」といふ生命維持の本能であるので、法律學的な見地だけでは、國家の概念を定義することはできないことになる。ましてや、國體、祭祀、統治といふそれぞれの側面を總合的に考察することも甚だ困難である。そこで、やはりひとまづは、統治の側面に限定して、國家の唯物的な「屬性」についての定義を試みることとする。つまり、これまで、國家の概念については、樣々な定義がなされてをり、政治的なもの、文化的なもの、法律的なもの、といふやうに視點の相違によつても異なるために、ここでは勿論法律的なものに限定して進める。しかし、その觀點から考察するとしても、世界には國家と呼ばれるものやそれに準ずるものが數多くあるので、これらに共通した屬性を要件として歸納的に定義する方法が一般に用ゐられてゐるのでそれに從ふことにする。それは、國家の要素(特性)として、①恆久的住民、②支配領域、③統治權力(政府)、④對外的獨立の四點を滿たすものを國家の實質的要件であると定義するのである。

①の恆久的住民といふのは、生活態樣において定住といふことに限定はされないが、ある程度の移動範圍はあつても、②の支配領域内に生活をする住民が存在することである。  次に、②の支配領域といふのは、領土、領海、領空が存在することである。これは、次の③の統治權力(政府)が、支配する領域が存在することである。領土については説明の必要がないが、領海と領空については若干説明を要する。

現在、わが國では、十二海里を原則として、津輕海峡と大隅海峡については、從來通りの領海の範圍である三海里としてゐる。この三海里といふは、當時において艦砲射撃で砲彈が領土に着彈できる距離であつた。ミサイルの時代の現代においても、艦砲射撃の着彈距離を基準とするのは餘りにも古色蒼然としてゐるが、このことから解るやうに、領海とは、あくまでも主として領土防衞のための海洋領域であつた。領海はその沿岸國の主權の領域であつて、他國は原則として領海内を航行することができないが、例外として、他國の船舶が海上交通の便宜として、自國の國旗を掲げて迅速かつ繼續的に航行するなど、沿岸國の平和、秩序、安全を害さない限度と態樣においてのみ通航することを沿岸國は受容しなければならない。これを無害通航權といふ。

また、領海より先には、これに加へて、「接續水域」といふものがある。これは、領海の外側のさらに十二海里(通常は沿岸から二十四海里)以内に定めることができる海域のことであり、通關、財政、出入國管理、犯罪檢擧、衞生、防疫、海洋汚染防止など目的から設定されたものである。これらは、『領海及び接続水域に関する条約』(昭和四十三年條約第十一號)及び『領海及び接続水域に関する法律』(昭和五十二年法律第三十號)に基づいて定められた。そして、さらに支配海域が擴張されて、『漁業水域に関する暫定措置法』(昭和五十二年法律第三十一號)などにより「二百海里漁業專管水域」を設定し、さらに、『海洋法に関する国際連合条約』(平成八年條約第六號)及び『排他的経済水域及び大陸棚に関する法律』(平成八年法律第七四號)に基づき、漁業以外の海中及び海底資源に對する管轄權を追加して、沿岸から二百海里の經濟的な主權の及ぶ水域としての排他的經濟水域(Exclusive Economic Zone, EEZ)」が設定され、その先が公海となる。

次に、領空とは、領土及び領海の上空であり、その上限は明確には定まつてゐないが、いはゆる宇宙空間には領空權は及ばない。この區域(空域)は、領海とは異なり、完全に排他的な對外主權がある。領空に侵入してきた未確認航空機は、警告の後に撃墜することができる。それゆゑ、領海の同じやうな無害航行權なるものは一切認められない。その不都合さを緩和するために、『國際民間航空條約』(その前身が『パリ國際航空條約』)が締結され、締約國の國籍がある民間航空機は、領域國の着陸要求に從ふ事を條件として、事前許可なく航行し着陸する事ができるやうになつた。

ところで、③の統治權力(政府)と④の對外的獨立とは、内において住民を統治し、外において對外主權(獨立状態)と外交能力があることを意味する。ここでいふ「主權」とは、對外的な意味での「獨立」を意味し、「國家主權」とか「對外主權」と呼ばれるものであつて、これまで述べてきた國民主權や天皇主權などの主權論における「主權」(對内主權)の概念とは全く別の意味であるから嚴格に區別する必要がある(主權概念の二義性)。

さて、この「對外主權(國家主權)」があるといふことは、他國から自國の國内問題を干渉されないといふこと(國内問題不干渉の原則)が貫かれ、それが外交能力の有無を決定づけるのである。もちろん、外交能力の背景には、自衞權とそれを支へる軍事力が存在することである。

ただし、現在の國際連合(以下「國連」といふ。)において、『國際連合憲章』(資料二十二)第二十五條(決定の拘束力)には、「國連加盟國は、安全保障理事會の決定をこの憲章に從つて受諾し且つ履行することに同意する。」とあり、その限度で對外主權が制約されてゐることになる。これは、國連加入條約による對外主權の制約であるが、『外交關係に關するウィーン條約』(昭和三十九年條約第十四號)及び『領事關係に關するウィーン條約』(昭和五十八年條約第十四號)によつて、追認的に締結されてきたもので、これまでの國際的な外交慣例として認められてきた治外法權、外交特權などの特權と義務の免除もこれに含まれる。そして、これと同樣に、國家間の爭ひにおいて、ある國の裁判所において他の國家が被告となつた場合に、國際法上の主權平等の原則から、その國の裁判權から當該他の國家は免除されるといふ「主權免除(裁判權免除)」もまた、對外主權の制約と云へる。これについては、その免除される法律事象の範圍と效力に關して、絶對免除主義(他の國家が被告となる場合には必ず主權免除を認める見解)とさうでない見解(相對免除主義)があるが、いづれにせよ國際慣習法として確立してゐる。

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