國體護持總論
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我が國の課題

このやうに、これまでの思想戰爭は、共通した構造を持ち、しかも、それは敗戰によつて終了するものではなかつた。むしろ、敗戰後の占領統治によつて敗戰國が再び戰勝國に反抗しえないやうに仕上げることが思想戰爭の目的であり、占領統治こそが思想戰爭の本番なのである。

そして、大東亞戰爭は、世界最大の思想戰爭であつたために、その熾烈さは格別であり、今もなほ思想戰爭は續いてゐる。

そして、第六章で詳述するやうに、これらの歐米の思想戰爭で實現しようとした世界構造は、GATT(WTO)、IMFなどによるブレトン・ウッズ體制による自由貿易の推進、世界貿易の擴大及び世界金融の統合を理念とする「世界主義」(グローバリズム、Globalism)である。これらの歐米自由主義は、同じく歐米で誕生した共産主義と思想的源流を共通にしてゐる。いづれも、常に世界(歐米)の福利は生産の擴大がもたらすものであつて、その生産力と生産量は分業體制の深化に伴つて擴大するとの「生産至上主義」に支へられ、この「分業の深化」と「市場の擴大」による「生産と消費の擴大」が世界(歐米)の歴史の限りない進歩發展を約束するとの豫定説的な單線的發展史觀に基づいてゐる。兩者は、その後の歴史において、鋭い思想的對立と東西冷戰構造を生み出したが、兩者の違ひは、生産物の分配基準と方法の相違に過ぎない。單に、いづれの發展史觀思想が覇權を得るかを巡つて、近親憎惡にも似た對立を繰り廣げたに過ぎなかつた。世界全地域を世界經濟への完全依存體質として世界一體化を謀る「世界主義」によることは、食料・資源・エネルギーの自給率の低下を招く。安定國家を目指す我が國の國是とは正反對の方向へと向かふため、大東亞に地域的な經濟ブロックを建設して安定國家の實現を目的としたのが大東亞共榮圈思想である。これは、歐米思想とは全く異なる源流から發した我が國の獨自思想であり、「世界主義」に對抗する「地域主義」(リージョナリズム、Regionalism)であつた。しかし、その基本理念の歴史的意義は大きいが、具體的内容において未完成なものだつた。

いづれにせよ、我々は、歴史の光と陰を見つめ、過去の功罪を直視し、東亞とその他全世界の地域の同胞に對し、過去の歴史的事實の認識における相互の大きな歪みを誠實に是正しなければならない。そして、忌憚のない意見交流が可能な環境を形成し、眞摯な相互理解と協力の下に再び強い友好關係の絆を結び、「南北問題」の解消と世界各地域の平和共存の實現を目的として平和裡に安定した世界の建設に傾注することこそ眞の國際貢獻であり、さらに、地球と宇宙の慈悲に報いるため、危機的な地球環境の改善をはかることが、これからの我が國の理想と責務であることを自覺しなければならないのである。

日本を含め世界の諸民族の多くは、政治的には獨立を實現したものの、ヤルタ・ポツダム體制を承繼した國連體制、GATT(WTO)・IMF體制及びNPT體制による連合國の「世界主義」に組み込まれ、南北問題と地球規模の環境破壞による諸問題に喘いでゐる。この世界主義は、連合國以外の世界の多くの國家において、食料、資源、エネルギーなどの基幹物資の自給率を著しく低下させ、地球の壞滅的危險を孕んでゐる核兵器と原子力發電に世界の政治と經濟を依存させることにより、世界のどの地域に内亂や紛爭が起こつても、世界全體が一蓮托生の危機に直面することになる。これらの不安定要因は、産業革命に始まる「生産至上主義」と「自由貿易主義」に起因し、その世界的擴大によつて全ての問題は一層深刻化した。そして、國内においては「官僚統制國家」が出現し、世界においては「國際覇權主義」が臺頭し、國の内外におけるこの二つの「全體主義」が我が國と世界と地球を蠶食し始めてゐる。この原因は、生産至上主義と自由貿易主義に基づく世界主義と人間中心思想にあり、このまま突き進めば、政治的には全體主義が蔓延し、地球的規模の環境破壞がさらに進んで經濟的にも破綻が訪れる。まさに地球は「飽和絶滅」の危機にさらされてゐるのである。

第六章で述べるとほり、この壞滅的危機の状況から、我が祖國を救ひ、世界を救ふためには、大東亞戰爭の依據した大東亞共榮圈思想をさらに發展させ、我が國の國體から導かれた「自立再生論」の實踐によつて世界を救濟する以外にありえない。自立再生論は、發散指向の世界主義に對抗しうる唯一の體系的理論であつて、収束指向に基づく新しい世界思想である。それは、從來の生産至上主義の産業構造では無視されてきた産業廢棄物の再生過程に産業的主眼を置き、化石燃料やウランなどの再生不能資源に依存せず、單位共同社會において再生可能資源による基幹物資の完全自給を實現することにより、世界の安定と平和を達成しようとするものである。これによつてのみ全體主義政治は終焉し、自立再生經濟が確立する。そして、これを率先垂範して理想世界を實現するためには、先づ、我が國においてこれを實踐し、現代日本を覆つてゐる二つの醜雲を祓ひ除けて國體を明徴することから始めなければならない。

その旗印は「祓庭復憲」である。「バッテイフッケン(フッテイフッケン)」と音じても「にはをはらひのりにかへる」と訓じても可である。

「祓庭」とは、一義的には、東京裁判の「軍事法廷(庭)」が行つた誤謬と弊害による穢を除き祓ひ清めることを指す。東京裁判の強行が國際的犯罪であつたことを世界が認め、裁判主宰國である連合國の眞摯な謝罪によつて東京裁判の無效を宣言して禊を行ふことである。また、多義的には、東京裁判史觀とそれによつて穢された朝廷、議會、役所、法廷、企業、團體、家庭など日本の全ての「庭(社會)」を祓ひ清め、第六章で述べるとほり、自立再生論により日本と世界に正義と安定を實現することを意味する。

また、「復憲」とは、一義的には、占領典範と占領憲法の無效を確認的に宣言し帝國憲法その他の正統憲法を政治的に復元することを指す。これは、占領憲法の有效を前提とする「護憲」論や「改憲」論とは根本的に異なる。無效の占領憲法の下で從來まで制定運用されてきた法律制度は、帝國憲法との整合性が保たれ、これと矛盾牴觸しない限度において、その法的連續性と法的安定性が維持され、必要最小限度の改廢措置が行はれるのである。また、多義的には、萬世一系、王覇辨立、一視同仁、自立再生などを内容とする日本の國體を明徴し、その世界普遍的な「憲(のり、正義)」に基づいて、我が國及び世界を理想社會に回歸させることを意味するのである。

我々は、自立再生論の實踐によって諸民族が「共生」しうる輝かしい未來を實現するために、身を殺して仁を成した大東亞戰爭の「榮譽」が「恥辱」に塗り替えられるに至つた歴史的事實の歪みを「矯正」することから始めなければならない。ここに、我が國と全世界において、草莽崛起による祓庭復憲の廣汎な無限連鎖運動を展開すべき傳統的使命を自覺するものである。

繰り返し述べるが、大東亞戰爭は、歐米列強の植民地支配から大東亞を解放して、諸民族の自決獨立を實現し、その各傳統に基づく互惠と共存共榮の新秩序を建設しようとする「思想戰爭」であつた。我が國は、その世界革命思想の理想を武力で實現しようとした戰ひには敗れたが、我が國の決起が大東亞諸民族の自覺を育み、その結果、大東亞の解放と獨立を實現した。それゆゑに、戰勝國である連合國は、報復のため、我が國の「思想」と、それを育んだ「國體」を熾烈に斷罪し、その兩足に大きな足かせをはめた。思想への足かせは、「極東國際軍事裁判(東京裁判)の斷行」と「東京裁判史觀の洗腦」であり、國體への足かせは、「帝國憲法の否定」と「占領憲法の制定・施行」である。大東亞戰爭は惡であり、その根源が帝國憲法にあるとの誤つた觀念を植ゑつけ、反日主義者を量産して、我が國の解體を企てたのである。そして、この二つの亡國の足かせが、現代日本社會の政治、經濟、文化、教育を今なほ支配し續けてゐるのである。このまま、東京裁判と占領憲法といふ二つの醜雲を放置し續けるならば、我が國は、「武に敗れ文に滅ぶ」こと必至である。

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